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勇者の杖の魔法使い  作者: mito
八章 憎しみの終末、そして旅の終末へ
33/40

33話 一つの真逆

読書の皆様にこの作品を楽しんでもらえますように...。

目が覚めると、私のそばにソフィアがいた。どうやら気を失っていた私を護ってくれていたみたいだ。いや、今はそれよりも大切な事がある。

「おいソフィア!アペタイトは...」

「カミラさん、お願いです。どうか、シャルロットさんを...止めてください...!」

そう言われて、強大な魔力を感じる方に振り向く。そこにはあのアペタイトをほぼ一方的に攻撃しているシャルロットがいた。最初はその光景に驚きはしたが、ある事に気づいた。あいつ、笑いながら戦っている。あれは、なんだ?

「シャルロットさん...苦しんでます。分かるんです...この力があるから、分かるんです...!」

「っ...!くそっ、シャルロット!」

一瞬シャルロットの気が逸れて、アペタイトの攻撃が直撃する。しくじったと思った矢先、すぐにあいつの笑い声がして、無数の魔法が放たれた。

「4917万1114回!これが何の数字か分かるか!」

「さあ?興味がありませんよ!」

アペタイトの速度が上がり、シャルロットがおされ始める。このままじゃシャルロットの身が危ない。

「"暴風の大鎌(ヴィントゼンゼ)"!」

「おや、起きたのですか。ククッ、今まで何も出来なかったあなたが今さら何を...」

無数の魔法が飛んできて、私に掠る。私にまで攻撃が飛ぶだなんて、今までのシャルロットからじゃ考えられない。本当に、正気じゃないみたいだな。

「どけっ!」

「シャルロット!」

シャルロットに飛びついて、彼女を抑える。このまま正気に戻らなければ、先に身体が壊れてしまう。今のこいつは正気じゃない、ただ本能のままに奴を殺そうとしてる。そんなんじゃ、奴には勝てない。

「ちっ、離せよ!なんで、私の邪魔を...!」

「正気に戻れバカ!このままじゃ、お前が死ぬぞ!」

「うるさい!」

シャルロットが私を突き放して、アペタイトの方へ向かおうとした。このままこいつを行かせない。一緒に戦おうって言ってくれたのはお前だ、私を救ってくれたのはお前だ。絶対に、1人にはさせない。

「止まってよ...!バカ!」

シャルロットに抱き着く。もうこんなお前は見たくない。だから、今度は私が正気に戻してやる。

「さっきの数字、4917万...1114だっけ?あれ、今までお前がこの世界を繰り返した数なんだろ?」

「っ...!」

「分かるよ。お前が私の事大好きなように、私もお前の事大好きなんだよ。だから、こんなお前は見たくない。休んでいいよ、後は私に任せればいいよ。だから、頼む...」

彼女の頬に私の涙がこぼれ落ちる。せっかく色々と我慢してきたのに、これは我慢出来ないのかよ。

「お前の幸せな顔を、私に見せてくれよ...」

私の背後に背の高い影が迫り、私は咄嗟にシャルロットを突き飛ばして振り返る。だが、その影は一瞬で消え、シャルロットの後ろに現れた。

「っ!シャルロット!」

私が振り向くと、私の視界に赤い液体が見えた。奴の爪が、シャルロットの胸を貫いていた。



暗い闇の中、私は独りだった。身体中が痛い、苦しい。けれど、それでも私の身体は動いた。いや、動かされていた。

「殺す...殺す...殺す...!」

鎖に繋がれた彼女が、必死に魔人を殺そうと手を伸ばす。けれど、その手はあの魔人に届くことはない。その事実が、彼女が魔人に勝てない事を物語っている。

「お前を殺す為なら何だってした...!家族を殺した!友を殺した、親友を殺した!人類を殺した、魔族を殺した!それなのに、なんで...なんで、勝てないんだよ...!なんでこれだけやったのにお前だけは殺せない!?魔王すら倒せたというのに、なぜ...!」

彼女が座り込み、膝を抱える。泣き声のように小さく、掠れた声で叫んだ。

「もう、見たくない...。何も見たくない、何も聞きたくない、何も感じたくない。でも、やらなきゃ...今まで死んだあいつらの為にも、私がやらなきゃ...!殺さなきゃ、もう何万回繰り返しても...!もう何億回繰り返しても、私が...!」

再び手を伸ばそうとした彼女の手を受け止めて、彼女を抱き寄せる。これ以上、私は彼女が苦しむ姿を見たくない。

「大丈夫、もう大丈夫だから。あなたはもう独りじゃない、今は私もいる。あなたがいるのに、私もいる。その理由が、やっと分かったよ。」

「何を、言って...」

この世界の私、つまり今の私だけが彼女には取り込めなかった。なんで私だけが特別なのか、なんで同じ世界に私が2人いるのか、やっと分かった。

「私は、あなたを救う為に生まれたんだ。この負の輪廻を終わらせる為、あなたの苦しみを終わらせる為に。」

彼女が私を突き飛ばして、涙を流しながら激怒する。彼女は、怒りの籠った声で私に言った。

「...ふざけるな。だったら、今までの私の苦労はなんだったんだ!?今までの私の行動は全て、無駄だったと?ああそうかよ!結局私は...!」

「私だけじゃ勝てないよ。」

「は?」

彼女の目をまっすぐに見つめる。彼女が今まで積み上げてきたものは決して無駄ではない。今まで彼女が必死に足掻いたからこそ、今の私がある。それに、私だけの力じゃ奴には勝てない。彼女の力は、絶対に必要なんだ。

「あなたは何のために世界を繰り返したの?仇を打つ為?奴を殺す為?違うでしょ、あなたはみんなを助けたかった。もう二度とあんな惨状を起こさない為に繰り返した。」

彼女の手を取り、涙を流す彼女に問いかける。これは残酷な事だと分かっている。けれど、それでも私は彼女にそうお願いした。

「ねぇ、みんなの為に...いや、みんなを救いたい私の為に、死んでくれる?」

しばらくの沈黙の後、彼女は笑みを浮かべた。彼女の目に灯る光は、希望の光だ。

「ああ、当たり前だ!」



ふと、シャルロットから魔力を感じた。本来ならば、死した者からは魔力が抜け出る。それなのに、彼女からは強い魔力を感じたのだ。

「...暗闇を照らすは希望の灯火。世を照らすは偉大なる恒星。」

「っ!まさか...!」

シャルロットの杖が光り、アペタイトの目の前に魔法陣が現れる。これは、シャルロットの詠唱魔法だ。

「塵と化せ、"炎魔マギア・フラム"。」

今までに見た、どの血よりも赤く。今までに見た、どの炎よりも熱い炎の魔法が放たれた。シャルロットの髪が白い髪に戻り、一筋の黒が混ざる。

「シャルロット、お前...」

顔を上げた彼女は、赤と青に輝く瞳を灯していた。

今回のお話、楽しんでいただけたでしょうか?ぜひ、応援よろしくお願いいたします!

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