32話 聖杖と勇者の杖
読書の皆様にこの作品を楽しんでもらえますように...。
レオンさんを下がらせて、私があの竜の前に立つ。今まで、みんなの後ろに隠れて戦っていた。だから怖い、こんな化け物と真っ正面から対峙するのは、怖い。けど、そんな恐怖はもう要らない。
「レオンさん、カミラさんを頼みます。」
「ああ、気を付けろよ。」
竜に向かって走り出すと同時に、あの竜は素早く動き、私の背後をとった。動きを追うだけでも精一杯、でもそれでいい。私には魔法がある。
「"護りの祈り"!」
竜の攻撃を結界で受け、結界の形を変化させて奴の足に貫通させる。この戦い方なら、私も十分戦える。あとは、詠唱をする隙を見出すだけ。
「っ...!速い!」
あの竜が更にスピードを上げて対抗してくる。ギリギリで防げているけど、このままこの状況が続けば先にやられるのは私だ。なら、私から動く!
「"癒しの祈り"!」
結界を意図的に解き、ギリギリで攻撃をかわして魔法をぶつける。治癒属性は魔族に有効打になり、さらに不死魔族にとっては致命打になり得る。
「っ...!"護りの祈り"!」
私は結界ごと地竜に殴り飛ばされる。私が治癒魔法をぶつけたのにも関わらず、あの竜は即座に攻撃を仕掛けてきた。治癒属性の効き目が薄い...まさか、この地竜は...
「聞いた事がある、かつて神の植えた大樹を守護する聖なる地竜がいたと...」
もし、この地竜がその地竜なのだとしたら、彼の正体が分かったようなもの。その大樹とは現在の魔樹のことで、それを守護する竜がいる。それはリーニエントさんの手記に書かれていた魔樹の守護者、レイジ。どうりで、治癒属性の効き目が悪いわけだ。
「これは、ちょっと予想外かも...」
「ギャルルル...」
その瞬間、竜の目が光り、私の魔力が乱れた。これは...威圧?それも、精神に直接干渉するような...。まずい、このままじゃ何も出来ない。魔力が練れない。
「あっ、待って...」
「ソフィア!」
竜の爪が目の前に見えて、その直後に大量の血が視界に入った。胸に激痛が走り、私はその場に倒れ込む。瞬時に理解した。私は、動けなかったんだ。
視界がぼやけて、身体中に力が入らない。レオンさんの叫ぶ声が聞こえる、でも何も出来ない。このまま、私は死ぬのだろうか?怖い、死ぬのが怖い。
...今、私は何て言った?怖い?そうだ、怖かったんだ。あの時、魔力が乱れた、それは怖かったからだ。あの竜の圧に負けて、私は何も出来なかった。情けない、たとえ奴が私の精神を傷つけたとしても、それで傷つけられたのは私の心が弱いからだ。みんな必死に戦ってきた、今も必死に戦ってる。それなのに、私は怖くて動けませんでした?ふざけるな。この旅を始めた時、とっくに死ぬ覚悟は出来てなかったのか?ソフィア、お前はいつまで子供でいるんだ...私は今、勇者一行の1人なんだ。立ち上がって、戦わなければならない。そうでしょ?ソフィア・サクレ!勇者一行の僧侶としての責任を果たせ!みんなの仲間としての勇気を示せ!私は聖女...いや、勇者一行の僧侶ソフィア・サクレだ!
「護れ、"護りの加護"!」
竜の前に立ち、彼の攻撃を防ぐ。もう魔法によって身体にできた大きな傷は治っている。
「私だって...みんなを護りたいんだ!」
結界が光り、あの竜が吹き飛ぶ。今度こそ掴めた。ずっと手の届くところにありながら、掴めなかったその力を。聖女の力を。
「ギャルルルル...!」
竜の目が光り、また奴が私を威圧する。それでも私は真っ直ぐに奴を見つめる。もう大丈夫。恐怖はさっき、捨ててきた。
「聖杖よ、私の願いに応えよ。」
私の持つ杖が変化し、大きな結晶が埋め込まれた私の背よりも高い杖に変化する。これはかつて聖女と呼ばれた者が持っていた杖で、名前は彼女の名前からとられた。"聖杖ソフィア"、確か私の名前も聖女の名からとられたんだっけ。
「私を護れ、"守護の祈願"!」
魔法陣の文字がそのまま刻まれた聖女の結界を何重にも張り、自身を護る。そして、私は結界の中で魔法を唱え始めた。
「我は神によって創造されし聖女。我は神の祝福を受けし聖女。魔を滅する為、我は再び神の御加護を望む。」
あの竜は私の結界を必死に攻撃し、破壊する。だが、この結界は自律型の魔法陣を施してあり、破壊しても結界は再生する。
「我が望むは魔を封ずる鎖。我が望むは魔を滅する光。かの魂を浄化せし、その力。我は神に願う者、我が名はソフィア・サクレ。」
黄金に光り輝く鎖が竜を捕らえる。そして、幾重の魔法陣が竜の天に展開される。
「ああ、神よ。哀れなる魂に、救いを与えたまえ!」
これは聖女のみが使える究極の魔法。5属性から逸脱した、聖なる魔法。魔を滅する、神の御業。
「"救済の矢"!」
一筋の光が竜を射抜き、邪を浄化した。地竜は消え、光の粒子となる。それを確認して、私はその場に座り込んだ。そんな私の頭に、手が置かれた。
「よくやった、ソフィア。流石は勇者一行の僧侶だ!」
「へへっ、やってやりました...!」
カミラさんの身体が完治し、彼女は翼を広げた。レイジを倒したとはいえ、まだアペタイトやシャルロットさんどうなったかが分かっていない。まだ、戦いは終わっていないんだ。
「レオン、お前はソフィアを護ってやってくれ。アペタイトは、私とあいつの2人でぶっ殺してくる。」
「ああ、任せたぞ。早く行ってやれ、シャルロットが心配、だ...」
その時、館の壁が壊れて背の高い影が見えた。その影から感じる魔力は衰えを知らなかった。そこに、シャルロットさんの姿はなかった。
「クックックッ、その必要はありませんよ。私から出向きますから。」
「っ...!お前、シャルロットはどうした?」
奴はその姿を現し、にやりと笑みを浮かべた。そして、指に付着した血を舐めならが答えた。
「彼女は、もう死にました。」
「っ...、殺す!」
カミラさんが奴に襲いかかる、だが奴はやすやすと攻撃を避け、カミラさんを蹴飛ばした。
「感情に任せた攻撃は単純で避けやすいと教えたでしょう。まあ、無理はありませんが。」
レオンさんが奴の背後をとり、不意打ちを仕掛ける。だが、奴はその不意打ちすら受け止めた。
「よい判断ですが、あなたは魔力をかなり消費してしまっている。そこの聖女もそうだ。唯一戦えるカミラは今さっき私の攻撃をまともに喰らった。もう希望は無いのですよ、あなた方には。」
絶望感、その感情が私を支配した。もうみんなボロボロで、シャルロットさんでさえ奴にかなわなかった。今度こそ終わりだ、シャルロットさんがなぜこいつをあれ程までに警戒していたかよく分かった。こいつは、今まで会ったどの魔族と比べても格が違う。あの魔獣でさえも霞んでしまう程に。
「さて、まずはあなたからにしましょうか。」
「ひっ...」
瞬きをした瞬間、奴が私の背後に立った。そして爪を振りかざし、再びにやりと笑みを浮かべた。
「では、2人目!」
目を閉じて、死を待った。でも、いつまで経っても痛みは感じず、感覚は残っていた。状況を理解しようと目を開ける。するとそこにはアペタイトはいなくて、私の前には血塗れのシャルロットさんが立っていた。
「シャルロットさん...?アペタイトは、どこに...」
「あはっ...あはははははははは!」
シャルロットさんが声を上げて笑い始めた。彼女の髪は完全に黒く染っていて、あの時の彼女を彷彿とさせる。でも、違う。あの時の彼女でも、いつもの彼女でもない。今の彼女は、完全に正気を失っていた。
「クククッ、面白いですねぇ!まさか私の両手を折るとは!」
シャルロットさんの背後にアペタイトが立ち、彼女を殴り飛ばす。あんな威力の攻撃をまともに喰らってしまった。いくらシャルロットさんでも、もう...
「おや?彼女はどこに...」
彼女が殴り飛ばされたはずの場所には誰もいなく、アペタイトの背後に彼女が現れた。そして、彼女は彼の耳元で囁いた。
「4917万1114回目だなァ?」
「なっ...!」
魔法が放たれ、アペタイトが吹き飛んだ。とてつもない威力と速さだ。
「あっははははは!なあアペタイト...私の血は、美味しかったか?」
笑みを浮かべる彼女からは、魔人すらも霞む程の...邪悪な魔力が放たれていた。
今回のお話、楽しんでいただけたでしょうか?ぜひ、応援よろしくお願いいたします!




