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勇者の杖の魔法使い  作者: mito
八章 憎しみの終末、そして旅の終末へ
31/40

31話 霧の館

読書の皆様にこの作品を楽しんでもらえますように...。

霧の森に侵入して数時間、いまだにアペタイトの姿は見当たらないし、植物以外には何も見かけなかった。この森には、魔人以外の魔族はいないと見ていいだろう。

「ずっと気配はするのに、なんで...」

「魔法の気配もありませんし、ただこの森が広いだけとしか言えませんね。」

こんな場所で奴とは戦いたくないけど、それでも奴はここにいる。ここまで来て退くわけにはいかない。

「おい、何かあるぞ。」

レオンが森の奥を指さした。そこには霧に包まれた大きな館があった。おそらく、あれがアペタイトの住処だ。あいつの魔界での呼び名は"美食家"、当然立派な場所に住んでるわけだ。

「カミラ、あれで間違いない?」

「ああ、あれがアペタイトの館だ。気を引き締めろよ、奴は中にいるぞ。」

周囲を警戒しながら館に近づく。ここまで来て、アペタイトの魔力がより濃くなった。カミラの言う通り、この中に奴がいる。この中に入った瞬間、いや今この瞬間から、既に戦いは始まっている。

「じゃあ、開けるよ。」

扉に手をかけ、勢いよく開ける。正面には大きな階段のあるエントランスがあり、その階段の上に魔人が座っていた。奴は私達の姿を確認すると、笑みを浮かべた。

「クククッ、待ちくたびれましたよ。」

奴は立ち上がり、階段の踊り場から私達を見下す。どんな悪人よりも、どんな魔族よりも、不気味で邪悪に満ちた魔力。戦闘能力だけでいえば、最強の魔族。それが彼、魔人アペタイト。

「知っていますか?あなた方の言う魔王、フォンドネス嬢が勇者であるあなたを狙っているのですよ。愚かにも、私の食材を奪おうとしているのです。実に腹立たしい。ですが、あなた方はこうして私の元に来てくれた。」

奴はペラペラと話し始めた。でも、決して私達に隙は見せていない。つまり、奴は私達の事を脅威として認めている。以前会った時とは明らかに違う反応だ。

「それにしても、よくあのイナートを殺しましたね。褒めて差し上げましょう。彼はあの巨体と魔力量ゆえ、今までの人類では手も足も出せませんでした。ですが、それをあなた方が打ち破った!これ程素晴らしい事はありません!」

仲間が殺されたというのに、奴は笑っている。いや、奴にとっては全ての魔族が仲間ではないのだろう。食材にすらならない、ただのゴミだとしか思っていないのだろう。

「それと、我が弟ジェラス。彼も討たれたようですね?あれは成功作であり、失敗作でもありました。元々我が一族は山羊から突然変異したもの、彼は私達3人の中で唯一両親の特性を引き継いだ者でありながら、その力はどちらも中途半端であった。よって私やリーニエントを超える事はなかった...いや、リーニエントは魔力量では劣っていましたね。まあ、どちらにせよ彼は愚かであった事には間違いないでしょうが。」

アペタイトが階段を降り始め、その身から溢れる魔力がより濃くなる。奴の食欲が高まる。

「さて、そろそろ無駄話は終わりにしましょう。お恥ずかしながら、もう食欲が抑えられそうになさそうでね。今すぐにでも喰らいたいのですよ。」

奴が最後の一段を降り、私達の目の前に立つ。奴は不気味な笑みを浮かべた。そして、私達は臨戦態勢に入った。

「さあ、かかって来なさい。ディナーの前の運動といきましょう!」

一斉にアペタイトに襲いかかり、戦闘に入る。彼は私達の攻撃を全て見切り、それを防ぐ。やはり一筋縄ではいかない、最初から本気でかかる。

「カミラ、レオン!突っ走れ!」

「ああ!」

2人が奴と戦っている隙に私はソフィアの元へ駆け寄る。いくら連携が出来たとしても、それだけじゃ駄目だ。もっと大きな変化がいる。

「ソフィア、私達に強化魔法を施して。詠唱の間は私がみんなの補助をする。」

「分かりました!頼みます!」

強化魔法は通常の魔法とは違い、対象の中に魔法陣を施し、対象を強化する魔法。触れられれば簡単なんだけど、今は触れる事が出来ないため、詠唱が必要になる。

「2人とも!3秒だ!」

この短い言葉だけで、2人は10秒後に何があるのかを察した。強化魔法による変化に即座に対応出来るように、アペタイトと少し距離をとったのだ。それによって私の魔法も撃ちやすくなった。流石だ、完璧な連携だよ。

「我らに神の御加護を!"加護の祈り(ブレスベーテン)"」

強化魔法が施されたと同時に、私達は一気に畳み掛けた。さっきよりも速く、そして強力な一撃を放った。だが、その瞬間にこの戦況が大きく一変した。

「来なさい。」

「っ!避けてカミラ!」

アペタイトが合図を出すのと同時に、壁を突き破って地竜が飛び出した。その竜は肉がただれ、骨が剥き出しになっていた。それは、"不死魔族アンデット"だ。

「うぐっ...!」

「カミラ!」

カミラが奴の攻撃をまともに喰らってしまった。明らかに今の状況は私達が不利だ。でも、このまま退くわけにはいかない。

「...ソフィアはカミラに魔力を分けてあげて、レオンはあの竜の相手を。」

「おい、まさかお前...」

「アペタイトは、私が殺す。」

アペタイトの前に1人で立ち、魔法で天井を崩して私と彼をみんなと分断する。彼女の記憶から奴の強さは知っていた。そう、どれだけ連携をとって戦ってもすぐに戦況が奴の方に傾くことも。確かに無謀かもしれない、でも私は彼と何回も戦っている。動きは覚えてる、勝機がないわけじゃない。

「ククッ、流石は勇者、勇敢ですね。」

「やっぱりすぐこうなっちゃうか。それで、そのにやけづら、いつまで続くかな?」

互いに攻撃を繰り出し、激突する。彼女と...いや私と彼の因縁を、今日ここで終わらせる。



シャルロットさんがアペタイトと一騎打ちに出て、レオンさんがあの竜と対峙した。あのシャルロットさんでも、正直アペタイトに勝てるかどうかは怪しい。でも、それでも今は信じなければいけない。

「カミラさん、今魔力を注ぎます。今はシャルロットさんとレオンさんに任せましょう。」

「そうか...お前、なんだな...」

カミラさんがあの竜に向かって手を伸ばす。彼女があの竜に向ける目は、とても優しく、何かを懐かしむような目だった。

「なあソフィア、頼みがある。」

カミラさんは私に真っ直ぐな眼差しを向けた。

「あいつは私の家族みたいなものだ。どうか、眠らせてやってくれ。」

「っ...!」

レオンさんと地竜が戦い始めた。あの地竜はカミラさんの家族と同じようなもの...でも、カミラさんの頼みなら...

「...カミラさん、おそらくレオンさんだけではあの地竜に勝つことは出来ません。不死魔族アンデットにはレオンさんの攻撃はほぼ無意味です。」

私は立ち上がり、括っていた髪を解く。神の業を借りる時、余計に着飾ってはいけない。髪を括るなど、言語道断。まあ、解いた理由はそれだけじゃなくて、ただ縛られてると動きにくいからなんだけど。

「レオンさん!交代です!」

「は?ソフィア、何を言って...」

私の目が琥珀色に光り、魔力が身体から立ち上る。小さい頃から感覚はあった、この恐ろしい程に強力な、神聖な力の感覚が。

「その竜は、私が救います。」

おそらく私は、この世に"聖女"として生まれたのだろう。

今回のお話、楽しんでいただけたでしょうか?ぜひ、応援よろしくお願いいたします!

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