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勇者の杖の魔法使い  作者: mito
七章 解けた糸は再び紡がれ、旅の終点へ
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27話 本物の列強

読書の皆様にこの作品を楽しんでもらえますように...。

「う、う〜ん...ここは...?」

「お嬢さん、目が覚めたか!良かった、意識が戻って!」

「稲荷?私...」

思い出した。私は魔獣に空に打ち上げられて、そのまま気を失ったんだ。砲撃の音、人の叫ぶ音、色んな音が聞こえる。まさか、今外では...

「稲荷!状況は!」

「魔獣イナートが人間界に向かって進行中でござる。フォルテの戦力が総出で戦っておるが、未だに止める事は出来ていない!」

「分かった!今すぐ行こう!」

私は外に飛び出し、その惨状を目にする。巨大な鯨のような姿をした魔獣イナート。その周りに飛び回る無数の魚によって地上の騎士達が蹂躙されている。砲撃や剣で何とか持ち堪えているけど、それも時間の問題だ。

「この...!」

「待つでござる!お嬢さんはまだ目覚めたばかり、戦いの後の疲れも残っているであろう、危険でござる!」

「そんなの関係ない!今は、イナートを倒す!」

稲荷の手を振り払って結界で足場を作りながらイナートに近づく。空中に浮くあいつには斬撃でも飛ばさない限り剣は効かない。最前線でレオンさんが戦っているけど、周りの魔族のせいでイナートに対して威力が出せていない。やっぱり私がやるしかない。

「どいて!」

私にもあの魚達近づいてきて、邪魔をする。これじゃあイナートに近づけない。でも大丈夫だ、こいつらは無限に湧き出てくるわけじゃない。倒し切れば、勝機はある。

「カルムさん、無事だったのね!」

「リーニエントさん!なんでここに...」

リーニエントさんはあくまでも魔族。レオンさんやソフィアさんは認めてくれたけど、他の人達はそうはいかないだろう。リーニエントさんは一刻も早くここを離れるべきなのに。

「レオンさんが説明してくれたわ。まあ、みんな納得はしてないみたいだけど、とりあえずは大丈夫だから安心して。」

「でも...」

「それに、私もあなた達には借りがあるわ。これでチャラにしてくれるかしら?」

「っ、感謝します!」

リーニエントさんが周りの敵を倒してくれるおかげで私はイナートに近づける。確かに私はあの戦いの後でまだ完全に回復はしていない。だからって、今戦わない理由はない。どれだけの逆境に立っていようと、誰かを救う為なら全力で戦う。あの人なら、お姉ちゃんならそうした。超完璧スーパーエリート魔法使いならそうした!

「力を貸して、お姉ちゃん!」

杖を構え、魔法陣を展開する。奴は目の前にいる。私を威圧するように睨む眼、怖い。これが列強と呼ばれる魔族の圧、凄まじい。でも、私だって弱くない。

「"元素之爆発エレメントバースト"!」

私の放った魔法はイナートに直撃し、奴が叫び声を上げた。効いてる、この巨体にも私の魔法は効いた。ならまだ撃ち込む。こいつが死ぬまで、何回でも撃ち込む。

「まだだ、"元素之エレメント...!」

その瞬間、身体が凍り付いたように動かなくなった。私の身体に異常が起きたんじゃない、私はイナートの圧にやられた。私を見つめるその眼は底の見えない深海の様に暗く、私に死を感じさせた。ジェラスなんて比べ物にならない程に膨大で邪悪な魔力。まるで、あの魔人アペタイトと対峙したあの時のような恐怖。私を呑み込む死の気配。

「あっ...」

奴が口を開き、私の目の前に巨大な魔法陣を展開する。それだけじゃない、奴の周囲から地上に向かって複数の魔法陣が展開されている。避けないといけないのに、身体が動かない。恐怖で何も考えられない。

「全員退避!来るぞ!」

「お嬢さん!早く逃げて!」

レオンさんや稲荷の声がした。でも、もう遅い。魔法陣は光り輝き、もう瞬きをする時間も無く魔法は発動される。時間が遅くなったように感じる。もう逃げれない。もう避けれない。この魔法をまともに喰らってしまえば私はどうなる?そんなの明白だ、死だ。私はこのまま何も出来ずに死ぬ。ジェラスを倒して調子に乗ってしまったんだ。自分が強くなったと思って、どんな奴が相手でも勝てる気がしてた。死ぬ覚悟なんて、とっくに出来てると思っていた。でも、やっぱり怖い、心残りもたくさんある。ああ、お姉ちゃん。私いつも素っ気ない態度だったけど、あなたの事が大好きだったんだ。いつも前しか向いてなくて、キラキラ輝いていたあなたが眩しかった。私、お姉ちゃんがいないと寂しいの。なんで、何も言わずにいなくなっちゃったの。もう一度だけでいいから、抱きしめてほしい。

「死にたく、ない...!」


...背中に温かい感触がした。


もう死んだはずなのに、私の五感は動いていた。


魔法の音がした、その魔法の音はとても綺麗だった。


目を、開いた。


私の目に光が差し込むと同時に、白と黒の混ざった髪が見えた。


私は、この髪の匂いをよく知っている。


「もう、遅いよ...このバカ...」

「うん、ごめん。頑張ったね、カルム。」

ああ、私は今幸せの絶頂にいる。涙が溢れて止まらない。でも、それは悲しいからとか、痛いから出る涙じゃない。嬉しいから、この温かさがずっと欲しかったから、溢れ出た涙だ。

「おかえり、お姉ちゃん。」

「うん、ただいま。」

勇者が、帰還した。

今回のお話、楽しんでいただけたでしょうか?ぜひ、応援よろしくお願いいたします!

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