26話 対の大魔法
「"業火の雨"!」
「"魔法逆転"。」
ジェラスとリーニエントさんによる魔法の攻防が繰り広げられる。ジェラスはリーニエントさんと戦いながらも私達への警戒を怠らず、リーニエントさんも私達へジェラスの攻撃がいかないように気を配っている。私達が強い事を知っていても、彼女は優しいから私達の安否を気にしてしまう。なら、私達が動けばいいだけの話だ。
「3人とも!リーニエントさんに加勢するよ!」
魔法陣を展開しながら走り出す。あの世界が崩れたから自由に魔法を行使出来る。リーニエントさんも加わったこの状態なら、絶対に勝てる。
「来ないで!」
その時、リーニエントさんが私達を制止した。
「これは私達家族の問題だから、あなた達は自分のやるべき事をして!ジェラスは、必ず私が殺すわ!」
確かに、私達が2人の間に入る筋合いはない。それよりも私はお姉ちゃんやカミラさんを探すのが最優先だ。でも...
「余所見は厳禁!」
「あぐっ!」
「さあ、私が殺してあげましょう!姉さん!」
ジェラスからリーニエントさんに放たれた魔法を私の魔法で相殺する。止められたからって関係ない。私は、私の意志に従うだけ。
「確かに、私達が割って入るような問題じゃないかもしれない。でも、私お姉ちゃんの妹だからさ。私は、自分のしたいようにやらせてもらうから!」
「っ!ふふっ、おかしな人ですね。」
リーニエントさんの前に私達が立つ。奴はまだ余力を残している。さっきまでリーニエントさんと戦っていたというのに、本当にものすごい魔力だ。でも、だからといって負ける気はしない。レオンさん、ソフィアさん、稲荷、リーニエントさん、みんながいるから。
「ジェラス!もう終わりにしよう!」
「クックックッ、面白い!そう来なくてはな!お前ら全員、この私が喰らってやろう!」
周囲の魔力を吸収し、ジェラスが無数の魔法陣を展開する。今のジェラスの魔力は膨大だ。もしかしたら、列強にすら並ぶかもしれない。けれど、なんでだろう。ジェラスの扱う魔法陣から魔法の名前や効果が全て頭の中に入ってくる。全部分かる。魔導書をめくる様に、元々知っていたかのように、魔法の事が全部分かる。
「お嬢さん、油断はならんよ。奴のあの魔力は...」
「大丈夫だよ稲荷。なんか、全部分かるんだ。」
風の魔法を発動し、一気に加速する。私が動くのと同時にジェラスは上空に浮かび、無数の魔法陣を発動させた。
「単身で来るとは、愚か!」
氷の魔法で足場を作り、滑りながら私も魔法を放つ。魔法の亡者と言われる程はある、その膨大な魔力と高度な技術が組み合わさった繊細で強力な魔法だ。でも、私の魔法も負けてはいない。
「その目、見た事がある。お前、まさか賢者になる気か!」
「賢者?知らないけど、賢者って呼ばれる人と同じ目なら光栄だ!」
この目の事はまったく知らない。でも、賢者と呼ばれる程の人、おそらくは魔法の天才。この目がその人と同じなのなら、どれだけ誇らしい事か。
「先代の賢者は愚かにも不老の道を選ばなかった!列強に並ぶ程の魔法使いだった彼女であれば、不老の魔法でも創り出せただろう!」
「私も不老は選ばないかもね!だって、それが人間だから!」
「クククッ、愚かだな人の子よ!永遠の命さえ手に入れてしまえば、魔法を探求し続け、更なる強さを目指せる事がなぜ分からん!」
「お姉ちゃんなら分かるんじゃない?あの人、結構頭のネジぶっ飛んでるからね!」
徐々に魔法の密度が高まり、ジェラスの魔力も少なくなってきている。私も技術で何とか補っているけど、正直言って持久戦はキツい。私の魔力が尽きる前に、ジェラスを仕留める。
「ジェラス、そろそろ終わりにしよう!私とお前の戦いを!」
「私もそうしたいと思っていたところだ!お前を喰らい、下の奴らも喰らい、私が玉座に座ろう!」
ジェラスが空を埋め尽くす程の魔法陣を展開する。上空にいる彼はおそらく気づくだろう。この戦いの最中、私が準備していた切り札を。
「その氷、まさか...!」
「うん、そのまさかだよジェラス。さあ、構えて。」
氷の足場によって作られた巨大な魔法陣。今の私が出せる、最大威力の魔法をぶつける。
「万物を形作りし元素よ。万物に流れし魔力よ。我は求めん、万物を破滅させし光を。」
「炎よ、水よ、風よ、地よ。神が与えし魔力よ。我は求めん、万物を破壊させし光の雨を。」
魔法の詠唱。魔法の力を最大限に引き出す為の魔法陣と詠唱、私とジェラスは、正真正銘全力の魔法をぶつけ合う。
「壊せ、轟け、煌めけ。我の望む未来をもたらせ。我、カルム・グラトニーが命ずる!」
「踊り、穿ち、荒れ狂え。我が望みに応えよ。我、ジェラスが命ずる!」
互いの魔法陣が光り輝き、辺りに静寂が訪れる。次の瞬間、互いの詠唱が終わった時、勝敗が決まる。その時は、訪れる。
「光れ!"元素之星光"!」
「降り注げ!"天穹之星雨"!」
魔法が放たれ、互いの魔法が衝突する。凄まじい輝きと衝撃波で何が起こったか分からない。だけど、これだけは理解出来る。
「...ジェラス。」
やがて光が収まり、辺りが見渡せるようになる。光の降る中、私は立っていた。
「私の、勝ちだ。」
晴れた空を見上げ、身体中から力が抜ける。氷の足場も崩れて、このままじゃ私は地面に落下する。けれど、私はこのまま落下に身を任せても大丈夫だという事を知っている。
「ふふっ、やっぱり来てくれたね。」
私の身体を稲荷が受け止めて、また私の顔を覗き込む。今度は、困ったような顔をしていた。
「まったく、とんだ無茶をする人でござるよ。でも、見事勝ったでごさるな!」
「私強いでしょ?これでも私、勇者の妹だからね。」
「うむ、天晴れでござる!」
「それこの空と掛けてる?」
私、強くなったよお姉ちゃん。列強と近い実力を持つ奴にも勝てたよ。だから、絶対にお姉ちゃんを見つける。絶対にカミラさんを見つける。今の私の夢は、お姉ちゃんとカミラさん、そしてレオンさんとソフィアさん、その4人が笑い合ってる姿を見る事だから。
「本当にありがとう、何て感謝を言えばいいか...」
「よいしょっと。ううん、私こそ勝手に家族の問題に入ってごめんなさい。」
「ふふっ、あれだけ啖呵を切っておいて謝るのね。」
「それは、その...」
束の間の平和が訪れ、私達は笑い合う。でも、私の旅はまだ終わってない。お姉ちゃんはまだ近くにいるはずだから、今すぐにでも動かなければならない。まだ話してたいけど、それはお預けかな。
「よし、じゃあ私達はそろそろ行こうか。リーニエントさんや稲荷は...」
その瞬間、大地が揺れだした。一瞬ただの地震だと思ったけど、違う。これは、そんなレベルのものじゃない。
「みんな動いて!今すぐこの場から離れ...!」
身体中に激痛が走り、私の身体が宙に浮いた。あの揺れと同時に地下深くから感じた膨大な魔力。薄れゆく意識の中、確かに私はその目に焼き付けた。大地を破壊し姿を現した、魔獣の姿を。




