21話 紡ぐ者
読書の皆様にこの作品を楽しんでもらえますように...。
「ソフィアさん、それは?」
「リーニエントさんから預かった手帳です。私達に伝え切れなかったことが書かれているみたいですよ。」
ソフィアさんが持っていた手帳を開いて、一緒に読む。あの町から出発して約1週間。未だにお姉ちゃんは見つからず、魔霧の森もまだ見つかっていない。
「魔法の亡者"ジェラス"と魔樹の守護者"レイジ"。この2体に気をつけろと。」
「列強には及ばないけど、それに近い実力を持ってる。どちらにせよ、倒さないといけませんよね。」
列強以外にも恐ろしい魔族はいる。今の私達ならある程度の魔族には対処出来るけど、この2体に会ったらそうもいかないかもしれない。
「あっ、これお姉ちゃんのことだ。」
「本当ですね。」
お姉ちゃんのことが書かれているページがあって私はそのページを読む。そこにはリーニエントさんが見たお姉ちゃんの様子や、お姉ちゃんのこれからのことが書かれていた。でも、その中で1つの文が一際目立って気になった。
「お姉ちゃんの中に、別のお姉ちゃんが?ソフィアさん、これって...」
「...やっぱり。」
ソフィアさんは険しい顔をしていた。おそらく旅の途中でお姉ちゃんの様子が明らかにおかしかった時があったのだろう。だからこの内容についても心当たりがあった。
「あの町の事件の前、初めてアペタイトと遭遇した時にシャルロットさんの様子が急変していたんです。とても冷たく、鋭い目。普段の彼女からは考えられない程の魔法のレベル。リーニエントさんが言っているのはあの彼女のことだと。」
「ここ、その別のお姉ちゃんは平行世界のお姉ちゃんだって書いてあります。これってどういうことなんでしょうか。」
平行世界。想像も出来ないけど、私達が生きているこの世界と全く同じ別の世界があって、その世界のお姉ちゃんがいる。そしてそのお姉ちゃんがこっちのお姉ちゃんの中にいる。そういうことなんだろう。でも、それなら別の疑問が浮かぶ。
「その平行世界って、どんな世界だったんでしょうか。」
あのいつも気楽に生きていて、楽しそうに生活するお姉ちゃんが、それとは真逆の冷たく鋭い目をするようになった。どんなことが起こればそうなってしまうんだろう。
「...考えたくもないですね。」
「うん。」
続けて手帳を読み進める。このページは、平行世界のお姉ちゃんについてだ。
「詳しいことは分からないけど...一つだけ。」
そのお姉ちゃんの成り立ちや平行世界の状況は分からないけど、唯一分かることがあった。それはお姉ちゃんの中にいる彼女から溢れる魔力から分かったこと。
「...平行世界のお姉ちゃんは、列強と同等かそれ以上の力を持っている。」
その瞬間、遠くの森が光って、爆発音が響いた。あの森はリーニエントさんが言っていたレイジという魔族のいる森だ。いや、場所なんて関係ない。そんなことよりももっと重要なことがある。
「ソフィア、カルム!今すぐ行くぞ!」
「はい!」
ここからでも感じるあの魔力。それは、お姉ちゃんの魔力だ。
「2人とも、もっとスピード上げれるか?」
「はい!」
全速力でお姉ちゃんの元へ向かう。もう逃がさない。絶対に追いついて、話をする。一人で戦わせてたまるか、私だってお姉ちゃんの役に立ちたいんだから。
「ククッ...」
「っ!」
一瞬だけ、笑い声と共に奴の...アペタイトの姿が見えた。立ち止まって確認したけど、周囲に奴の気配はしない。でも、気のせいとも思えない。
「おい、何してる。早く行かないと追いつけないぞ!」
「あっ、ごめ...」
私が前を向くのと同時に、2人も前へ振り向いた。私は知らない見た目、気配だけど、何となく分かる。私達の前に立つこの翼と角の生えた人が、お姉ちゃんの親友。勇者一行の1人。
「...カミラ。」
「久しぶりだな、2人共。」
レオンさんが剣を抑え、すぐに抜刀出来る体勢になった。けれど、抜かないのはなんでだろう。やっぱり、本当は殺したくないんだ。
「なんで、今現れた。」
「あいつに命令されたからな。私はあいつに逆らったら殺されてしまう。知ってるだろ?私達は何としてでも生きようとすることを。」
「だが、それは...」
「なら私に死ねって?そうだな、私もそうした方がいいと思うよ。」
悲しい目だ。全てに絶望した目、死を望んでいる目。でも、本能がそれを許さない。それが魔族という生き物。
「カミラさん、本当に人を殺したんですか?」
「...食ったよ。人も、魔族も。3人は知らないと思うけど、ここ最近で魔界にも変化があった。」
カミラさんは魔力を高め、私達を威圧した。それによって明確になった彼女の強さ。それは、あのアペタイトに近しいものだった。
「カミラ、お前...!」
「四魔列強、魔竜の復活。かつて魔竜と呼ばれた天候を操る竜カンナカムイ。そして伝説の種族エルフ。その間に産まれた娘である私が、新しい列強の一角として、魔竜として君臨した。」
大地が揺れ、空が荒れる。大自然を操る魔族、それが今私達の目の前にいる彼女。もう私達に、彼女を止める術は無いのかもしれない。でも、もし止めれるとすれば...
「なら私は、勇者シャルロット・グラトニーの妹、カルム・グラトニー。」
「っ!あの時の...」
この人に会って分かった、私の役割。お姉ちゃんとカミラさんの関係を断つことでも、人と魔族の関係を断つことでもない。
「私は、あなたとお姉ちゃんの絆を、もう一度紡ぎに来た!」
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