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勇者の杖の魔法使い  作者: mito
四章 美食の始まり
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16話 別れ

読書の皆様にこの作品を楽しんでもらえますように...。

「分かりますか?私のこの気持ち!目の前に、今までにない唯一無二の珍味があるのです!ですがまだ食べるには早い、この食欲を我慢しなければならないのです!ああ、なんていう地獄なのでしょう!」

「地獄?それはあんたが創り出したこの惨状でしょ?」

奴は満面の笑みを浮かべ、楽しそうに踊り出す。不快極まりない。

「ああ、心が踊る!あなたの憎しみは素晴らしいものだ!だが、まだ足らない。まだスパイスがほしい!」

「本気で私を食べれると思ってるの?」

「ククッ、もちろんだとも。私は今まで狙った獲物は逃したことがないのでね。」

こいつは自慢げに語るが、それが嘘であると私は知っている。彼女の記憶だ。こいつは、彼女の死に際に語っていた。

「約1000年前、お前は魔王と戦った。」

「っ!」

「そして、あんたは彼女を喰らうことは出来なかった。あんた、さっき嘘をついたな?」

その時、背筋が凍るような...そんな死の気配をすぐそばに感じた。奴のあの笑みは消えていて、奴は私を睨んでいた。私の中に底の見えない憎しみがあるとするならば、今の奴の中には底の見えない殺意がある。

「クククッ、これは驚きましたね。なぜあなたがそのようなことを知っているのかは知りませんが、久しぶりに怒りが湧きましたよ。」

「ふっ、あんたも怒ることがあるんだね。」

「それはそうでしょう。私は全知全能の神でも、非力な植物でもない、魔族なのだから。」

こいつは自分の力を過信していない、それはあの時も同じだった。だけど、こいつは約1000年前に魔王に挑んだ。それはなぜか?そんなことは簡単だ。単純な戦闘能力ならば、こいつは魔王に勝る。こいつは戦闘に置いて、紛うことなき最強だ。

「...今なら、勝てるかな?」

「ほう、やる気ですか。」

私は杖を構え、臨戦態勢に入る。前の私はこいつに負けたんだ。だから最後の力を振り絞って、今の私に託した。いや、今の私を利用した。なら、私はそれを受け入れる。なんとなくだけど分かるんだ。たとえ魔王を倒して戦争が終わったとしても、こいつが生きている限り平穏は訪れない。こいつに勝てなければ、また私は全てを失う。なら、私はこいつに勝つために全てを利用する。だから、借りるよあなたの力。

「憎い、私はあんたが憎い。あの過去があったからこそ、私はあんたの弱点を知っている。」

「私の弱点?そんなもの、あるとは思えませんが?」

「あんたは今の私を殺せない。いや、殺そうとしない。」

アペタイトが反応を示した。こいつは究極の美味を求めている。だから、前の時間軸では私を最後に殺した。憎しみを最大限まで高めた後に殺したんだ。ならば、こいつを私を殺さざるおえない状況まで追い込む。奴は私という美食を未完成の状態で喰らうことになる。その時、必ずこいつは取り乱し、隙を見せる。

「アペタイト、殺してあげる。」

杖を構えて、無数の魔法を放つ。奴は私の攻撃を避けることはなく、全ての魔法を弾いた。

「ちっ、ならもっと高火力を...!」

「随分と舐められたものです。私が、あなたという美食を諦めるとでも?」

奴が消え、私の背後に黒い影が迫る。見えなかった、私は失敗したと分かった。奴が私を諦めるはずがない。もし私が抗うのなら、こいつは、私を抗えないように、死なない程度に痛めつける。

「さあ、加えましょう!憎しみという、更なるスパイスを!」

私に奴の爪が迫った時、甲高い音が響き、私の前に竜の翼の生えた人影が現れた。その後ろ姿には見覚えがあった。でも、この姿は以前の私の記憶にはない。まさか、こんなことがありえるのか。

「...カミラ?」

そこには、竜の瞳を持つカミラがいた。



「ほう、これは...」

「ははっ、結局はこうなるかよ。」

魔人の攻撃を弾き飛ばし、思いっきり殴り飛ばす。そしてシャルロットの方を振り返り、私は彼女に話しかける。

「逃げろ。今、ソフィアがお前の妹に治癒魔法を掛けてる。あの子だけはまだ息があった。お前は自分の妹のとこに行ってやれ。」

「えっ、でも、カミラは...」

「見て分かるだろ、私は魔族だ。お前達人間を殺す、魔族なんだよ。」

奴の方を向き、構える。シャルロットには手を出させない。こいつは私の親友だ。絶対に、殺させない。

「待って!カミラ...!」

「嫌いじゃなかったよ、お前のこと。」

奴に近付き、拳を放つ。それと同時に、奴も爪を振った。

「クックックッ!まさか、あの竜が最期にあなたのような存在を遺していたとは!かつての四魔列強、魔竜"カンナカムイ"!その娘!」

「はっ!話が早い!」

やっぱり知っていたな。だけど、こいつが知っているのはそれだけ。まだ、私の強さは知らないはずだ。

「"星の怒り(テールラーヴ)"!」

「ん?この力は...!」

大地からマグマが溢れ、奴を呑み込む。私はただの魔族じゃない、私は"半魔"だ。そして、これはそのもう片方の力。

「素晴らしい!実に素晴らしい!伝説の種族である"ドラゴン"だけではなく、絶滅したとされていた"自然の賢者(エルフ)"のハーフだとは!」

あれだけの攻撃をしても奴はまだピンピンしている。どれだけの化け物なんだ、こいつは。親父から忠告はさせれいたけど、これ程までの強さだとはな。

「潜在能力だけでいえば私やフォンドネスすら越えるでしょう!だからこそ残念だ!あなたを、食べれない事が!」

次の瞬間、私は倒れていた。奴の身体からおぞましい魔力を感じる。まさか、今までは魔力無しで戦っていたのか?そんなことが魔族に出来るわけがない。もしかすると、魔王ですら...!

「私は共食いが出来ないのですよ。あなたはここで死ぬつもりだったのでしょうが、残念ながらそれは叶いません。その代わりに、あなたに新しい道を用意して差し上げましょう。」

奴が私の顔を覗き込み、私を見つめる。

「あなたはこれから魔族として生きるのです。魔界に新たな列強の一角として君臨し、人類を殺し回るのです。」

「っ!そんなこと!」

「そのためのレールを私が用意しましょう。それにあなたも承知の上でしょう?もう二度と、人間として生きることが出来ないことは。」

ああ、そうだ。その通りだ。私は二度と人間として生きれない。だから、こいつと相討ちで死んで、シャルロット達の大きな障害を無くそうと思っていた。だけど、それも叶わない。これから私には何が待っている?こいつからは執念を感じる。狙ったものは逃がさない執念を。

「私を、どうするつもりだよ。」

「かつての魔竜がそうだったように、あなたも人を食す事を好むはずです。あなたを魔王すら超える魔族にしてあげましょう。そして、その上で私の手駒とするのですよ。」

操り人形ってわけか。ははっ、笑えねぇ。

「あがっ...!なん、だこれ...!」

意識が何かに乗っ取られそうだ。これは...欲望?まさか...いや、そんなの駄目だ。これでは本当にこいつの思い通りになる。嫌だ、人を食うぐらいなら、死んだ方が...!

「くふっ、さあ行きましょう。カミラ。」

「...ああ。」

ああ、身体が欲望に逆らえない。食欲が溢れ出る。ははっ、とうとう終わりか私も。まあ、数億年もよく耐えたもんだと思うよ。ごめんな、シャルロット。また会ったら、どうか私を殺してくれ。それが、私の願いだ。

今回のお話、楽しんでいただけたでしょうか?ぜひ、応援よろしくお願いいたします!

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