11話 最狂の魔族
読書の皆様にこの作品を楽しんでもらえますように...。
こいつだけは駄目だ。魂が、本能が逃げろと危険信号を発している。でも、逃げ切れる訳がない。
「ちっ、全員撤退だ!逃げる事だけを考えろ!」
カミラは私の声を聞くとソフィアを抱えて走り出す。だが、そのすぐ背後を奴が捉える。
「さあ、まずは2人。」
「ちっ!」
私が二人と奴の間に割って入り、攻撃を防ぐ。重い一撃だ、今にも弾き飛ばされそうだ。
「ほう、中々やるようですね。ですが、その肉体はすでに限界がきているようですが。」
「関係ない...!また...また、お前に奪わせる訳にはいかない!」
奴の攻撃を弾く。だけど、奴はすぐに体勢を立て直して私に襲いかかる。無理だ、今の私に出来るのは時間稼ぎ程度。くそっ、私は結局...魔族を滅ぼせないのか。
「"聖剣"!」
私と奴の間を一筋の光が遮る。そして、洞窟の天井にできた穴から、一人の剣士が降り立つ。
「ほう、あなたは中々に強そうだ。」
「無駄話はよそうか。僕が来たからには、ここに居る者は誰も死なせやしない。」
輝く金髪に、空のように青い目。彼は最強の剣士と謳われる者。"騎士王"<レオン・ガルディアン>。
「3人とも、今のうちに逃げろ。この洞窟を抜けた先に王国がある。大丈夫、僕が奴を引き付けておくから。」
彼の実力ならある程度の時間稼ぎも出来て、なおかつ奴から逃げることも可能だろう。なら、疲弊している私達は逃げた方がいい。私も、そろそろ限界がきてしまう。
「そうだな。お言葉に甘えて、逃げ...よ...」
逃げようと走り出そうとするが、意識が遠のく。ここで意識を失ってしまったら、まともに逃げれない。そんな事は分かっている。けど、私はもう、とっくに限界を迎えていたんだ。
◇
「と、危ない!」
これから逃げようって時にシャルロットが倒れた。無理はないだろう、あれだけ戦ったんだ。それにしても、シャルロットのあの状態は異常だった。シャルロットであって、シャルロットではない。何か別の存在のような...いや、今はそんな事を考えている場合じゃないな。あの剣士が時間を稼いでくれるうちに、私達は逃げる。彼の様子を見るに、命を懸けているわけでもないだろうし、ここは任せても大丈夫だ。
「ソフィア!私はシャルロットを抱える、1人で歩ける?」
「はい!大丈夫です!念の為に結界も張ります!」
「よし。」
結界を張りながらだったらある程度は安心出来る。逃げ切ったら、彼にはちゃんと感謝しないとな。あと、シャルロットには色々と聞きたいこともある。
「剣士の方!またあとで!」
「ああ。」
洞窟の出口に向かって走り出す。あの魔族は私達を見向きもせず、ただ笑っている。私達は、奴にとってそこら辺に生えている植物のような物なんだ。そのぐらい、奴は強い。
「っ!光が見えてきました!」
やがて洞窟の出口が見え、私達は洞窟から抜け出す。そこには大穴から日が差し込む、巨大な地下空間があった。そして、その地下空間の中央辺りに、大きな王国がある。
「あれが、城塞王国"フォルテ"...!」
人間界と魔界の境にあり、人類の最前線で魔族の進行を幾千年も抑えてきた王国、まさに人類の砦。私達は、遂に魔界への門へ到達した。
◇
「"不可避の幾重剣"!」
「ほう、面白い技ですね!」
奴に放った幾十の斬撃が全て弾かれる。これに対応した魔族は今までに数体しか見た事がない。そいつらはかなり高位の魔族だった。だが、どの魔族も必ずギリギリ凌ぎ切るか、傷を負っていた。それをこいつは余裕の様子で容易に弾いた。明らかに他の魔族とは格が違う。
「さて、次は?」
「っ...!」
それにこの威圧感、今までに遭遇したどの魔族とも比べ物にならない。おそらく、こいつが存在するとされる頂点の魔族達の一角。
「お前、"三魔列強"だな。」
「三魔列強...ああ、確か以前は"四魔列強"と呼ばれていましたね。列強...確かに、人類が私の事をそう呼んでいるのは聞いた事がありますよ。」
これはやばい奴に遭遇したな。三魔列強、魔王を含めた最も危険とされている魔族の総称。以前は4体いたため四魔列強と呼ばれていたが、現在は3体しかいないため三魔列強となった。姿からして、こいつは三魔列強の中で1番未知数な奴だ。
「さて、どうしますか?あなたの実力では私に対して勝機はなさそうですが?」
「別に、僕の目的がお前を倒す事だとは言っていないぞ。」
「ほう?」
元々、こいつを一目見て勝てるような相手だとは思っていなかった。だからまずは疲労している彼女らを逃がし、僕はその間の時間稼ぎをした。そして、これから僕はこいつと真っ向から戦う訳ではない。
「発動!"聖域の鎖"!」
光り輝く鎖が奴を拘束する。これは対魔族専用に開発された魔道具で、この鎖に拘束された魔族は魔力を完全に封じられ、徐々に石になる。あとは、これが奴に効くかどうかの問題だ。
「ほう、魔力が...なるほど、面白いですね。」
「...なぜ、笑っている。」
確かにこの鎖は効いているみたいだ。だが、それでもこいつは笑っている。
「なぜって、分かりきっていることでしょう。」
鎖にヒビが入り、粉々に砕ける。この鎖を壊すためにはそれこそ山を破壊する程の強大な力がいる。そんなの、いくら魔族と言えど魔力が無ければ不可能だ。だが、こいつは魔力が無い状態で鎖を壊した。三魔列強、他の魔族とは一線を画す程の化け物だ。
「さて、私の方が圧倒的とはいえ、面白い物を見せてもらいました。そのお礼に、今回は退いてあげるとしましょう。」
「っ!舐めてるのか、貴様!」
「いえ、私はあなたに期待をしているのですよ。」
僕の首に爪を突き立て、奴は笑う。本能が動くなと言っている。動けば、死ぬ。
「あなたはまだまだ全盛期ではない。あと5年程経てば、あなたは今とは比べ物にならない程に強くなるでしょう。私はまだ土から出てきたばかりの若い芽を摘む様なことはしないのですよ。」
奴が僕から離れ、洞窟の出口とは反対方向に歩き出す。
「では、またの機会を楽しみにしていますよ。」
僕が振り向くと、奴は既に消えていた。今まで魔族に負けたことはない。これ程の屈辱、忘れられるわけがない。
「ああ、いつかまた、僕が殺してやる。」
僕は国へ向かって歩き出す。そういえば、あの3人組、その1人が持っていたのはおそらく勇者の杖だ。魔族を倒すため、強くなるのならば...勇者一行に加わるのも、一つの手。僕は必ず魔族と戦い続ける。奴らを殲滅する、その日まで。
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