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それはよくある御伽噺で  作者: 川門たけ光
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第二章 目覚めからの会話 その2


 時間にして三十分ほどか、巴は修助の胸元から顔を剥がし、立ち上がった。

「長々とご免なさい。それと、有り難う御座います」

 泣きはらしたからだろう、やや腫れぼったい目をして、弱々しく笑っている。

 だが、そこにある笑みは弱々しくともしっかりとしたものだった。

「んにゃ、お役に立てて光栄だ。だが……」

 修助は視線を降ろしながらTシャツの胸元を摘み、

「予想以上にグチャグチャだな、これ」

「あー、ご免なさい」

「いいっていいって、ちょっくら着替えてくるわ。座って待っててくれや」

 あ、はい。と言う返事も待たずに修助は、巴が寝ていた部屋とは別の部屋――自室に戻った。

「はぁ」

 巴は修助の言葉に甘える様に、椅子に座り込んだ。

 泣いたことで思った以上に体力を消耗していたのか、座った瞬間にテーブルにもたれかかってしまった。

(疲れた……)

 寝て幾らか回復したはずだが、戻った筈のなけなしの体力は先ほどの”泣き”で消費されてしまったらしい。

 巴はぐでーっとテーブルに身体を預ける。

(泣き疲れて、体力を著しく消耗するなんて、何時以来よ?)

 自問自答してみたが、恐らく小学校の一、二年頃が最後の筈だ。

 巴は今、十四歳。中学三年生だ。

 それからおおよそで約――

(――八年程前……ね)

 声を押し殺したとはいえ、あそこまで感情を露わにしたのは多分、物心ついてからは初めてだろう。

 同時に初対面の人に自分のあられもない姿を見られてしまった分けで――、

(うっわ、恥ずかしぃぃぃぃいいいいい!!)

 テーブルに身体を預けたまま、巴は頭を両手で押さえた。

 本来なら頭を振ったり、床をゴロゴロと転がったりして恥ずかしさを紛らわしたいのだが、そんなことをする体力が今はもったいなかった。

「ぅう、本当に恥ずかしいわ……」

「何がだ?」

「ひゃあああああ!」

 いきなり声をかけられた巴は思わず、悲鳴を上げ、椅子から転げ落ちそうになった。

「おいおい、随分と愉快な悲鳴だな。つーか悲鳴を上げるような事したか? 俺」

「い、いきなり声をかけられれば誰だってそうなるわよ!」

「うつ伏せになっている奴が気付くまで待てってのか? それこそ、気付いた時にビビりそうだが」

 そこんとこどうよ? と言う問いかけに巴はぐうの音も出なかった。

 自分だって他の事に集中している時に、ふと横を見ていきなり人がいたら確実にビビる。

 超ビビる。

「………ビビるわね」

「だろう?」

 したり顔がちょっとムカついたが、これ以上問答を続けても仕方がないので椅子に座り直した。

 軽く身だしなみと髪を整る。

(ジャージだけど……)

 しかも上着の中身はトップレスだ。

 服装に意識が向いたが巴はあえて無視した。

 そして、真っ直ぐと対面に座る修助を見据えた。

「さてはて、取り合えず色んな意味で時間が取られたが……、どうする?」

「どうする? って言われても私に分かる事と言えば、私が何故か狙われている事と私のせいで巻き込まれた人がいるっと言う事ぐらいよ? どうするって言われても私にはどうしようもないわ」

「そうか……」

 そう呟いた修助は重心を椅子の背もたれに預け、上を見ながら片手で頭をかき、ため息をついた。

 巴に嫌な予感が走る。

「ねえ、ちょっと。……貴方ってこういう事態に詳しいんじゃないの?」

 その問いに修助は上にやっていた顔を巴の方にへと戻す。

「んにゃ、全然。というか詳しい奴をプロだとするなら俺は……、アマチュア程度かな?」

「は? ちょ、ちょと待ってよ! じゃあ何で私を助けてくれた巫女さんは貴方を頼れ何て言ったの!?」

「さぁ? 事態が急を要したから、一番近場の俺に白羽の矢が立ったとか?」

 その言葉に巴はため息と共に頭を抱えた。

「どうするのよ」

「どうしようか」

 答えはなかなか出ず、出るのは溜め息ばかりだった。


○ ○


 数分ほど互いに悩み。

 結局、

「俺たちは何も知らないんだし、だったら知ってる奴に聞こうぜ」

 サムズアップ付きで言われたので取り合えず、巴は殴りかかった。

 曰く、餅屋がいるんならさっさと呼びなさい。

 と言うことらしい。

 もっともな話しだと、巴の意見を素直に受け止め、修助はさっさとその知り合いを呼ぶことにした。

「それで」

「それでって?」

「呼んだ人はどんな人なの?」

 巴としてはこれからお世話になる人の一人になるのだ。その人となりを知っていて損はない。個人的な要望を言うなら取っ付きやすい人で、出来れば女性がいい。

(流石にそこまで求めるのはワガママすぎるかな?)

 まあ、思うだけならタダだしいいかな。と考えながら巴は修助の言葉を待った。

「端的に言えば……」

「言えば?」

「お姉さん」

「…………はぁ?」

 端的に言って、それ?

「……もっと、他に言うことはないの?」

「仕方ねえじゃん。アイツから出ている何つーか……、オーラ? それがお姉さんって感じの雰囲気をバリバリと出しているんだか」

「お姉さんオーラをバリバリって」

 巴は頭を抱えたくなった。それと同時に有り難くも思った。お姉さんオーラを出す人ならば、多分だが取っ付きやすそうだし、何より女性だ。

 微かな安堵を胸に宿した巴はその女性がいつ頃来るのかを訪ねた。

「それで、そのお姉さんは何時やっていくるの?」

「もう来てる」

 は? と巴は疑問する前に、静かな音を立てつつ玄関と居間を繋ぐ扉が開いた。

「ご機嫌よう修助さん。アルマ・フォン・シェルホーン、只今参上しました」

 その女性を見て、修助は巴に、

「分かるだろ?」

 そう告げ、

「確かに」

 巴も頷くしかなかった。

 それだけ、オーラが激しかった。

 比喩表現だが。


○ ○ ○


 来訪した人物、アルマ・フォン・シェルホーンという女性を巴は改めて観察した。

 最初は彼女が放つお姉さんオーラに圧倒されて、その事だけしか見えなかったが、冷静になって再度観察をすると、別の意味で激しいオーラが巴の精神を襲った。

 美人。

 美形。

 美女。

 アルマ・フォン・シェルホーンをお姉さんという単語を抜いて表現するならば、まず出てくる言葉がそれであろうと巴は直感した。

 膝裏ほどまで伸ばされた髪は銀に近いプラチナブロンド。新雪の如き純白の肌。美しい曲線を描いてる赤い唇。血の色をそのまま留めたような深紅の瞳。

 それに勝るとも劣らない、

(デカッ! 細ッ!)

 三つ目は巴の位置からは見えないが、前の二つに劣るとは思えないのでそれ相応の物をお持ちなのだろう。

 椅子に座らず立っていたら、思わず下がってしまっただろう。

 それほどの「美人オーラ」が「お姉さんオーラ」と言うフィルターが取れた巴にはハッキリと認識出来た。

 修助と何やら話しをしていたアルマは、話しが終わったのだろうか、巴の方に視線を向け、近づいてきた。

(え? え? えぇぇぇえええ!?)

 お姉さん(美人)がいきなり近づいてきて狼狽する巴。

 しかし、そんな巴を良くも悪くも無視してアルマは、

「初めまして、アルマ・フォン・シェルホーンです」

 瞳を弓にして笑いかけながら自己紹介を巴にした。

 その笑顔を見ただけで巴は自分の顔に血が上り、赤面するのを嫌と言うほど実感していた。

(うっわ! この人絶対ファンクラブか何かがあるわね!)

 なければ自分が作ってしまいそうになる。そんな暴走を容易にして仕舞いそうな魅力を彼女は持っていた。

 挨拶を済ませたアルマはいそいそと修助の席の隣にある椅子へと座った。

 巴の対面に座る修助とアルマ。

 まるで面接か何かと巴は思った。

 そう思うと巴は変に緊張してきて仕舞い、ソワソワと微妙にだが落ち着かない様子だった。

「さてと、早速だけどいいかしら?」

 早速、巴に声をかけてきたアルマ。

 それに対して巴は思わず驚いてしまった。

 てっきり、修助からアルマにある程度の現状説明があると思っていたのだ。しかし、そんな説明はなく、そして巴に質問してきたのはアルマだ。

(どんな事を聞かれるのかな……?)

 そう考えながら巴は身構え、

「貴方の……」

 心臓が少し五月蠅い。

 汗をかき始めた。

 喉が乾く。

 そして、アルマはためらいがちに口を開いた。

「その格好は……趣味ですか?」

 漫画のようにずっこけそうになった。

「……服がなかったので借りただけよ。第一、貴方が言う趣味ってどんな趣味よ」

「ジャージマンセー」

「ジャージに命懸けてないわよ! ていうか何よジャージマンセー! 区切るところ変えたら”ジャージマン・セー”って言う感じじゃない!!」

「訳分からないですよ?」

「安心しなさい、私も分からないし、こっちの台詞でもあるからね!?」

「セーってどんな意味になるんですかね?」

「無視か!? て言うかよりにもよって聞くところがそこ!? ついでに言うとスペインにはセーって言う名称の自治体があるらしいわよ!!」

「へー」

「洒落か!?」

 いえいえ、と手をパタパタと降りながら否定するアルマ。

 しかし、タイミング的にも巴をからかっているようにしか見えない。

 ある程度回復したはずの体力を一気に使い果たした巴は、息も絶え絶えとなりながらテーブルに身を投げた。

「……全然話しが進まねえなあ」

「だったら止めて戻しなさいよ!」

 修助の言葉に巴はすかさず反応した。

 その声色は切実に染まっていた。


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