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おしゃべり犬と天国の問題  作者: 夜霧ランプ
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6.新しい子供

 メディアからの関心が薄れる頃、ミイラ化した子供の死体を盗まれた家、エルフィン家では養子を迎えた。灰色がかった金髪を持つ女の子で、エメラルド色の瞳をしている。年の頃は八歳くらい。名前はルーダと言うと名乗った。

 病に臥せっている養母と対面して、ルーダは「お母様、元気になったら、編み物を教えて下さいね」と明るく言った。

 女中の目からは、非常に器量が良く、明るい性格の、好ましい少女に思えた。

 しかし、ルーダは家に来てから一ヶ月目に、姿を消した。彼女の伯母にあたる、旦那様の姉と引き合わせられてからすぐの出来事だった。


 ローベは、度々エルフィン家のメイドから話を聞くようになった。自分も市場に行くついでに、いつも大荷物を持って帰る事になる女中の荷物を少し持って、その時に女中が心にしまっておけなかった事を聞いた。

 その日に聞いた話は、奥様の病状が芳しくない事と、いつも、奥様に丸薬のような物を含ませる仕事があると言う事と、新しく屋敷に来た養女が、また屋敷の主人の姉の所に行ったと言う事だ。

「私、あのお屋敷を離れようと思ってるんです」と、女中は怯えたように声を潜めて言う。「もし、お嬢様も、またミイラになって見つかったりしたら…」

 そう言って怖気を振るう女中に、「屋敷を離れる時は、注意して理由を考えてね」と、ローベは助言しておいた。


 ローベは自分の家で、犬のエースを相手に「新しく行方不明になった子供」の事を話していた。

「安心して」と、エースはローベの夫の声で言う。「エルフィン家に入り込んだのは、僕達の仲間の調査役だよ。随時、連絡はもらってる」

 夫の声の語る話を聞くに、農場主であるエルフィン家の旦那様の姉は、今の所、養女であるルーダに淑女の作法を躾けているらしい。食事も食べさせてもらっているが、「しっかりした量」があるわけではない。パンとスープだけの時もあれば、野菜だけの時もある。チキンの脚やチーズが出てくるときはご馳走の部類だ。

 伯母の家が貧しいのかと言ったらそうでもなく、ルーダに粗末な食事を食べさせている間、伯母達は街のレストランにディナーを食べに行っている。

 健康な人間の子供の体形のままだと怪しまれる量しか食べさせてもらっていないので、ルーダは自分の体を少しずつ痩せさせて行った。

 手足がガリガリになり、あばらが浮き始めた段階で、エルフィン家に戻された。麻酔にあたる何かを注射され、意識を失ったふりをすると、手足を拘束されて口に(くつわ)を噛まされた。

 そして、子供部屋の暖炉の裏にある部屋に閉じ込められた。


 心の中でルーダの身を案じながら、ローベは夫から話を聞いた翌日、町の図書館に行った。そこに設置されているパーソナルコンピューターで、「ミイラ」と検索してみる。

 いくつかの情報を読んだ時、異国でミイラが薬として取引されていたと言う情報に出会った。実際に一定の効能があったらしい。その効能の由来は、防腐剤として使われた「プロポリス」と言う蜂蜜に含まれる成分から来ているのではないか、と書かれていた。

 いくつかの「ミイラの作り方」を見ていると、蜂蜜に由来する防腐剤を使っていたミイラばかりでは無いようだ。樹脂と油と糖を防腐剤して使う場合もある。基本的には遺体を乾燥させて、内臓と脳を取り出し、防腐剤を塗りつけて布を巻くと言う方法を取るのだと言う。

 甘い油のにおい…と、ローベは考えた。

 以前の新聞では、「ミイラ化した遺体が盗まれた」としか書かれていなかった。その盗み出したミイラを、なんに使ったのかを予測するなら、薬として…と考えてしまう。

 プロポリスの成分ではなく、ミイラそのものに薬学的な効能があると勘違いした誰かが、いや、エルフィン家の者が、ミイラを作って薬と成しているのかも知れない。

 その薬は誰に処方されているのか、と考えたら、病に臥せって居ると言うエルフィン家の奥様だろうか。薬として処方されていると言う丸薬の事が、ローベの頭をかすめた。


 図書館での調べものの後、ローベはエルフィン家の女中に、奥様の飲んでいる丸薬を一粒だけ盗み出してほしいと頼んだ。

 女中は、奥様に薬を含ませるときに、一粒だけ手の中に残して、それを休憩室まで持って行き、紙に包んだ。そして、実家の者が病にかかったので、その看病をしなければならないと言う理由を述べ、荷物を纏めて屋敷を離れた。実際に実家に逃げる途中、ローベの住む屋敷を訪れ、紙に包まれた丸薬を渡した。 


 ローベは、その丸薬を持って、自分が脚の骨折を治してもらった病院に向かった。

 理由を聞き、医者は訝しそうな顔をした。「ミイラを、薬に?」と言って。

 ローベは、丸薬の中に人間の体組織が含有されて居ないかを調べてほしいと頼み込んだ。

 気味の悪い話なので医者も渋っていたが、「この丸薬は検査に回します。結果は後日連絡しますから」と言って、ローベを帰らせた。

 そして、検査の結果が出た日に、医者はローベの家に電話をかけてきた。

「水分を著しく失った人体の細胞が、主成分として検出されました」と言って。そして聞いてくる。「あの丸薬は、何処で手に入れたのですか?」

 ローベは、女中から聞いた事と、自分の調べた事と、エルフィン家には今も餓死させようとされている子供が閉じ込められていることを伝えた。

「何故、閉じ込められている子供が居ると知っているんですか?」と聞かれたので、「数日前までエルフィン家で働いていた女中さんが、教えて下さいました」と方便を告げた。

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