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最終話 奴隷→金貨と藁

「え?え?え?」


アリサは状況が分からずキョどっていた。

そんな彼女の眼前の檻の扉がガチャンと閉められる。


「え???ちょ、ちょっと!!!どうなってんの!!オッジ!!!これはどういうこと!!」


 理性を取り戻したアリサが今しがた閂を嵌められた馬車の檻の鉄格子にしがみ付き大声で叫ぶ。

ガンガンと揺するが檻はびくともしない。檻の乗っている馬車はぎしぎしと軋んでいた。


「オッジ、すまない。すまない。助かったよ」


 僕の目の前にいる少し気の弱そうな青年、奴隷商のバハムは僕の手を取り何度も何度も謝っていた。


「かまわないさ、困ったときはお互い様。僕と君の仲じゃないか」


 彼は僕が貴族だった時、家に出入りしてた奴隷商の息子だった。幼い頃より我が家に出入りして奴隷の手配をしてくれていた。2年前、嫁を取って奴隷商として一人立ちをしたときはナイスと3人で祝ったものだった。


話は少し遡る。


 アリサと2人エルフの森を出た時、空の明かりは西に沈む微かな太陽の光と昇ってくる月の輝きが半々になったころであった。

僕もアリサも旅の装備は持っていない。このままでは野宿すら危うい状態であった僕らは急いで街に向かっていた。

 だが、今日一日で僕はたくさんのことが起こりすぎていたし、アリサもまた村のために奔走した疲れがでて重い足取りはいくら急いても早くなることはなかった。

そんな僕らの目の前に小さな光が見えた。薪の明かりだ。

僕らは顔を見合わせてその光の方に足を向けた。


「あの……すみません」


薪に近づくとそこには大きな馬車が止めてあり、野営をしている男が1人。

火の前に座り頭を抱えていた。


僕が声をかけると男は顔を上げる。

お互いの顔を見て2人で驚いた。


「オッジ?オッジなのか?」


「バハム?なぜ君がこんなところに??」


バハムは立ち上がり僕に駆け寄って僕らは偶然の巡り合わせを喜んだ。


「なんでこんな所に?奴隷の買い付けかい?」


その言葉にバハムの表情に陰りが出る。


「あ、あの……」


アリサが僕らに控えめに声をかけた。

バハムは暗がりから現れたアリサに視線を送り、驚きで目を見開く。


「エ、エルフ!!」


 彼は僕に飛びつくように掴んでいた肩を揺すりながら


「か、彼女はなんだ?君のなんなんだ?」


 突然人が変わったように僕に食ってかかるバハム。

その豹変ぶりに僕は戸惑う。


「ど、どうしたんだ?!バハム。君らしくない取り乱し過ぎだぞ」


 僕は彼を諫めて落ち着かせようと試みたが彼はさらに鼻息荒く


「あれは君の知人か?どうなんだ?いや、不躾で失礼なお願いをする。彼女を、彼女を売ってくれないかっ!!」


 バハムの言葉に僕は呆気にとられた。


 アリサに火の番をさせて僕とバハムはそこから離れて彼の馬車の裏側に移動した。

彼女には聞かせづらい話のようだったからだ。


バハムは座り込み頭を抱えて語り始めた。


「懇意にしている貴族のバカ……ご子息がエルフの奴隷を欲しがって僕に商談を持ちかけてきたんだ。エルフの奴隷は高価だし希少だ。そうそうに手に入る物じゃない。そう言ったんだがどうしても聞き入れなくてね」

彼は静かに続ける。

「どう頑張ってみても見つからなかった。だが、バカ息子は聞き入れてくれない。しまいには攫ってこい、まで言い出す始末でね。さすがに僕らは人攫いじゃない。ガンと断ったら……妻を人質にされた」


バハムは頭を抱える。


「返してほしくばエルフを連れて来いと。金は払うからと。そうでなければ妻を闇市に売り飛ばすと言ってきた。父も抗議してくれたがバカ息子は聞き入れてくれない。逆に父の事業にも嫌がらせを始めた」


バハムは涙を流して苦しむように話を続ける。


「ここの森のエルフの村にも交渉に行ったがダメで。他の村にも行ってみたんだがやはりだめだった。ダメもとで何度も通っていたらここの村長が多少興味を持っていたみたいだったから明日も頼み込もうと。……でも期限は明日までなんだっ」


バハムはさらに縮こまり嗚咽を漏らす。


「妻の……妻のお腹には僕の子供がっ……心配で……」


もう見ていられない状況だった。僕はそっと彼の肩を抱く。


「わかった。僕が、僕がなんとかできる状況だ。君は運がいい」


僕の言葉にバハムがバッと顔を上げた。

僕は彼に告げる。


「今そこにいるエルフの彼女は僕の奴隷だ。君に譲ろう」




「ちょっと!!どういうことなの!!オッジ!!こっちを向きなさい!!」


 アリサが叫んでいる。

火の番をしていた彼女の元に戻って僕は彼女の自由を奪い奴隷用の馬車に乗せた。

僕を信頼していた彼女はなにが起こっているのか理解できずそして理解した今、彼女は僕に怒りの叫びをぶつけている。


「彼女、大丈夫なのかい?あんなに怒っているよ?」


「売られる奴隷が叫ぶのはいつものことだろ?」


僕は奴隷契約書を出し、彼の前に広げる。

そしてバハムの持つ短剣で指に傷をつけて血で自分の名前に二重線を引く。

すると僕の名前が消える。バハムはその空いた署名欄に魔法筆でサラサラとルーンを描く。

これで彼女の権利は一旦バハムの物となった。この後、正式な奴隷契約が交わされるのだろう。


「ほんとにいいのかい?君と彼女の関係、どうみても奴隷と主人には見えな……」


そう言いかけたバハムの言葉を静止して


「君が困ってるんだ見過ごせないよ」


僕はそう言うとバハムは申し訳なさそうに頭を下げて


「すまない。この恩にはいつか報いる。さらに失礼を承知で僕はこのまま貴族の元に向かう」


「ああ、そうするといい。奥さんが無事だといいな」


僕は心底そう思った。


「そうだ。これ、代金だ。金貨で600枚ある。足りなければ用立てる。後日ぼくのうちにきてくれ」


 そういって大きな袋を3つ僕にくれる。


「いや、これだけあれば立派な長者さ。ありがとう。気をつけて行ってくれ」


 バハムは僕にお辞儀をするといそいそと馬車に乗り込み馬車を発車させる。

馬車の後部の檻が見える。アリサと目が合う。

彼女の鬼のような形相。


「オッジーーーーー!!!覚えてろーーーーーーーー!!必ず復讐してやるからなーーーーーーー!!!」


彼女の怒声が響き渡る。それがどんどんと離れていく。

僕はそんな彼女の声が遠ざかる方向に


「ああ、アリサ。必ず復讐してくれ。僕は必ず君の望むままに贖罪するとことを誓うよ」


 僕はそう呟きバハムからもらった金貨の袋の一つを開けてみる。

薪の炎を反射する綺麗な金貨が袋いっぱいに詰まっているのを確認する。

僕はふと袋の中にある1本の藁に気づき、それを手に取る。


「さて、アリサの復讐を受けにいくとするか」


僕は藁を天高く掲げて静かに笑った。

僕の冒険はここから始まる。

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