第7話 手と手、取り合って
「じゃあ僕は街へ帰りますね」
僕はアリサの村の皆に別れを告げる。
「助かったぞ。アリサをよろしくな」
「近くまで来たらまた寄ってね。その時は村も再建してるから」
「アリサ……僕は君のこと……」
エルフたちは皆思い思いの言葉を僕にかけてくれた。
「契約履行『ムーヴ:コントロール』」
僕がそう呟くとアリサの硬直が解ける。
彼女は勢いよく立ち上がり、僕に怒りの表情で詰め寄ろうとしたが僕がその手を取る。
「なっ」
急に手を繋がれて驚くアリサ。そのまま僕は彼女の手を引く。
そのまま流れるように彼女も歩き出し、僕たちは村に来た道に向かって歩き始める。
「お達者で~」
「元気でなー」
「アリサ、幸せになるのよ~~」
皆の見送る声に僕は振り返り手を振る。
アリサは不貞腐れた顔で僕に手を引かれながら振り返ることなく進んでいく。
僕たちは半壊したエルフの村を後にした。
僕たちは薄暗い森の中を2人歩く。
彼女は一言もしゃべらず、手を引く僕にとぼとぼと付いてくる。
『ムーヴ;コントロール』は奴隷を追従させる拘束魔法だ。
しばらく2人森の中を進むとふいに彼女が木の根に躓きこけてしまった。
離れた手を僕は彼女に差し出し
「大丈夫?」
そう聞くと
「……もう嫌」
ぼそりとアリサはそう呟き
「もういやっ!!なんで私が奴隷になんなきゃいけないのっ!!あなたなによ?!!村を救ったからってこうやって女の子を無理やり手籠めにして面白い?」
アリサは駄々をこねる子供のように癇癪を起し叫ぶ。
僕は頭をポリポリ掻いて空を見上げる。
叫んだら少し落ち着いたのかアリサは項垂れて動かなくなってしまった。
「……僕はね、今日家を追い出されたんだ。使えないスキル『わらしべ長者』のせいでね」
彼女は動かない。じっと地面を見つめている。
「ほんとは親友と冒険者になってたくさんの人を助けるS級冒険者になりたかったんだ。でも彼の周りには強い仲間がいて僕はお呼びじゃなかったんだ」
僕は彼女を見る。
「一人になって心細かった所に君は現れた。誰も必要としなかった僕を君が必要としてくれたんだ」
アリサが顔を上げる。その目には先ほどまでの不審者を見る怒りの炎はなかった。
「おかしな形で君を連れ出したのは謝るよ。でも僕は一人じゃなくなったことを、君が僕に付いてきてくれることを嬉しく思ってるんだ」
僕はそっと彼女にもう一度手を伸ばす。
「これから僕は冒険者になる。君も一緒に来てくれないか?君が必要なんだ」
アリサの目が大きく見開かれる。少し頬が赤くなったような気がした。
だが、彼女は一瞬目を伏せ躊躇う。
「……そういう言い方は卑怯よ」
ぼそりと呟いて、しばらく地面を見つめた後、パッと上げた顔に迷いはなかった。
「仕方ないわね。村を救ってもらった恩もあるもの。付いて行ってあげるわ」
そう言って僕の手を掴む。
僕はぐっと手に力をいれて彼女を引っ張って助け起こした。
「とりあえず、帰り道が分からないんだ。道案内を頼めるかな?」
そう言うと、少し感動していたアリサの顔が一瞬でしらけ顔になっていた。