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第6話 装備一式→アリサ

アリサを置いて僕は駆け出す。

辺りに飛び散ったスライムがうねうねと動いて僕に飛びかかってくる。スライムの盾の効果だ。僕はそれを剣で斬りはらいながら一気に残りの巨大スライムへと突撃する。

この巨大スライムは多少なりとも知能があるのだろう。

僕から離れようとその巨体を動かしてゆっくり後退を始める。


「遅い」


 僕の速度はその動きを完全に凌駕している。あっという間に肉薄して今度は飲み込まれる前に剣を突き出す。スライムの身体に触れた剣の衝撃はそのままスライムの身体に大きな穴を空けた。


「しっ!!」


 足を止めて踏ん張りそのまま剣を上方へと振り上げる。大きな空洞からスライムの身体がそのまま真っ二つに裂ける。シュウシュウと煙を噴きながら苦し気に粘液を震わせている。

 僕はそのまま連撃を繰り出すように上下左右無茶苦茶に剣を振り回す。

面白いようにスライムは切り刻まれ、先ほどと同じように爆散して辺りに飛び散った。

あっという間に村の半分を侵食していたスライムを微塵切りにして消滅させた。

至る所にスライムの残骸がうねうねと動いていたが、脅威と呼べる代物ではないだろう。


僕は剣を鞘に戻して一息つくと置いてきたアリサの元に戻った。


「終わったよ」


 僕の姿を見て駆け寄ってきたアリサはそのままの勢いで僕に抱き着いてきた。


「おっと」


 あまり力に自信のない僕は彼女を受け止めきれず尻もちをつく。


「ありがとう!!すごいわ!!あんな大きなスライムを一瞬で!!なんて人なの!!」


興奮で頬を蒸気させながらアリサがまくしたてるように僕を賞賛する。

少し照れ臭い。


「おーーーい」


スライムの消滅を目にして村人たちも急いてこちらにきたのだろう。皆が走りながら僕らに追いついてきた。


「な、何者なんだ!君は」


「すごい!!あのスライムを一瞬で倒すとは!!」


「ありがとう!!村の恩人よ!!」


沢山の感謝と驚きの声をかけてもらう。


 アリサの父親が前に出て僕にお時期をする。


「冒険者殿、村を救ってくれてありがとう。だが、村の半分はスライムによって破壊されてしまった……」


 その言葉で喜んでいた村人たちの喜びの喝采が徐々に小さくなり、皆が村の残場を目にして静まり返る。ぼくも共に村を見渡す。

スライムのヌメヌメした液体が至る所にこびりつき、うねうねと動いている。飲み込まれた建物などが反消化状態で半壊していた。もう使い物にならないのは一目瞭然であった。


「村の半分は飲み込まれてしまった……貴重な食物庫も無くなった……」

アリサの父親はそう静かに語る。


「だが、村人の被害は無く、村はまだ半分も残っている。まだ我々は生きているのだ!」


 村長はそう強く言って皆を鼓舞する。その言葉に気力の亡くなりかけていたエルフたちが顔を上げる。

だがそこに水を差すように若い男のエルフが


「だけど……無数に散らばるスライム片は次のデンジャラスグラトニーヘビーブラッドキングスライムを呼ぶんだぞ。それに徐々に集まってまた巨大なスライムになるぞ。これだけ飛び散ってしまったのなら全滅させるのは困難に近い。この土地は……もうおしまいだ」


 青年エルフが悲痛に叫ぶ。

それを聞いてまた一同意気消沈し、上がりかけた顔がまた下を向く。


「スライムの残骸が処理できればいいのですね?ではこの僕が装備するスライム装備一式を差し上げましょうか?」


「す、スライム装備!!、」


「君、それはスライム装備なのか?」


「どおりで、スライムがあっという間に」


 俯いていたエルフたちが驚きで顔を上げる。


「……願ってもない申し出だ。だが我々の村はご覧の有り様でお礼できるものが……」


 アリサの父親は僕を見て顔を歪める。


「お父様、何が、何が村の宝とかないの??」


 アリサは父親に詰め寄る。


「そんなものは……あ!!」


 父親はアリさの顔を見て何が閃いたような顔をする。


「……え?」


 死線を外さない父親の顔に何やら不審な感覚に捕らわれたアリサが一歩たじろぐ。

父親は僕の方を向き直って


「君、うちの娘をもらって……」


「お断りします」


食い気味に僕が即答するとアリサは唖然とする。


「そ、そこをなんとか…‥ガサツな娘だがこれでも器量良しだ。性格も良く気も利く」


 村長はそこまで大きな声で誉めてそっと僕に近づき


「何より処じ……」


 そこでアリサが投げた木片が頭部にヒットして崩れ落ちる父親。


「な、な、なんてこと言ってんのよ!!あとあなたもッ!!速攻で断るのは納得いかないわ!!」


 アリサが詰め寄ってきた。僕はその彼女の剣幕に気押されながら


「この装備は物々交換で知り合いに譲ってもらった大事なものです。君の意思なく交換はできない」


 僕はそう答える。そう言われてアリサは一瞬躊躇して僕をじっと見てから


「わ、私は……」


 そう言って顔を少し赤らめて俯く。


「では、奴隷契約ならどうだろう。これなら物々交換のようなものだろう?」


 すくっと立ち上がった父親は懐から巻かれた紙を取り出す。


「ほう、奴隷契約書ですか」


「そうだ、この間奴隷商人が来てね。娘を売らないかと持ちかけてきたのだよ。だからこっそり娘の血判を押させてね、あとは発動させるだけの状態になって……」


 そこで言った父親の前に目をギラつかせたアリサが瞬時に移動して強烈な拳をボディに、下がった顎を的確なアッパーで勝ちあげて吹っ飛ばす。


「な、な、な、なんで勝手に!!……私を売るつもりだったの!!」


「い、いや……ほら、まぁまぁすごい額でね……村のためになればと……」


 アリサに胸ぐらを引っ張られ引きずり起こされた父親はヘラヘラ笑いながら娘をなだめる。


「こ、こ、この……」


 アリサは怒り頂点に達した形相で父親にもう一発ぶちかまそうとした時、僕がおもむろに兜を外し、腰の剣と兜を地面に置く。そして鎧を脱ぎそこに並べ始める。


「え?え?え?な、なに?」


 突然の奇行にアリサが怒りを忘れて戸惑いキョロキョロする。村長は僕の行動を察してニヤリと口を歪めてアリサを振り払って立ち上がる。

 鎧を外しブーツを脱ぎ、装備一式を並べ終えた僕は村長の前に立つ。

村長は僕と真摯に向き合い右手を差し出して握手を求め、僕はそれに無言で応えた。


「え?え?」


 アリサは状況が掴めず軽いパニック状態で僕と父親をを交互に見ている。

村長は手を離すと一瞬で丸めていた紙を僕の目の前にサッと広げる。

僕は素早く懐に持ってた懐剣を出して、指を切り血文字で自らの名を広げられた紙の署名欄に走り書く。

すると紙に書いてある文字が神々しく光を発する。


「……っきゃああああああ」


 突然、女の子が悲鳴をあげて胸元を抑えながら蹲る。激痛に耐えているようだった。

蹲る女の子の肩の力が抜けた時、光っていた紙がシューっと煙を上げていた。


「契約成立だな」


「ええ」


 僕と村長はお互いを見て清々しい表情でもう一度固く握手をした。


「なんてことすんのよぉぉぉーーー」


 女の子のドロップキックが炸裂し、僕と村長は吹っ飛ばされた。

今度は倒れた僕の胸ぐらを掴んで引き起こしたアリサが


「いま私の意志がどうとか言ってたとこじゃない!!なんで即座に契約すんのよ!!」


「い、いや、奴隷契約は契約主との契約だから君の意思は関係……ブホッ!!」


 僕の言葉はアリさの拳で遮られる。

殴られて地面にキスした僕の上半身をさらに引き起こし、もう一撃を加えようとするアリサに


「け、契約履行!!『バインド』」


 僕がそう叫ぶと今にも拳を振り下ろさんとしたアリサの体がピタリと動きを止めた。

奴隷契約は魔法による拘束と制約が課せられるのだ。


「…グググっ……」


 動かぬ身体を震わせながら憎々しげに僕を睨むアリサ、必死に身体を動かそうと力を入れてるのがわかる。だが動けない彼女の姿に僕は安堵して立ち上がる。


「すいませんな。乱暴者で。だが根はいい子なのです。どうか末永く大事にしてやってください」


 動けないアリサを優しい目で見ながら父親はそっと彼女の頭に手を置き優しく撫でた。


「ええ、僕はこう見えて元貴族です。奴隷の扱いには慣れたものですよ」


「そうですか。なら安心だ」


「はっはっはっはっは」

「はっはっはっはっは」


高らかに笑う僕と父親の下でアリサは動けずプルプルと震えていた。

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