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第4話 パンツ→装備一式

 僕の不安をよそにおねーさんは記章を眺めながら夢の世界を漂っているようだった。

僕は諦めてカウンターから離れてギルドの出口に向かおうとすると


「待ちな!にいちゃん」


 出口に3人の屈強な肉体を持つ強面の男たちが出口を塞ぐように立っていた。

皆装備は違えど冒険者のようだ。


「ちと面貸せやにーちゃん」


 一人の男が近づいてきて僕に肩組みをして動きを封じる。

他の2人は僕たちが見えないように壁役のように後ろに立つ。


「あの……なんのようでしょう?」


 僕は穏便に訊ねる。


「まぁ、いいから外に行こうや」


 肩を組んだ男は俺に顔を近づけてニカリと笑うが、目は笑っていなかった。

チラリと後方の2人に視線を送る。二人は厳しい表情はあらゆる状況に対応できる雰囲気を醸し出していた。3対1では叶うわけがない。僕は大人しく従う。

 肩を組まれたまま歩き出す。その少し後方を2人の男が付いて歩き僕は冒険者ギルドを連れ出され、そのまま路地の方へ連れ込まれる。

薄暗く人が2人通るのがやっとの細い道であった。

路地の奥に少し広くなった場所があり、そこにはさらに6人ほどの男たちが待ち構えていた。


 そこにいたのは大柄な男やひょろりと痩せ型の男などいろんなタイプがいたが、全員隙のない気配を出しており、何度か死線をを潜り抜けてきたであろう雰囲気を纏っている。

ここにいる者は全て冒険者なのだろう。

全員がギラついた目で僕を値踏みしているようだ。


「……こいつか?」


 路地の奥で壁に寄りかかって腕組している一番強そうな男が隣に立っているヒョリとした男に話しかける。

ヒョロリとした男は僕をまるで親の仇かのように睨みつけ


「……ああ、間違いねぇ」


 低い憎しみのこもった声でそう答えた。

一番強そうな男はヒョロリとした男を抑えるように肩を叩くと数歩僕の方に歩出て


「……貴様、とんでもない物を持っているそうだな」


 そう声をかけてきた。

僕は思い当たる節がなくて?を飛ばしながら


「なんのこと?」


 そう答えるとヒョロリとした男の癇に障ったのだろう。


「て、テメェ!!しらばっくれる気かっ!!俺は見てたんだぞっ!!」


そう言って僕に飛びかかろうとしたが周りの男たちが彼を取り押さえる。


「まてまて、まずは確認が先だ。……持ってるんだろう?」


「……何をだ?」


「……ツだ。」


「え??」


男はゴニョゴニョと呟き、その語尾しか聞こえなかった僕は聞き直す。


「受付のメリッサ嬢の、パンツだ!!」


今度は男が大きな声で叫ぶ。僕は唖然となり周りを見渡す。だが誰もクスリとも笑わない。

皆、目が真剣そのものだった。


なるほど。


「……ああ、さっき本人からある物と引き換えにもらった物を持っている」


 僕がそう答えると今度は全員が動揺し、一歩後ずさる。


「テメェ!!俺の天使を汚しやがってえぇぇぇ!!」


 ヒョロリとした男が取り押さえていた男たちの手を振りほどいて涙と鼻水を流しながら半狂乱で襲いかかってきた。

 だが、すぐに降りほどかれた男たちの手でヒョロがすぐ捕まった。

喚き暴れるヒョロは引きずられるように奥へと連れて行かれた。


 静かな静寂が場を支配する。


交渉を持ちかけてきた男はヒョロが連れ出された方向を見ていたが、こちらを向き直り話し始める。


「……もうわかったと思うが、我々は受付のメリッサ嬢を想う会の者たちの集まりだ」


 皆が神妙な顔をする。


「君が彼女から……その……下着を巻き上げたと聞き、ここにいる皆が冷静ではいられなかった」


「ああ、これのことか」


僕はポケットにしまっていた丸まった布切れを取り出し彼らの前に出す。

全員にさらに動揺が走る。


「はっ……ま、バカなっ!!」


「く、黒だと……」


「ウソだ!!メリッサちゃんは黒なんて履かない!!」


「いや、あの清楚なメリッサさんが黒とは……ゴクリ」


 各々が思いを口走り、ある者は泣き、ある者は腰を屈める。

僕はなんだかこの場にいること自体が面倒くさくなって


「よかったらこれ、差し上げましょうか?」


 そう言うと、周りの空気がさらに変わった。皆の目がギラリと光り、誰もが隣の人間と距離を取り始める。今にも戦闘が始まりそうな気配となる。


「狼狽えるなっ!」


ずっと僕に話しかけていたリーダー格の男が一喝で全員を制する。


「……どんな形であれ、それは貴様が貰ったものだ。我々がタダでもらうわけにはいかん」


「バカな!!」


「何言ってんだ!!こんな機会もうあり絵ねぇかもしれないぜ!」


「そんな男がソレを持っていること自体納得がいかん!!」


 皆が口々に想いを叫ぶ。

リーダー格の男はしばらく黙って聞いていたが


ダンっ!!


と大きく地面を鳴らすと、周りはその音で静かになる。


「タダでは、と言ったのだ。君、名は?」


「……オッジと言います」


「ふむ。ではオッジ君。君はソレを物々交換で手に入れたとのことだが?」


「……はい」


 リーダー格の男はこくりと頷き


「では、一つ提案がある。君にはあまり重要ではないその衣類は我々の中では極上の宝物だ。そこで我々はそれぞれ自分の宝物を出して君がコレと言うものがあったらそれと交換する、と言うのはどうだろう?」、


 強そうな男の提案に僕以外の男たちが生唾を飲み込む。

僕は少し思案して


「いいでしょう」


そう言言い終わる前に


「お、俺のこの剣と交換でどうだ?金貨一枚はする俺の全財産だ!!」


「これ、この魔法のランタンでどうだ?燃料要らずで永久に使える代物だぞ」


「こっちにしろ!この盾は昔、とある騎士が使ってたもので……」


次々と男たちが自らの持つ最高の一品を選んでもらおうと身を乗り出して競い合う。


僕はその気迫に押されて彼らの宝を吟味することさえ出来ず、提案をした男に助けを求めようとした時、

男がくわっと目を見開き、場を収めようと口を開きかけたが、僕の後ろに視線が移動し、動きが止まる。


「……そこまでだ」


 静かな声が路地に響き、全員が動きを止めて声のした僕の後方へ集まる。

僕が振り返るとそこには全身を青白い鎧に身を包んだ男が立っていた。


「す、スライムスレイヤーさん、なんであんたがここに」


リーダー格の男が驚愕の顔で鎧の男の名前らしきものを呼んだ。


「スライムスレイヤー?」


 僕が小首を傾げると近くに立っていた男がそっと近づいてきて耳元で


「この街の古参冒険者だ。この街の周りはスライムが大量に湧きやすくてな。スライム退治してないと大災害「スライム大河」が起こりやすいんだ。でもあの人が常にスライムを一定数狩ってくれるからここ30年スライム大河は、起こってない」


 ここにいる冒険者たちは彼に敬意を払い畏まる。

随分と権威ある冒険者なのだろう。


「か、会長。なぜこちらに」


 リーダー格の男がスライムスレイヤーに近づいてそう声をかける。


会長?


「……今そこでマーカスに詳細は聞いた。……彼か?彼女の貴重なアレを持っていると言うのは?」


 兜のせいで分かりづらいが彼の視線が僕に向いたのはわかった。

均衡の取れた体に水色で統一された鎧を着ている。腰には剣を、左手には収まりの良い変わった形の小さな円盾を持っている。


「……君の手に入れたと言う彼女のアレ、しっかりと開いて見せてくれないか?」


「……わかりました」


僕は手に持った丸まった黒い布の両端を持ってばっと広げる。

黒い女性物の下着が薄暗い路地で掲げられる。

僕の知る下着よりやや小さく、これで腰回りをカバーできるとは到底思えない物であった。

だが、しっかりと伸びてその肌触りは優しい絹の感触であった。

いい生地のようだ。


「おお……」


「こ、これが……」


「か、かぁちゃん生きててよかったよ……」


まるで神々しい何かを見るように皆、目を細めて黒い下着の前にひれ伏しそうな勢いであった。


「……あれが彼女の……なんと下品な……だが、それがいい!!」


 静かに喋っていたスライムスレイヤーの言葉はどんどん熱を帯びて大きくなっていった。

そして彼はおもむろに鎧を外し始める。

鎧を外し、盾を置き、剣を置いて靴を脱ぐ。そして最後に兜を外してその場に並べると


「……その下着、この装備一式とで交換してもらえないだろうか?」

静かにそう言った。


「会長!!それはっ!!」


「す、スライム装備一式と!!」


「会長は本気だ!!」


 皆が驚きで後ずさる。

僕は一人置いてけぼりだった。


「あの装備すごいんですか?」


 僕はさっき説明してくれた男に耳打ちして問う。


「お前が知らないのは無理もない。あの装備はスライムを倒し続けて30年のあの人だからこそ手に入れれたスライム装備。伝説級に稀にしかドロップしないレアアイテムだ」


「会長、この装備は会長の人生と言っても過言では……」


 リーダー格の男はスライムスレイヤーを説得しようとするがそれを手で制されて


「……スライムは素手でも倒せる。だが彼女の下着を手に入れるチャンスはここしかない」


 パンツ一枚のスライムスレイヤーさんの言葉に皆が涙して俯く。


「どうだろう?我が人生とも言える装備だ。これとでは不服かね?」


スライムスレイヤーの言葉に僕は首を振り


「……いいえ、あなたと交換したいと思います」


 僕は手に持っていた黒い下着を丁重に差し出す。

彼はそれをそっと受け取ると


「……ありがたい」


 と言って天を仰ぐ。彼の目から頬を伝う涙。


「うっううっ……」


「やったっすね。会長」


「会長に負けるのなら……本望っす」


 周りの男たちも嗚咽を漏らしている。


 なんだこれ?


「では、さらばだ」


スライムスレイヤーさんは両手で黒い下着を大事そうに持ったまま、僕に背を向けてパンイチ姿のままでスタスタと歩いて路地を出ていった。


 残されたスライム装備。

僕は途方に暮れていると


「着てみりゃいいじゃねーっすか」


 俺と話していた男がそう言う。


「んー、じゃあとりあえず」


僕は鎧を着て、靴を履き、兜をつけて剣と盾を持つ。

ちょっと生温かったがサイズはぴったりだった。

着てみるとその能力がなんとなくわかった。


スライムの剣:スライムを即死させる剣。

スライムの盾:スライムは盾に向かって飛び掛かる。

スライムの鎧:スライムの攻撃ではダメージを受けない。スライムの中で自由に動ける。

スライムの兜:スライムの声が聞こえる。スライムの中でも息ができる。

スライムブーツ:スライムを踏んでも滑らない。スライムに乗れる。


「……なるほど。これがレアアイテムというやつか」


「今後はその装備で街の周りのスライムを駆逐してくださいや」


男はそういって片手を上げて挨拶をすると路地から出ていく冒険者たちに混じってこの場を去っていった。


「ふむ。そう言えばおねーさんもまずはスライムから、と言っていたな」


僕はスライムを退治するために街の出口へ向かった。

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