第2話 紙→第二ボタン
「おおーい、オッジどうだった?」
教会を出てきた僕に声をかけてきたのは無二の親友イケメン冒険者、ナイスだった。
彼は僕に駆け寄ってくる。
「うん。ダメだった。ハズレスキルだ。親父にも感動された」
僕は手に持った絶縁状という紙切れをひらひらさせてナイスに見せる。
「……そうか。しかし相変わらずな親父さんだな。でも手間が省けたじゃないか。これで晴れて冒険者になれるな!」
ナイスはにこやかに笑い僕の肩を叩く。
「いや、そうなんだが……でもな」
僕が授かったスキルのことを話そうとすると
「行こうぜ!!早く冒険者ギルドで登録して一緒に冒険へ行こう!!」
ナイスは僕の話も聞かずさっさと移動し始める。
「いや、そのスキルがね……」
スタスタと進むナイスの後ろを僕は小走りに追いかけた。
「やぁ、待たせたね」
冒険者ギルドに到着するとギルドが兼業する酒場の奥で食事をしていた3人の女性と合流する。
彼女たちはナイスのパーティメンバーだった。
ナイスはこのギルドきってのイケメン勇者と呼ばれ、Sランクの冒険者だ。
「おっそーい、待ちくたびれたー」
「……ナイス遅すぎ」
「ナイス様、我々はこんなところでのんびりとしている暇はないのですよ?今、この時も民たちが魔物に襲われて……」
「わるかった、悪かったよ。前もって話をしてた今日から俺たちの仲間になるオッジだ」
ナイスは僕の肩に手を回して僕を女の子たちに紹介する。
彼女たちの汚物でも見るような視線が僕に突き刺さる。辛い。
「えー、いけてなーい」
「……臭いわ」
「……本気だったのですか?私たちは今の状態で十分バランスが取れています。今さら新しい仲間と言われても連携の問題なども出てきます。何よりその方、本当に私たちと肩を並べれるほどの実力をお持ちなのですか?」
口々に不平を鳴らす女の子たち。
ナイスは少し困った顔をして
「僕の幼馴染で大事な親友なんだ。それに今日スキルをもらってきた。えーと、スキルは何だったっけ?」
僕の顔を見るナイス。
相変わらず何も聞いてなかったようだ。
僕はため息をつき
「僕のスキルは『わらしべ長者』。ハズレスキルだ」
僕はそう説明する。
すると女の子たちはわざとらしく落胆して見せて
「つっかえなーい」
「……臭いわ」
「話になりませんわ。どう聞いても戦闘スキルとは思えません。せめて『剣聖』とか『魔人』とか『賢者』クラスなら考えもしましたが『わらしべ長者』?なんですか?それは?」
もうボコボコだ。だが彼女たちの表情には安堵の色が伺えた。
僕はナイスの耳元で
「彼女たちのいう通りだ。僕は君のパーティに入るのは遠慮するよ。実力が違いすぎる」
「なっ……たしかにそうかもだが……俺は君と一緒に冒険するのが夢だったんだぜ?」
ナイスは心底寂しそうな顔をした。
僕は軽く首を振って微かに笑い
「しばらく一人でやって実力がついたらその時こそ一緒に行こう」
そう言った。
ナイスは納得いかない顔だったが
「……わかった。いつか必ずな」
何とか納得してくれた。
「話は終わったようですね。では参りましょう。ナイス。時間は有限で困ってる人たちは待ってくれません」
立ち上がった聖女風の女性は僕を押し退けてナイスの横に立って腕を絡める。
「ちょっ、胸、胸が当たってるよ」
ナイスは絡めとられた腕に胸を押しつけられて戸惑っていた。
「……ナイス、かわいい」
幼く見える魔女の女の子がナイスの逆の手を取って立派とは言えずとも、確かな膨らみの間に挟み込んで妖しい笑みを浮かべる。
「なっなっなっ……」
ナイスはテンパり顔を真っ赤にして右左と顔を往復させている。
「あー、あたいもやるー」
大柄な格闘家と思われる女性がナイスに覆いかぶさるように後ろから抱きつき、その豊満なボディを余すことなくナイスに密着させる。
「ちょっ、み、みんな、は、離れて……」
ナイスは顔がタコのように真っ赤になりついに決壊した。
ナイスの鼻から赤い水流が滴り落ちる。
彼は慌てて手で鼻を押さえたが手の隙間からダラダラと血が流れ出ていた。
「まぁ、ナイス、また端ない。何に興奮したのでしょう?」
「……ナイス可愛い」
「へへへ、ナイスはすけべだなー」
3人はさらにナイスに密着する。
僕はそんなナイスが羨ましいより哀れに思えて手に持っていた絶縁状をナイスに渡して
「こんな紙しかないけど……使えよ」
そう言って彼に差し出す。
ナイスは紙を受け取って鼻を拭った後、紙を丸めて鼻に詰め込む。
「ありがとふぅ。たぁすかふぅたよ」
締まらぬ声と締まらぬ顔でニカリと笑い、僕たちは見つめ合う。
ナイスの周りの女の子たちの殺意の眼差しがこれでもかと言うほど僕に突き刺さる。
「ああ、そうだ。紙のお礼にこれを」
ナイスは腕に捕まる女の子から逃れて鎧の胸についていた何かの記章のようなもを外して僕に投げる。僕はそれを受け取り
「これは?」
「それをギルドの受付に見せれば良くしてくれるはずだよ」
「そ、それは!!勇者の第二ボタン!!そんな貴重なものを!!」
聖女風の女性が驚きの声をあげる。
「……あれ、わたしの……」
「えー、いいなー」
3人の女の子が口々に文句を言う。
「さ、僕たちはもう行こう。じゃあオッジ、またね」
ナイスは彼女たちの文句を遮るようにクルリと出口の方に向き直り僕に背を向けた。
「うん、またね」
僕も踵を返しギルドの奥の受付に向かうことにした。