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8.新たな拠点


 貧民街と言っても、フローレンスが管理している地域は善良な方であった。

 

 冒険者ギルドのある王都中心から、貧民街は外に行くにつれて環境は悪くなっていく。フローレンスは冷酷非道や悪魔だと言われているが、事実上はかなり良識のある統括者だった。


 その中でも、とびっきり条件の良い家……というかほぼ屋敷を渡された。


 貧民街から少し離れた森林に囲まれていて他の住民は居ない。ここなら静かに生活できるだろう。


 内装は普通だが、貧民街でこんな家に住んでる方に違和感がある。

 前に居たパーティーでも、こんな待遇は受けたことがない。

 まるで貴族にでもなった気分だ。


 客室にフローレンスとその部下を通し、向かい側に座る。


「これくらいしかできぬ。なんなら、妾の財産もニグリス殿にあげるぞ」

「いや、流石にそれは……お金には困ってるけどね」


 拠点としては十分すぎるほどの場所だ。

 ただ怪我を治しただけなのに、ここまでされると前の生活と比べてしまって素直に喜べない。

 普通のこじんまりとした家が良かったかも。


「ならば、妾がニグリス殿に依頼をするというのでどうじゃ?」

「依頼か。例えば部下を治癒して欲しい、とかか?」

「妾の傍におることじゃ」

「……もっとちゃんとした仕事はないか?」


 ずっとこの調子だ。流石に話が進まない。

 するとフェルスが袖を引っ張る。


 少し怒っている?ように感じたが、すぐに耳打ちしてきた。

 構ってくれないから嫉妬してる、とかじゃないよな。

 

「ニグリス様。鑑定スキルを使い、フローレンスの部下について助言する、というのはどうでしょう」

「助言か……確かに、俺しかできない仕事だ」


 フェルスの助言を聞き入れ、フローレンスに話すと感嘆とした声を漏らして納得した。


 料金は一人につき金貨1枚という破格さだ。そんなには要らないと言ったんだが、聞く耳を持たなかった。


 屋敷の中に護衛で来ていた部下を、俺は一人ずつ鑑定していく。


「鑑定」


 十人。

 三十分ほど時間が掛かったものの、面白いことが分かった。


 鑑定している人間を触ると、感覚的にその人物の筋力や俊敏さが分かるみたいだ。

 数字やAと言った文字では表示できないが、新しい発見だ。


 剣士の適性が高くてBの人間ばかりだ。

 魔法適性がある者は誰もいない。


 うちのパーティーにも攻撃魔法の使い手が欲しいな、と思う。


「あんたは剣じゃなくて槍を使った方がいい。力もあって器用さも高い。それで身長が低いから、手数で翻弄するんだ」

「あ、ああ……槍は握ったことがないんだが」

「俺も対人経験は少ないが、剣が相手ならば、足元を狙うことで受け身になる。隙を見て突けば負けないだろう」

「き、君は凄いな.....」


 その人物が向いてそうな武器を選び、既に選んでいるのならそこから伸びしろがありそうなものをアドバイスする。


 ……懐かしいな。元パーティーでも、こういうアドバイスをよく言っていたんだ。余計なお世話だ、と突っぱねられたけど。


 まさか殺意を向けられ、剣まで抜くとは思ってもいなかったが。

 今はお金をもらっているのだから、ある程度きちんと仕事をしないといけないな。


 アイツらがこれから先どうなろうが、俺は関わらないと決めていた。

 俺にはフェルスという信頼できる仲間がいる。


 一通り済ませたのち、休憩しようと自室に腰を下ろす。


 暫くしてフェルスがやってきて飲み物を横に置いた。


「お飲み物をどうぞ」

「ん、ありがとな……どうした?」


 無表情のまま、エルフ特有の尖り耳を赤く染め、スカートの端を持って問いかけてきた。


「あの、ニグリス様。こういった衣装はどうでしょうか?」

「……メイド服なんて、どこにあったんだ」

「このお屋敷にありましたので、似合ってますでしょうか?」

「か、可愛いぞ」


 ベーシックなメイド服に、開けた胸元がフェルスの特徴をよく捉えている。金髪と白い服の相性もいい。

 いかん、12歳だと忘れそうだ。


 もしかして、この屋敷にいる間はメイド姿なのか?


「ニグリス様の身の回りのお世話は私が引き受けますね」

「い、いや……それくらいは自分でできるよ」

「ダメです。私はニグリス様の奴隷なんですから」


 今まで雑用は自分で全てやっていたから、やってもらうと言う感覚は慣れないな。

 ……まぁ、フェルスが楽しそうにしているのならいいか。


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