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7.女帝の過去


 妾は、奴隷だった。

 

 子どもの頃、薄汚い男たちの見世物にされ、泥水を啜って生きてきた。時に言い表せぬ苦痛や屈辱を受けながらも生き延びた。


 死にたくない。人間として当然の欲求に手を伸ばした。


 子どもながらにして、妾は達観し気付いていた。人は平等ではない。


「嫌っ! やめて!」


 妾を屈服させるために、とある男が焼き印を刻んだ。

 一生消えぬ奴隷の証。引っ搔いても、皮膚を破っても、剣でぐちゃぐちゃにしても、その焼き印は消えなかった。


 その男を殺し、剣の才能と己の美貌のみで今の地位に上り詰めた。妾をイジメていた男どもは、妾に跪くようになった。


 心地が良かった。同時に恐怖も抱いた。妾の焼き印は誰にも見せれぬ。

 妾は美しく、絶世の美女と謳われながらも、肉体の一部は酷く膿んで醜悪なものだったから。


 妾は男が嫌いだ。男と……奴隷を連れている人間も。


 そして、妾を治癒出来ると言い寄り、秘密を知り脅そうとしてくる治癒師も大っ嫌いじゃ。


 どうせこの男も同じ。


 妾を治癒出来るなどと言い、秘密を知れば脅し妾を手籠めにしようとする。

 絶対に気を許してはならぬ。


 *


 女帝の寝室。

 肩を露出したフローレンスに、俺は言葉を失ってしまった。


「……なんだ、これ」

 

 深い皮膚の色をした焼き印と、ズタズタの皮膚があった。所々膿んでいて、あまりにも酷い光景だった。


「あまり語らせるでない。治せるのか治せぬのか。はっきりせい」

「いや、これは────」

「やはりお主も偽物であったか! なんじゃ、これを見て人に言いふらすと脅すか?」

「時間が掛かる」

「え?」


 外套を脱いで、手首を掴んだ。

 治癒魔法を使うにしても、怪我や病気の類じゃない。


 奴隷の刻印なんて、今でこそ禁止されているが昔は当たり前の様にあったのだろう。


「じっとしてろ」

「な、何を……っふ、触れるでない!」


 肩に触れる。

 思っていたよりも細いし、白いな。

 

 だからこそ、余計に傷が痛々しく見える。

 

「フローレンス。あんたの傷は俺が治してやる。だから少しだけ……()()()()()()()文句を言うなよ」


 魔法を使うには、気持ちが大事だった。

 その人物を思いやり救ってやりたいという気持ちがこと治癒魔法においては効果を強くする。

 そのため、深く入り過ぎてその人物の過去を見ることがしばしばあった。


 過去を覗いても文句を言うなよ。

 

「ど、どの治癒師もこの傷を治すことなんか出来なかったのじゃ! そんなことが出来る訳……」

「じゃあ、なんで治癒師をまだ探してたんだ」

「そ、それは……」


 フローレンスはずっとこの傷を消したかったんだ。

 だから、無理だと知りながらももがき苦しんだ。


 救ってやらねばならない、と俺の気持ちを強くする。


治癒ヒール


 治癒魔法を掛けると同時に、フローレンスの記憶が流れ込んで来る。

 ……元奴隷だったのか、こいつ。


 数分の時が流れ、ようやく焼き印を消し去ることに成功した。

 傷までは癒えていないものの、治癒を重ねていけば完全に痕も残らないほど治る。


「ほ、本当に……焼き印が……」

「すまん、少し過去を見た」

「妾が男に……」


 悔しいのか嬉しいのか。フローレンスは下唇を噛み、紅潮していた。

 

「治癒は済んだし、焼き印は消した。これで住むことを許してくれるな」

「……脅さぬのか?」

「脅すって、何を」

「わ、妾は美女なのだぞ! せっかく手に入れた妾の秘密で、妾を手籠めにしたいと思う男は多いのじゃぞ!」

「しない」


 断言できた。

 俺は患者の傷を抉ったり、脅したりするような治癒師を三流だと思っている。俺自身は二流だが、落ちぶれないために心に刻んでいることだった。

 

「……お主は……何という奴だ」


 フローレンスは俯いて、呆気に取られていた。何処となく、幼い少女に思えてしまった。

 そして俺は、なんとなく、位置的にも丁度良かったからフェルスと同じ感じで……無意識にやらかした。

 

「今まで頑張って来たんだな。辛かったよな」


 あっ頭撫でちゃった。

 お、俺のこと嫌いって言ってたのについやってしまった!


 こうするとフェルスが喜ぶからって、フローレンスは違うだろ!


「こ……このっ……わ、妾に慰めなんか……にゃ、にゃぐさめなんか……」


 まさかのヘナヘナパンチが俺の腹部を突いた。

 あれ、痛くない。


「わ、妾は男なぞに……し、心臓が苦しい。なんなんじゃ、この感情は!」

「どこか痛むなら治癒するか?」

「ち、近寄るなっ! 妾は……妾は!」


 力なく蹲るフローレンスを起こし、治療が終わったことを伝えるために広間へ戻った。


 *


「に、ニグリス様! 心配していました!」

「大丈夫、心配かけたな」


 その後ろから、フローレンスが出てきた。

 道中で意識を取り戻したようで、赤面しながらも凛とした面持ちを作っていた。


「頭ぁ! 謎の病気は治ったんですか!?」

「……用意せよ」

「は、はい?」

「ニグリス殿と暮らす家を用意せよ!」

「えぇぇっ!?」


 フローレンスの部下。盗賊が騒ぎ出す。

 ……治癒が成功したら、一番良い家をくれると言っていたな。


 きちんと約束を果たしてくれる辺り、フローレンスは貧民街の中だと珍しい部類だと思った。

 商売をやる時とかに手伝ってもらえるだろうから、少しは信用した方がいいかもしれないな。


「し、信じられねえ!」

「男嫌いの頭が……」

「お、乙女の顔してるっ!」


 フローレンスの部下たちがどよめき、信じられないと口を揃えていた。

 い、一緒に暮らす……流石に冗談だよな。聞かなかったことにしよう、考えるだけで面倒臭そうだ。


「ニグリス殿っ! 家以外に欲しい物があったら、遠慮なく言うのじゃぞ!」

「ニグリス様に馴れ馴れしいですよ!」

「妾は、ニグリス殿に抱くこの感情を知りたいだけじゃ!」


 とりあえず、家まで案内してもらうことにした。

 

 


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