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27.閑話~アリサ、お酒を盗む。のち~


「シュタ、シュタタタタ」


 真夜中の屋敷内でローブを羽織り、自身で効果音を付けながら歩く者が居た。

 赤い髪の少女。アリサだ。


 ニグリスがフローレンスからもらったという、高級な酒を求め厨房に足を進める。

 酒は好物だ。


「ふっふっふ……高級酒、待ってなさい」


 幾度にも渡る厨房の侵入により、フェルスが対アリサ用に作り上げたトラップを躱していく。

 

(抜かりはない……あたしはこの日のためだけに準備してきたのよ!)


 準備とは禁酒だった。

 約一日による我慢ですら、アリサにとっては地獄のような日々。


「あだっ!」


 暗闇を慎重に進むも、足元を崩し転倒する。


 そのまま対アリサ用トラップを起動してしまった。


 天井から複数の包丁が落ちてきてアリサの脳天を掠める。

 

(ふぇ、フェルス怖すぎ……っ! この前マカロン盗んだこと怒ってるのかなぁ?)


 王都限定一日五個のマカロンを勝手に食べたことがある。

 甘いものに目がないフェルスから一日中追い回されることになり、酷い目に遭っていた。


 するとランプの明かりが厨房全体を照らした。


「……また侵入したんですか」

「げっフェルス……」


 寝間着姿で、金髪をふんわりとまとめ横に流している。

 フェルスが溜め息交じりにアリサへ言う。


「今度は何を盗みに来たんですか? アリサさん」

「ふふんっ! あたしはアリサじゃないわ。ファイアーボールの申し子、怪盗アリ~サよ!」


 腰をくの字に曲げて、額に手を当てている。

 「何のポーズですかそれ……」と完全に呆れられてしまっても、構わずアリサは続けた。


「素直に言ってくれれば、別に怒りませんよ?」

「それじゃあつまらないじゃない? とにかく、今日はフローレンスからもらったという高級酒を頂くわ!」

「あぁ、アレですか。確かニグリス様はお酒が……」

「大丈夫よ。飲んでもあたしだとバレないから」

「いえだから、ニグリス様はお酒が……」

「さっ早く飲みましょう!」


 あっダメだ。とフェルスが会話を諦める。

 役に入りきっているアリサは厨房の棚にある酒へ手を伸ばした。


「うっへっへっ……お酒~」


 甘美な味を想像し、既にヨダレを垂らしている。

 その後ろからフェルスが高級酒を取った。


「ダメです。あくまでニグリス様の物ですから」

「えぇ~!? いいじゃない!」


 フェルスはニグリスがお酒を飲めないことを知っている。

 ニグリス自身はそれを隠しているが、お酒に手を出さず水ばかり飲んでいる姿を何度も見ていた。


「でもニグリス様はお酒が飲めませんから、どちらにせよアリサさんにあげてましたよ」

「そ、そうなの? えぇ……てっきりお酒強いだけかと思ってたわ」


 アリサが考え込んだ素振りを見せて、高級酒を眺める。

 飲みたい、という欲もあるが一つ気になったことができたようだ。


「ねぇ、フェルス。ニグリスにお酒飲ませてみない?」

「お酒ですか? ニグリス様が飲まないのには理由があるのでは」

「そこが気になるのよ。お酒に弱いだけなのか、はたまた昔、お酒で何かやらかした……とかね」

 

 酔って何かをやらかす。

 一言で言えばたくさんあるが、もう彼女たちは好奇心で動かされていた。


 酔ったニグリスが気になる。


「いつも我を出さず謙虚なニグリスが、お酒を飲んだら我儘になるかもしれないわね。よし! そうと決まれば決行よ!」


 こう、と決めて走り出したアリサを止めることはできない。

 フェルスは巻き込まれる形で一緒に歩いて行った。


 ニグリスの部屋までアリサは相談していた。 


「問題はどうやって飲ませるか、よ。方法ある?」

「い、いえ……見当が付きません」

「そうね、ならあたしに任せなさい!」


 ……心配だ。

 そう思わずには居られなかった。


 ふとフローレンスのお魚料理事件をフェルスは思い出していた。

 ファイアーボールで魚を黒焦げにして料理だと言い張るアリサだ。不安がない方がおかしい。


 部屋の前に到着して、数回ノックをしたのち、ニグリスから返事があった。


「まだ起きてる~?」

「夜分に失礼いたします」


 蝋燭の明かりがユラユラと揺れ、ニグリスは図書館から持ち帰った一部の本を開いていた。

 いつも見慣れているはずの寝室に入って、知的な姿にフェルスの心臓は跳ね上がる。 


(れ、冷静に……ニグリス様の寝姿なんて何度も見ています。毎回ドキドキしていてはいけません!) 


「ん? どうした?」

「いやちょっとね。寝る前に一杯どうかと思ったのよ」

「……俺は寝る前に酒は飲まないぞ」

「大丈夫大丈夫! 酒じゃないから、ニグリスのは紅茶よ」


 用意した三つの酒瓶を空いているテーブルに置いた。

 怪訝な面持ちをしながらも、ニグリスは口を付けた。


「……おい、これ酒だろ」

「酒じゃないわよ。紅茶よ」

「いやだって……これ……」

「紅茶よ。もう一杯飲んで分かるわ」

「……そうか」


 アリサはニシシッと笑い、その味を確かめようとしたニグリスを羽交い絞めにした。

 

「さぁ飲め! 飲むのよ~!」

「うがっ! 無理矢理飲ませるのはっ」


 フェルスはわざとらしくよそ見で見ていないフリをしていた。

 酒瓶に入っていた酒を空にし、ニグリスは飲み終わる。


 テーブルに突っ伏したニグリスに二人が息を呑んだ。


 どうなる。


 ニグリスがなぜ酒を飲みたがらないのか。

 その理由がようやく判る。


 ムクッと起きたニグリスは頬を赤くし、完全に酔っていた。


「……ん。んん~? あんだ~?」


 いつも冷静で感情を表に出さないニグリスが酔っていることに二人が驚く。


「に、ニグリス様……だ、大丈夫ですか?」

「フェルス……? フェルスか~」


 ふらふらとした足取りで立ち上がり、フェルスの元へ近寄った。

 何度も倒れそうになりながらフェルスの胸へ飛び込んでいった。


 そのまま膝をついて、ニグリスは丸まるように目を瞑る。


「大きくなったなぁ……あんなちびっ子だったのに……膝枕……頼む……」

「あ、あわっ……に、ニグリス様が、私に甘えて……っ!!」

 

 頼られたいと願うフェルスにとって、甘えてくれるというのは至高の極み。

 甘えるというよりも、甘えさせたいのがフェルスであった。


 願ってもない状況に思わず何度もニグリスの頭を撫でる。


「大丈夫ですよ。いくらでも甘えてください。お側に居ります」

「……そうか」


 秒で眠ってしまったニグリス。

 爆笑していたアリサが半眼で酒を飲んでいた。

 思っていた展開と違う。


「フェルスを襲ったりしなさいよ……つまんないわね」

「ニグリス様は酔ってもお優しいということです」


 それより、とフェルスは続ける。


「次はいつニグリス様を酔わせましょうか……」

 

 違う意味ですっかりお酒の魅力にハマったフェルスは、フローレンス、ジャンヌ達よりも一歩先へ進んだと微笑んだ。

 

「……目が怖いわよ、フェルス」


 ニグリスは、飲んだことすらも忘れるほどお酒が弱い。

 そのため、翌日に目覚めたニグリスは昨夜のことを覚えていなかった。



【小説家になろうの規約】の関係上、今後の展開がコミカライズ版とはかなり異なるため、

大変身勝手ながら完結として扱わせていただくことの運びとなりました。


こちらでは完結してしまいますが、今後の続きはオリジナル展開としてコミカライズが続いて行くので、ぜひそちらでお楽しみいただけると嬉しいです。



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