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§043 「……やだ。絶対今日がいい」

 例の『希沙良vs赤梨』事件以降も、俺と希沙良の勉強会は毎日開催されていた。

 俺は勉強会では希沙良から苦手科目を徹底的に教え込まれ、勉強会以外の時間では、希沙良に指示されたとおりに教科書を10周した。


 そして、本日、無事に期末テストの日程を終了した。


「それで手応えはどうだった? 学年200位くん」


 横に並んで歩く希沙良が、いたずらな笑みを浮かべて俺の顔を覗き込んでくる。


「自分でいうのもなんだけど、俺って天才なんじゃないかってぐらいできちゃったかもしれない」


「ホント? 難しい問題も結構あったと思うけど?」


「希沙良に教えてもらってたところがドンピシャで出たりしたから、まったくわからない問題はなかったよ」


「わからない問題がなかったら、私にも勝てちゃうわよ」


 希沙良はいかにもおかしそうにくすくすと笑う。


「いやさすがに希沙良には勝てないと思うけど、いままでは答案って空欄だらけで提出するのが当たり前だったけど、今回はわからない問題でもわからないなりに予想してどうにか解答できたっていうか」


「おお、希沙良先生の教えをちゃんと実践してるね」


「マジで希沙良様様だよ」


「本当によく頑張りました」


 希沙良がテスト疲れも吹き飛ぶような満面の笑みでニコリと微笑む。


 その希沙良の笑顔は、心の底から勉強を頑張ってよかったと思えるぐらいの晴れ晴れとした笑顔だった。

 そして、彼女に頑張りを褒めてもらえるのが素直に嬉しかった。

  

「本当にありがとう。希沙良のおかげだよ」


「なっ……/// お礼はまだ早いでしょ! もしかしたら、全然点数低いかもしれないし」


 希沙良は少し照れ臭そうな表情を浮かべながらも、わざと皮肉たっぷりにあかんべーをしてみせる。

 でも、どうやら今日の希沙良はテスト終わったという解放感もあり、かなり上機嫌みたいだ。

 時より口ずさむ鼻歌がそれを物語っていた。


「ねぇねぇ、未知人くん。テストも終わったことだし、なんかストレス発散したい気分じゃない?」


 希沙良からの突然の問いかけに思わず目を向けると、彼女も俺のことを上目遣いで見つめていた。

 その俺のことを誘惑するような瞳は、期待と好奇心に満ち溢れていた。


「まあ、確かに……最近はずっと勉強で遊んだりしてなかったからな」


 俺は希沙良がまた何かを企んでるのではないかと思って、敢えて警戒気味に返答する。


「じゃあさ、コレ行かない?」


 そう言うと、希沙良は手を口元に持っていき輪っかを作って何かのジェスチャーをしてみせる。


「…………えっと、ソフトクリーム?」


「ぶー。ハズレ」


 そう言って今度は口をパクパクするジェスチャーをしてみせる。


「…………これは……まさか……」


「そう、そのまさか」


「「カラオケっ!」」


 ふたりが同時に声を出す。


「ってことでカラオケ行こ? 市内に出れば安いところあったはずだし」


 カラオケか……。

 俺は腕を組んで少し考える仕草を取る。

 普段なら二つ返事でOKしているところだが、俺には少し気にかけていることがあった。


「希沙良……」


「んっ? なに?」


「お前、ここ数日ほぼ寝てないだろ?」


「(ギクッ……)」


 希沙良はあからさまに罰の悪そうな表情を浮かべ、俺から視線を逸らす。

 何日か前から気になってはいたが、彼女の目の下にはうっすらとクマができていた。


「俺に勉強を教えるために、かなり無理してくれてたんだな」


「いやいやいや勉強教えてたとか関係ないし。最近はちょっと寝付きが悪かっただけだよ。それに、私は別に勉強しなくても普通に点数取れるし」


 珍しく彼女の目が泳いでいる。

 どうやら図星だったようだ。


 やはり学年1位のプレッシャーとは想像以上のものなのだろう。

 それにもかかわらず、俺に勉強を教えたりするから……本当に希沙良は……。

 でも、それを知ってしまった以上はさすがに無理はさせられないか。 


「今日のところは解散にして、カラオケはまた今度にしないか?」


「…………やだ」


 俺の提案に対し、唇をつぼめながらまるで駄々っ子のように即答する希沙良。

 

「いや……カラオケなんていつでも行けるんだしそんなに無理しなくても」


「……やだ。絶対今日がいい」


「そんなわがままを……」


「だって……」


「……だって?」


「6月はもう終わっちゃうんだよ?」


 さっきまで拗ねていた希沙良が今度は懇願するように俺に詰め寄ってくる。


 俺は希沙良の勢いに気圧されて、一歩後ずさる。

 確かに……6月も終わって……もうすぐ夏休みか……。


 俺だって別にカラオケに行きたくないわけじゃない。

 できるなら俺だって行きたいさ。

 けれど、俺のせいで無理をさせてしまったという負い目があるから……。


 俺は思いを巡らせる。 


 まあ、でもせっかくテスト終わったんだし……今日くらいは……いいよな。


「わかったよ。その代わり遅くなる前に帰るぞ。3時間1本勝負だっ!」


 それを聞くと希沙良の顔がパァっと明るくなる。


「うん! それでいい!」


「よし、そうと決まれば市内にゴーだな。俺の美声でメロメロにしてやるから覚悟しておけよ」


 俺は親指をグッと立てて、おちゃらけて見せる。


「ふふ、未知人くんが歌うまいの想像できないけどね」


「こう見えても歌には自信がある」


「へぇ~、ちなみに得意曲は?」


「それは着いてからのお楽しみだな」


 そうして、俺と希沙良は路面電車に乗り込んだ。

 クーラーでキンキンに冷え切った車内が夏の訪れを告げているようだった。



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