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§031 「希沙良も普通の女の子なんだと思って」

 なっ……なんでこんなことになっちゃったのよ~。

 私はカップルシートに横になりながら、飲み物を買いに行ってくれた未知人くんの帰りを待つ。


 まさかカップルシートがこんなにも『ベッド』だなんて思わなかった。

 これじゃまるで……。

 私は自分の顔が熱を帯びてくるのを感じる。


 この隣に、未知人くんの横顔がくるかと思うと、恥ずかしすぎて爆死する。

 私はどこを向いて映画を見ればいいの。

 絶対、彼を意識して、映画なんか集中できないし。


 不幸中の幸いで、カップルシートは仕切りに囲まれているから、周りからの視線を気にする必要はないけど、こんな寝っ転がる体勢になるんだったら、ワンピースなんか着てこなかったし。

 

 私はワンピースの裾をギュッとつかんで、心なしか下に引っ張ってみる。


 確かに学校の制服のスカートはかなり短くしてるけど、こんな体勢になることはないし、見えないラインというのを意識して着こなしてるつもり。

 でも、ワンピースというものは、上半身を動かすだけで裾が持ち上がって、見せてはいけない部分が露わになってしまう。

 せっかく映画を楽しみにしていたのに……。


 うぅ…私はいつからこんな乙女になってしまったんだ。

 彼とは所詮『恋人のふり』をしている関係。

 そして私はクラスのアイドル希沙良ちゃん。

 もっと、余裕を持って接すればいいだけのはずなのに……。


 そんな感じにうだうだと悶えていると、未知人くんが戻ってきたようだ。


「飲み物と……ほらよ」


 と言って、彼が私に何か布状のものをポンと投げつけてくる。

 その布状のものは私の手にポスっと収まる。


「これは?」


「ブランケットの貸し出しをやってたから借りてきた。ほら、映画で足が冷えるのはよくないだろ」


 こっ……こいつ。

 なんでそういうかっこいいことをサラッとするんだ。


 私はブランケットで顔半分を隠して、彼を睨みつける。

 そんな私の気持ちを知ってか知らずか、私の手元にジンジャーエールを置いてくれる。


「あっ……ありがとう」


「どういたしまして」


 ニコッと笑って、カップルシートに横になる彼。

 童貞のくせに生意気よ。

 こんな状況でよく平然としていられるわね。

 もうちょっとあたふたしなさいよ。


「それにしても希沙良が恋愛映画好きっていうのはちょっと意外だな」


「傍若無人な女の子は恋愛映画を見ちゃいけないんですか~?」


 平然と話しかけてくる彼に若干の苛立ちを覚え、彼の方に目を向けずに答える。


「いやそういうわけじゃないけど。希沙良も普通の女の子なんだなと思って」


 普通の女の子か……。

 普通の女の子じゃないからこそ、この映画を見に来ているのかもしれない。

 私と似たような境遇の女の子の恋愛に救いを求めるために……。


 そんなことをぼんやりと考えてると、しばらくして劇場は暗くなり、上映が始まった。


 月並みな映画の宣伝が終わり、そこに映し出されるのはイケメンな主人公と圧倒的に可愛いヒロイン。


 あぁ……。


 思わず声が漏れそうになる。


 こういう映画を見ていると、恋愛っていいなと思ってしまう。


 未知人くんにパンツ見られそうとか、未知人くんの顔が真横にあるとか、未知人くんが案外落ち着いてることが癪だとか、そういう邪念は一切忘れて、私は映画に深く深くのめりこんでいった。


 映画の台詞が紡がれる。


『あなたはわたしのことをちゃんと好きでいてくれたのかな』


『あなたはね……わたしにとってたった一人の王子様だったんだよ』


『でもね……これはきっと偽りの恋愛でしかない』


『だからね……さよならを言いにきたの』


『今日までわたしの恋人になってくれてありがとう』


 そう……。


 これは……特殊な能力を持った女子高生とゆくりなくも彼女と関わってしまった主人公の切ない運命を描いた恋愛映画。

 

 エンドロールが終わり、観客のほとんどが場内を後にしても、私は動くことができなかった。

 涙が止まらなかった。


 しーんと静まり返った場内には、私の嗚咽だけがいつまでも響き渡っていた。




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