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§026 「更科希沙良は俺の彼女だっ!」

 事件は更科が俺のお見舞いにきた数日後に起こった。


 『更科希沙良と成瀬未知人の熱愛発覚!!』


 俺が登校すると、クラスの黒板にでかでかとこんな文字が書かれていた。

 

 書かれていたのはこれだけではなく、ショッピングモールでの買い物のことやお見舞いのことなどが、まるでゴシップ記事のように事細かに書かれていたのだ。


「こっ……これは……」


 そのあまりにも衝撃的な光景に、思わず言葉を失ってしまった。

 

 いっ……いったい誰がこんなことを……。

 

 教室内が俺の登校でざわめいているように見える。

 そんな中でも一際騒がしい場所があった。

 クラスの男どもが大量に群がり、何やらあーだこーだと叫んでいるようだ。


 あれ……?

 あそこは……更科の机じゃないのか……?


 変な胸騒ぎがしてその男どもが蠢く場所に近付くと、俺の目に写ったのは、1人ポツンと席に座り、弱々しく俯いている更科の姿だった。


「更科っ!!」


 俺は思わず声を上げる。

 そんな俺の声に気付き、人だかりがバッと割れると、更科の背中が視界に飛び込んできた。


「……未知人くん」


 俺の方を振り返り、絞り出すような声を出す更科の顔は、本当にいまにも泣き出しそうで、いままで見てきたどの更科よりも弱々しかった。


 そんな更科の表情が、こいつらには見えていないのだろうか。

 群がってる男どもは俺のことを一瞥するが、まるで俺には興味がないかのように、視線を更科に戻すと、みんな思い思いのことをぶちまけている。


「更科さん! あんなやつより俺の方が更科さんのことが好きだ」

「あんなの嘘だよね? 嘘だって言ってくれよ」

「俺の気持ちわかってるよね? 俺の気持ちはちゃんと届いてるよね」


 男どもはまるで更科が罪人かのように責め立てる。

 クラスの女子はそんな光景を遠巻きに見つめている。

 他のクラスからは野次馬も集まってきているようだ。


 なんだよこれ……。

 彼女がいったい何をしたというのだ……。

 みんなには彼女の顔が見えないのか……。

 本当に彼女の気持ちを考えているのか……。


 なんでこんなことができるんだよ……。


 俺は……俺は……。


(……未知人くん。……助けて)


 俺に聞こえた声はもしかしたら幻だったのかもしれない。

 それでもいい。


 俺は一瞬頭に昇りかけていた血が、すぅーっと降りていくのを感じた。


 あとは俺に任せろ……更科。

 お前のこと絶対に助けてやるから。


 気付いたときには、俺は更科の手を取って、黒板の前に立っていた。

 そして、勢いをつけて黒板をバンッと叩く。


「お前らよく聞けっ!」


 一瞬にして教室が静まりかえり、俺の声が廊下まで響きわたる。


「お前らに何を言われようが、更科希沙良は俺の彼女だっ!」


 握っている手が震えているのがわかる。

 これは俺の手が震えているのかもしれないし、更科の手が震えているのかもしれない。

 それでも俺はやめるつもりはなかった。


「お前ら寄ってたかって……もう少し希沙良の気持ちを考えろよっ!」


 喉がカラカラに渇き、身体がどんどん熱くなるのを感じる。

 それでも、俺は息をすーっと吸い込むと、喉が張り裂けんばかりに叫んだ。


「希沙良を泣かせるやつは全員ぶっ飛ばしてやるから文句があるならかかってきやがれっ!」


 俺がいまやってることは相当規格外なことだ。

 クラス中の視線はすべて俺に集まっている。

 それでも俺は言ってやった。

 更科は俺の彼女だと。

 更科を泣かせるやつはぶっ飛ばすと。


 俺の言葉を最後に長い沈黙が訪れた。

 しんと静まり帰った教室。

 みんな視線は俺と更科に注がれているが、誰も言葉を発しようとはしなかった。

 当然、俺に殴りかかってくるやつもいなかった。


 ここから、俺の叫び声を聞きつけて先生が駆けつけてくるまでの間、時間にしてはそれほど長くない時間だったと思う。

 その間、俺とクラスの睨み合いのような状況は続いた。


 それでも、俺はここから動きたくなかった。

 俺が教室を離れてしまったら、クラスのやつらは俺が逃げたと思うかもしれないと思ったからだ。

 そうしたら、また明日も更科が危険に晒されるかもしれない。

 俺の心は彼女を守らなければならない一心だった。


 そんな俺に、更科は目に涙を溜めながらも寄り添ってくれた。

 俺の腕にしがみつく更科はいつものように力強い更科ではなく、脅えた目をしたひとりの女の子だった。


 俺だってこのやり方が正解だったのかはわからない。

 付き合ってることを『否定』した方がもしかしたら更科のためだったのかもしれない。

 それでも俺はこの方法を選んだ。

 付き合ってることを否定するだけでは、彼女のことを助けられない。そう思ってしまったんだ。

 そして、どうしても彼女が泣いてる姿を見過ごすことができなかった。


 これは、更科が望んだ結果ではないかもしれない……。

 このあとは職員室でお説教を食らうだろうし、俺も更科もクラスからは腫れ物扱いされるかもしれない……。


 でもいまは……。

 いまはただ、俺のやり方に付き合ってくれた更科にお礼を言いたいと思う。

 こんなバカな俺の隣にいてくれて……。


 ありがとう……希沙良。


 ここから『第三章』の開幕です。


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 なお、本日18時にもう1話更新予定です。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] お見舞いに関しては「プリントを渡す」という大義名分がありましたし、 ショッピングモールに関しては「たまたま会っただけだよ。(事実)」と更科さんが言ったら、洗脳済み男子生徒諸君は黙る気も…
[一言] この展開は更科さんの自業自得?魅力のせいでこうなった?
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