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『明星と柊 -The LEIV and military holly wood-』シリーズ

「記録:ヴァルキリー小隊の質素な年明け」(第四独立空挺小隊作戦記録外伝)

作者: 大月櫂音

お久しぶりです、皆さん。

近況が忙しく、中々続きを投稿できていない現状の中、大晦日にもなって何もしないのも忍びないので、外伝SSを執筆してみました。

本編の続きではありませんが、在りし日のファシット残党軍の日常を描いてみましたので、是非ご覧ください。


「2149年ももう終わるな。なあ?」


 2149年、12月31日。チベット高原に存在するファシット要塞地下の食堂で、ゲルは、質素なパンを一旦皿に置いてから、そう言った。──目の前の赤髪の男、レイヴへと。


「ああ、そうだな。もう2150年か……早いもんだ」


「早い、ねえ。あんまり毎日が代わり映えしねぇもんで、感覚が狂っちまったってか」


 その言葉に、レイヴは顔をしかめる。


「人は大人になると、好奇心が希薄になる。多くのことを知ってしまったからな。──感覚が摩耗してるんだ。狂ってるんじゃない、ただ、来たるべき時が来ただけさ」


 その言葉には、どこか「詭弁」のような響きがあった、何かを包み隠して、それに対する言い訳をしているような──。


「狂ってるにしろ、狂ってないにしろ──もう、代わり映えのしない日々は終わりかもな。あの……なんつったか、あのガキだ。あれが変えてくれる」


「……彼女は“ミラ”だ。ただのガキじゃない」


 レイヴは、今度は無表情でそう言った。


「たしかにただのガキじゃない。聞いたか?彼女の加入で、ファシットの技術は何十年分も先に進んだ」


 尚も何かを言い募ろうとするゲルに被せるようにして、レイヴは口を開いた。


「子供に──あんな年端もいかない少女に、頼り切って存続してる。それが俺たちファシットなんだな」


 それは皮肉だった。ともすれば、かつて宗教大国であったファシットに対する不敬にも聞こえるその言葉に、ゲルはしばし目を丸くしていたが、やがて、


「これも運命さ。あの煌めく恒星の思召した、な」


 と言った。どこか儚げな声色であった。


「来年は──きっと状況も動く。ファシットも、あの防衛連合も……もう、停滞した状況を維持しておくことはできないんだ。潮時ってやつさ」


 続けて彼は言う。その声は、やはりどこか、悟っているようで──。


「随分感傷的だな。ファシットの教義は星の巡りが全て。年明けってのは、あまり重要視しないもんだ」


 ふと、レイヴは茶化すようなことを言った。しかしそれが、ゲルの気を鎮めることはなかった。


「分かってるよ」


 ゲルはぶっきらぼうに返し、少し間をおいてから、口を開いた。


「なあレイヴ。今、この瞬間にも、俺たち以外の皆んなは、家で新年を待ってたりするんだよな。アメリカとか、イギリスとかさ」


「どうだったかな。キリストの教義ってのはよく分からない」


「いや、キリストに限った話してるんじゃない。どこの国も、新年が来るのを待ってるって話だ。皆んな『西暦』ってのを信じてて……」


「なあゲル。お前酔ってるのか?今日のお前はどっかおかしい」


 しかしゲルのカップの中に入っているのは、酒ではなくコーヒーだった。人はカフェインで酔うことなどできない。


「酔ってなんかねぇよ。俺はただ……先行きが不安なだけさ」


 それに続けて、ゲルは、


「お前はどうなんだ、レイヴ?お前は不安じゃないのか?」


 とレイヴに問いかけた。


 それに対し、彼は、どこか曖昧な調子で答える。


「さあ……どうだろうな。だが、俺は来年も、今まで通りやるだけさ。星を信じ、自分を信じ、運命(ミラ)を信じ──」


「ミラ、か。随分あれに肩入れしてるんだな」


「──うるさいな。自分が巻き込んだ奴だからな。気にかけるのは当然だろ?」


 こうして、夜は過ぎていく。


 ──この先に待ち受ける運命も、知らないままに。


ー◇◆◇ー


「今、明けたわね」


 夜。ベットの中で、ミラがそう言ったのを、レイヴは聞き逃さなかった。


「起きてたのか。もう寝ろよ……明日──いや、今日も早いんだろ?」


「まあ、ね。子供だからってことで、ちょっとは配慮してくれてるみたいだけど……」


 そう言い、ミラはしばらく押し黙った。


 しかし、やがて、沈黙を切り裂くように口を開いた。


「ねえ。あなたはどうして、私に『ミラ』なんて名前を付けたの?」


 ミラ。ギリシャ語で「運命」を指す、壮大で、どこか淡い名詞。


 そんな彼女の問いかけに対し、レイヴは、ゆっくりと答えた。


「ファシットは、ハロウィンも、クリスマスも、年明けも信じちゃないが──運命だけは信じてるんだ。だからミラさ。身勝手な名前だろ?押し付けちまって……悪かったな」


「ううん。そんなことないわ。──運命。素敵なフレーズじゃない。

私はこれを名乗り続けるわ。これからも、きっとね」


 そう言って、彼女は笑った。


 ──こうして、彼らの年は明けていく。

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