第2ラウンド
投稿時間を朝か夕方の7時に統一しようと思います
「童子よ、その剣は一体どこから出したのじゃ?」
僕が手に持っている剣を見て魔族が質問をしてくる。
「ん? どこって普通に服からだけど?」
僕がそう答えると、
「服? いや、それはおかしいぞ。 明らかに面積が違うではないか」
魔族がそう指摘してくる。
その魔族の指摘に僕は「まあ、いろいろあるんだよ」と誤魔化して剣を構え直す。
その瞬間、僕の雰囲気が完全に戦闘時のそれに変わる。
「戦う相手の名前くらい知りたいし名乗っておくよ。 僕は五勇の一人《変幻自在》の馬場連、よろしくね」
魔族も構えながらもこちらの希望に応じてくれる。
「ほうその年で弁えておるのう。 ならばこちらも名乗るとしよう、儂は元《魔王の手》の一人のヘイルじゃ」
「「《魔王の手》!?」」
王子とアリスさんがまた何やら喚いているが面倒臭いのでスルーする。
魔族が俺のその反応を見て「ほう」と感嘆しながらも隙は見せない。
そのまま膠着状態が続くなか、
先に動いたのは魔族だった。
「闇よ我が敵に黒き絶望を 『アッシュ』」
魔族のその詠唱と共に黒い玉が生み出され、それが僕に向かって飛んでくる。
その攻撃を思い切り跳んでかわし、
「はあっ!」
そのまま空中からの落下の勢いもつけて思い切り上段から剣を振り下ろす。
「闇の力よ 『ダークアップ』」
魔族が魔法を唱えると、杖が黒い靄のようなもので覆われ、その杖で僕の剣を受け止める。
そのまま鍔迫り合いの形となるが長くは続かなかった。
「うおおぉ!」
「くっ!」
杖ごと斬ってやろうと更に力を込めると魔族は力負けし、地面に沈んでいく。
(このまま一気に!)
そのまま更に力を込め決着を着けようとするが、
「闇よ我が敵に黒き絶望を 『アッシュ』!」
魔族が押されながらも先ほどの魔法の玉を魔族自身の後ろに造りだし、僕に放ってくる。
その魔法を避けるためにその場から飛び去ろうとするが、
「えっ!」
なんと剣が魔族の杖と同化しており、抜けなくなっていた。
「嘘でしょ!?」
驚きつつも魔法を避けるために剣を手放し、間一髪のところで回避する。
そのまま大きく距離を取りつつ、剣がどうなっているかを見てみると、
「ふむ、いい反応じゃな童子よ」
魔族がそう言いながら剣を杖に吸収?させていき、やがてなくなった。
(うわー、近接泣かせの杖。 疾風だったら絶対に泣いてるな)
その光景に唖然としながら、他の五勇である近接系の親友が武器を吸収されて泣いている姿を想像して思わず苦笑しそうになるが、今は戦闘中なので頭を振って余計な思考をなくす。
(今は集中しよう。 杖に触れないようにすれば戦いようはいくらでもある)
そう考えつつ、今度は“制服から弓と矢筒”を取り出す。
剣と同じようにいきなり現れた武器に魔族は、
「童子よ、まさか武器に制限はないのか?」
と、若干警戒しながら聞いてくる。
「さあ? 確かめてみた、ら!」
そう言いつつ、牽制用の矢を放つが魔族はその矢を軽々と杖で弾く。
僕はそれを見ながら冷静に自分の持っている手段を確認する。
(まあ、この程度は想定内。 残りの矢は十九で閃光矢は一、爆破矢は五、毒矢は四、残りは普通ので武器の方はあと“双剣”“ワイヤー”“槍”か。 “銃”を置いてきたのは失敗だったなー、遠距離の方が心ともないや)
それでもやるしかないと腹をくくり、再び矢を放つ。
魔族はその矢を再び杖で止めながら、
「この程度は牽制にすらならんぞ童子よ?」
と、挑発してくる。
魔法を放ってこないのは余裕の現れだろう。
「それはどうかな?」
僕はそう言いながらもう一度矢を放つ。
「だから無駄じゃと……!」
魔族はつまらなそうにその矢を止めるが杖に矢が当たった瞬間、その矢が激しい光を放つ。
「ぬうっ!」
魔族がもろに光を目に食らい呻くが、そこに飛んでくる五本の矢。
「ぬおおおっ!」
命中した瞬間に全ての矢が爆発し、魔族が吹き飛ぶ。
(このまま決める!)
武器を弓から双剣に変えて突進するが、
「暗闇が全てを覆い全てを果てさせる 狂う闇よなぎ払え 『コルガイ』」
魔族のその詠唱が聞こえると同時に足元が黒く染まりそこから無数の黒い手が出てくる。
(なっ!)
慌てて双剣で片っ端から切り払っていくが手の出てくる範囲が広くキリがない。
しかも、幾本もの手を切り払ってきた双剣が急に朽ち果ててしまった。
(っ!)
内心の動揺を押し殺し、すぐさまワイヤーと槍を取り出す。
取り出した槍を下に突き刺してそれを足場に空中に逃れつつ、近くに見えた木にワイヤーを巻き付け何とか跳び退くが、黒の部分から逃れたところで双剣のように槍も朽ち果てた。
(あ、危なかった!)
なんとか窮地から逃れることはできたが、ワイヤー以外武器を全て失ってしまった。
魔族の方はどうなっているのかと思って吹き飛んだ場所を見てみると、
無傷ではないが立っている魔族の姿があった。
(・・・だよねー)
予想通りのその光景にため息を吐きながら立ち上がり、魔族と相対する。
「ふむ、あの状態であの魔法をかわすか・・・」
対する魔族の方は何やらブツブツ言っており、しばらくすると、
「童子。 いや、馬場連と言ったかの?」
「・・・何?」
戦闘中に突然、僕の名前を呼んできたので疑念を抱きながらも返事をすると、
「お主のレベルを教えよ」
「はっ?」
魔族はいきなりそんなことを聞いてきた。
(何か狙いがあるのかな?)
その突然の質問にすぐさま罠の類を疑うが、魔族を見てみるとそんな様子はない。
「聞いてどうするの?」
警戒しながらも真意を問うと、
「そこでお主が“守って”おる儂を召喚した者が気絶しているのじゃ。 ならば、本来なら儂らは争う必要はないじゃろ? 儂とここまで張り合える人間の強さを知っておきたいだけじゃ」
そう笑いながら答えてくる。
ちらりとアリスさん達を見てみると、そこには僕が張ったワイヤーの中で気絶している皇子とずっと静かにこちらを見守ってくれているアリスさん、黒ローブの女?の姿があった。
ちなみに皇子は最初にワイヤーで気絶させておいた。
(良かった、全員無事みたいだ)
そのことに内心安堵していると、
「何故、そこの二人まで助けたのじゃ?」
魔族がそう不思議そうに聞いてくる。
「殺しちゃったらあなたが強くなってしまう可能性があったからね」
僕は本音の一部を隠しながら理由を話す。
「成る程のう。 さて、この通り今の儂に敵意はない。 純粋に老いぼれの好奇心じゃ、今は矛を納めて教えてはくれんかの?」
(・・・嘘は言ってないね)
しばらくそのまま魔族の様子を見て嘘は言ってないと判断し、素直に答えることにする。
「1だよ」
僕がそう答えると魔族は、
「・・・・・・・・・はっ?」
と、今なら勝てるんじゃないかと思うくらい隙を見せて固まった。
一分後、
「い、1!? お主今1と言ったかの!」
はっと気を取り直した魔族が僕にそう聞いてくる。
そのあまりの必死の形相に驚きつつも僕が首をコクンと縦に振ると、魔族は「あ、ありえん・・・」とうわごとのように呟いている。
信じてないようなので『アビリティ』を出して見せると、
「・・・た、確かに本当のようじゃな。 それで儂と互角に戦えておったのは……な、何じゃこの異常なアビリティの高さは!? それに魔法を持っておらんじゃと!」
魔族がそう言ってくるので自身のアビリティを再確認してみると、
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名前 馬場連
Lv 1
HP 847/1200
MP 300/300
ATK 420
DEF 390
AGL 480
魔法 なし
スキル イリュージョン
称号 勇者・変幻自在・歴戦の猛者・魔法の使えない者・王女の友達
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(ふーん、僕の実力を数値にするとこんな風になるんだ)
昨日の極限まで手を抜いていた時の『アビリティ』と改めて確認した本気の『アビリティ』では雲泥の差だった。
(僕は一番防御力が低いけど、雪とクラインは逆に一番高いんだろうなー)
昔、いくら攻撃しても効いている気配のなかった二人を思い浮かべていると、ふと疑問に思ったことを魔族に聞いてみる。
「そういうあなたのレベルはなんなの?」
未だ狼狽えている魔族に聞くと、
「あ、ああ儂か? 今は32となっておるが、儂は本来なら96じゃ」
と、気になる言葉を付けて驚きの数字を言ってきた。
「本来ならってどういうこと?」
そのレベルの高さに驚くよりも先にそちらを聞く。
魔族はそんな僕に意味ありげな目を向けながら、
「そこで眠っている召喚者が儂を抑えられるようにレベルを下げられているんじゃよ」
魔族はそんな僕に「なるほどのう。 やはりお主になら・・・」と感心してから、
「さて余計な話はここまでじゃ。 こちらもMPが残り少ないのでの、そろそろ決着を着けようぞ、童子よ」
と、再び戦う姿勢に入る。
「敵意は無いんじゃなかったの?」
「お主のアビリティを見て気が変わった」
「自分の限界教えてよかったの?」
「構わんよ、こちらもお主のアビリティを見せて貰ったからの、これでおあいこじゃろう?」
僕はそんな魔族に「そう」と応じながら拳を握りしめる。
武器が無くなってしまった今、相手には謎の杖があるため近接戦闘は危険だがやるしかない。
そう覚悟を決め、突進するが、
「現れよ屍その身を我に捧げよ 『サモンスケルトン』」
「なっ!?」
魔族がその魔法を使うと同時に僕の前後に剣を持ったスケルトンが現れ、その剣を降り下ろしてくる。
その場に急停止し、横に転がって剣をかわす。
追撃してこようとした前方のスケルトンを立ち上がると同時にアッパーで吹き飛ばし、後ろのもう一体は回し蹴りで蹴り壊す。
「遅いぞ! 闇よ深淵へ誘え 『フィラー』」
当然、スケルトンを倒している僕に対し魔族は魔法を放ってくる。
僕の前に一本の先程よりも大きな黒い手が地面から出てきて進行ルートを阻む。
皮肉にもそれは一番始めに魔族から食らった魔法だった。
態勢を崩している今の僕に本来ならこの魔法を避ける方法はない
だが、その魔法を見て高らかに笑いながら、僕は“宣言”する。
「全力じゃない今のあなたも倒せないで約束なんて果たせるわけない!! ならば、約束を守るために僕は限界すら越えて霞のように揺らごう!!」
目の前に迫ってくる巨大な手を肌で感じながら、自信の用いる切り札を使う。
「『花霞』!」
その言葉と同時に僕は黒い手に潰される。
だが、
「な、なんと!」
魔族が驚愕の声を発している。
それも当然だろう、なぜなら潰された筈の僕が黒い手の上からいきなり現れたのだから。
驚愕している魔族に黒い手を蹴って急接近し、加速の威力を乗せた
拳を放つ。
「ぐはっ!」
吹き飛ぶのをなんとか堪えた魔族がすぐさま杖を横凪ぎに振るうが、
「がはっ!」
それを僕は屈んでかわし、屈んで溜めた力で跳びながらアッパーを繰り出す。
「ぐっ! があっ!」
軽く魔族が宙に浮いた直後にバク転の要領で一回転。
そこで膝蹴りを腹に叩き込んでから思い切り折りたたんだ足を伸ばして蹴りを放ち、今度こそ吹き飛ばす。
吹き飛んでいく魔族に即座に走って追いつき、
「くっ! 暗闇ーーー」
「らああああ!」
腕を掴んで事前に張っておいたワイヤーの方に思いっきり投げる。
吹き飛んでいく魔族を見据えながら、僕はその場で手を腰の位置に構え、集中する。
「・・・」
魔族は負けを悟り、潔く両手を広げた。
僕はワイヤーによって勢いよく跳ね返ってくる魔族に、
(次は本気のあなたと)
内心でそう敬意を払い、
「【刺撃】」
魔族の鳩尾に全力の拳を叩き込んだ