魔族
うーん、ネタが欲しい
「だ、誰だ貴様は!」
何者かの突然の登場にいつもの口調すら忘れて皇子が叫ぶ。
その何者かである連は、
「誰って馬場連ですが?」
と、おどけて答える。
「そんなことを聞いているのではない! 貴様は遮音結界をどうやって破ったのだ!」
「いや、誰って言ったのに名前を聞いてるんじゃないのかよ・・・」
皇子のその物言いにやれやれと首を振りながら連は嘆息する。
「さ、さっさと答えろ!」
連の態度に思わずカッとなった皇子はそう怒鳴りながら連へと詰め寄る。
「はあ、それが人にものを聞く態度なの? ・・・まあいいや、ただ単にぶっ壊してきただけだよ」
「ぶっ、ぶっ壊しただと!? 馬鹿な、あれは一人でならばBクラスの魔法を使えねばならない代物だぞ!」
「Bクラスの魔法? それがどれくらいかは知らないけど簡単に壊れたよ」
「なっ!!」
連のその言葉を聞いた皇子が絶句する。
「連様!!」
そこでようやく混乱から脱したアリスが連に声をかける。
連はそんなアリスに微笑えみかけ、
「話し合いはちょっと待っててねアリスさん。 この変態をサクッと片付けるから」
そう言って連は再び皇子の方を向く。
「さあ、覚悟はできますかぁ?」
★
「無礼者め!」
皇子はそう言いながら、俺に向けて手をかざす。
「『フレア』!」
その言葉とともに俺のもとに火炎が飛んできて直撃し、小規模な爆破が起きる。
「連様!」
アリスさんは魔法が直撃した俺を見て悲痛な声をあげ、皇子は何やらほくそ笑んでいるが、
「ふん、この私に歯向かうからこうなるーーー「へぇ」ーーーなっ!!」
皇子が何やら言っているが、平然としている俺を見て唖然とした表情をしている。
アリスさんもそんな俺を見て驚いた顔をしている。
「これが魔法?」
火炎の直撃したはずの俺は、全くダメージを感じさせない顔で冷静に魔法というものを分析する。
(今、何もないところから火が現れたな。 あれはどういう原理なんだ?)
「き、貴様は魔法を食らったのに何故そんなに平然としている!?」
「えっ? 何故って言われてもあの程度の火力じゃ俺は火傷一つ負わないからだけど」
俺がきょとんとしていると皇子とアリスさんは呆然とした顔でこちらを見ている。
隙だらけなので皇子にさっと近づいて顔を殴ると、皇子は簡単に飛んでいった。
俺はあまりの手応えのなさに軽く驚くが、確認したいことがあったのを思い出し、アリスさんの方を振り向く。
「まさかと思うけどあれがBクラスの魔法?」
俺がアリスさんにそう聞くと、アリスさんははっと気を取り直して説明してくれる。
「い、いいえ違います。 あれはEクラスの魔法である『フレア』と言います」
「Eクラスの魔法? またなんか違うのが出てきたね、何が違うの?」
「それはーーー「おい、貴様!」」
アリスさんが俺に説明してくれようとすると、あの変態皇子が怒鳴ってくる。
「あれ、いつの間に?」
声のした方を見てみると、吹っ飛んだはずの変態皇子はいつのまにか黒いローブを被っている人の側にいた。
(あいつは・・・、成る程ね)
その黒ローブを見た瞬間、俺の中でパーツがつながっていく音がした。
「ねえ、アリスさん」
「は、はいなんでしょう!?」
俺がアリスさんに声を掛けるとやや緊張した声が返ってきた。
どうしたのかと思って見てみると、そこには俯いている姿のアリスさんがいた。
「どうかしたの!?」
アリスさんのその姿を見た俺が慌てて声を掛けるとアリスさんは「な、なんでもありません! それよりどうされましたか?」と言って首を振る。
俺は大丈夫かなと思いつつも核心を突いたであろう質問をする。
「もしかして俺達をここに連れてきたのってあの人?」
俺がそう言うとアリスさんは真剣な表情になって、
「すみません連様。 それが・・・分からないんです」
そう答えた。
その答えを聞いた俺はどういうことか理解できずに一瞬思考が飛ぶが、
「・・・えっ!? 分からないってどういーーー」
なんとか冷静になり、少し戸惑いながらもどういうことか聞こうとしたその時、
ゾクッ!
言いしれない悪寒が背筋を走り、俺は臨戦態勢を整えながらアリスさんを背にかばう。
「えっ! 連様一体どうされたーーー」
その際にアリスさんが何か言っていたが切迫している俺は最初の方しか聞き取れなかった。
なぜなら、悪寒が走った方向にはいつのまにやら描かれた幾科学的模様と何かを口ずさんでいる黒ローブの姿があったからだ。
(クッソ! 油断してた、あれは一体なんだ!?)
内心で悪態をつきながらも俺は冷静に現状を整理する。
まず、推測だが今からあの黒ローブを攻撃しても意味はないということ。
恐らく、あの魔法は半分以上完成してしまっているからだろうからだ。 俺が悪寒を感じたのがさっきだったのもそれで説明できる。
次に、あの模様から出てくるのが生物であろうと魔法であろうと絶対にやばいということ。
それはあの模様の大きさから推測ができる。
最後にーーー
ガクン!
俺が最後の考えを提示しようとした瞬間、文字どおり空間が揺れた。
そして、
「ほっほっほっ、今更こんな老害を呼び出すのは誰かの?」
模様があった場所には“何か”が立っていた。
俺が何かと表現した理由は簡単だ、まず姿が人間ではない。
頭に角のような何かが生えており、床に着いている杖は手と同化しているように見える。
そして、明らかにプレッシャーの質が人間のそれではない。
俺が身構えていると、変態皇子の方は大丈夫なのか魔族とやらに悠々と近づいていく。
「よしよし、よくやりましたよルイン。 まさか、魔族がくるとは思いませんでしたがね」
魔族とやらが来たことで心に余裕が生まれたのか口調が元に戻った変態皇子はそう笑いながら、魔族とやらに命令する。
「魔族よ! あそこにいる男を殺すのです!」
しかし、命令された当の魔族は、
「何故儂が貴様の言うことを聞かねばならんのだ?」
と、変態皇子に対して心底不思議そうにそう訊ねる。
(仲間じゃないのか?)
魔族のその反応に俺が疑問を抱いていると、変態王子は魔族のその反応を見越していたのかニヤリと笑って黒ローブに何かを命令する。
「ぬっ! ぐおおお!」
すると、突然魔族が苦しみ始める。
(あれはなんだ?)
魔族の右胸辺りに何か紋様のようなものが浮かんでおり、どうやらあれが苦しんでいる原因らしい。
変態王子は魔族のその反応を愉快そうに見ながら、
「おとなしく従わないならこのまま殺しますよ?」
と、冷徹な声でそう命ずる。
「なるほど、この感覚は召喚魔法のそれか・・・」
「ほう、知っているのですか?」
「長生きしとるからの」
魔族は忌々しそうに変態皇子にそう呟きながらこちらを見る。
そして、
「すまんな、まだ名も知らぬ童子よ。 儂にもまだ目的はあるのでな、ここで死ぬわけにもいかんのじゃ」
そう申し訳そうに謝りながらこちらに向かって来る。
「闇よ 深淵へ誘え 『フィラー』」
「なっ!?」
突如足元に出現した黒い手に俺は為す術もなく吹き飛ばされてしまう。
「連様!」
吹き飛ばされて揺らぐ意識の中で俺は、変態皇子の魔法を食らったときよりも悲痛そうな声をあげたアリスさんの声を聞く。
だが、そんなことよりも今の俺の頭の中を埋め尽くしていたのは今日初めて出会った魔族という強敵は俺が手加減など全くする必要がないということ。
そう理解した瞬間に思い出されるのは過去のとある記憶。
★
「なあ、連」
大柄な男が少し成長した少年に話しかける。
「なあに師匠?」
「お前自分より強い相手と戦うときはいつも笑ってんな」
男の指摘に少年は知らなかったとばかりに驚く。
「そうなの?」
「ああ口調も昔のお前のに戻ってる」
男がそう言うと少年は、
「ええ! うっそだ~!」
そう大仰に驚き男の言葉を否定する。
「本当だよ! まさか、自覚がないのか?」
嘘だと思われた男が少しムキになってそういうと少年はあっさりと首肯する。
少年のその様子を見た男が、
「・・・なるほどな。 もしかしたらお前は無意識の内に自分に制限を掛けてるのかもしれないな」
「制限?」
首をきょとんと傾げながら訊ねてくる少年に男は「ああ」と頷いてから、
「お前は相手が自分より本当に強い奴だと判断したら無意識の内に自分の中での本気で戦って、自分よりちょっと強いか同じくらいの実力の相手なら本気で戦ってる思って戦ってるんだよ」
少年は男を何を言っているのという表情で見ながら、
「本気で戦うなんて当たり前じゃないか」
「いやだからだなーーー」
★
あの時自分は言葉の意味を理解していなかったが、ブランクのある今ならはっきりとわかる。
強敵との出会いに体から力が溢れてくるのを感じながら“僕”は立ち上がる。
「さあ、あの童子は殺したぞ。 早く儂をーーー「勝手に殺さないでよ」ーーーぬっ!」
魔族の中では殺したことになっていたらしく声を掛けた僕を見て魔族は驚いている。
アリスさんと変態皇子に至っては開いた口が塞がらない状態になっているようだ。
「・・・童子よ。 お主は本当に人なのか?」
魔族のその問いに僕は失礼だな~と苦笑しながら“学制服から取り出した剣”を向けて、
「さあ! 第二ラウンドといこうか強い魔族さん?」