はい、来ました
三週間も出さずに本当にごめんなさい!!
その姿を見たアリスは思わず後ずさってしまう。
「な、何故あなたがここに!? 約束はまだ果たされていないではないですか!」
アリスがそう取り乱しながら叫ぶが、そんなアリスに構わず王子は何かを投げる。
それが落下した瞬間、辺りに透明な壁のようなものが出現し、アリス達を取り囲んだ。
「えっ!」
いきなり出現した壁に戸惑いながらも触れてみるが、触れただけで相当な強度だということがわかる。
(閉じこめられた!)
「フヒ、これは遮音結界という物で、中にいる者達の声は絶対に外に届かないようになっている代物です。 フヒヒ、しかも耐久面ではCクラスの魔法でも壊せない強度を誇っていますよ」
王子が下卑た笑いを浮かべながらそう言ってこちらに近寄ってくる。
あまりの恐怖に逃げようとするが、退路は壁に囲まれており逃げ場がない。
「こ、こんなことしたらすぐに衛兵が「フヒ、来ませんよ」えっ!」
ゆっくりと近づいてくる皇子に僅かな抵抗とばかりに声を張り上げるが、すぐさま皇子はその抵抗を両断する。
皇子は下卑た笑いを崩さずに続ける。
「フヒ、気づきませんでしたか? フヒヒ、ここにくるまで衛兵が一人もいなかったでしょう?」
王子のその言葉にアリスは先ほど感じた違和感を思い出す。
あの時、自分が些細なことだと思って気にしていなかったことが最悪の形となって返ってきた。
「ま、まさか・・・」
「フヒ、そのまさかですよ。 この時間帯の衛兵を買収させてもらいました」
「そ、そんな!」
アリスはその言葉を聞いてさらに絶望の表情を浮かべる。
その言葉が真実ならばここに助けは絶対に来ない。
王子はアリスのその表情が見たかったと言わんばかりの顔をしながら、
「フヒヒ! 王女よ私も鬼ではありませんよ、あなたにチャンスをあげましょう」
そんなことを言ってくる。
「チャンス?」
「フヒ、そうです。 フヒヒ、確かに約束を破ってしまったのこちらですからね。 あなたに助けを呼ばせてあげましょう」
「・・・」
突然の皇子の態度の変化にアリスは疑惑の視線を向ける。
そんな視線を受けた皇子は心外だと言わんばかりの顔をしながら続ける。
「フヒ、私をお疑いですか? ああ、もちろん結界は解いてさしあげますよ」
「ほ、本当ですか?」
「フヒ、もちろんですとも。 しかも、買収した衛兵はこの辺りの者だけです。 フヒヒ、もしかしたら別の場所の担当の衛兵が運良く近くにいるかもしれませんよ?」
皇子のその言葉に僅かながらの希望がアリスに宿る。
しかし、そんな希望も長くは続かなかった。
「フヒ、ただし助けを呼んだ回数ごとに一枚ずつ服を脱ぐという条件でね!」
そう言った瞬間の皇子の顔を見たアリスは思わずに身を抱きながら後退った。
アリスがそんな辱めを受けるくらいなら、と口にでかかったところに王子は待ったをかける。
「フヒ、呼ばないという選択史はあなたにありませんよ? もし呼ばないというのなら王女にはこの場で私の物になってもらいます」
助けを呼んだとしてもこの近くには誰もいないために服を全て脱ぐ羽目になってしまう。 そうなればこの皇子は確実に自分を辱めるだろう。
仮に近くにいたとしても、この王子がこの遮音結界とやらを解除してくれるとは限らない。
「フヒ、結界は解いてさしあげましょう。 フヒヒ、さあ、まずは一回目!」
皇子は遮音結界というものを解除したのか、アリスにそう促してくる。
(・・・今日は厄日ですね)
皇子のとんでもない理不尽にもはや抵抗する気力さえ失せたアリスは心の中でそう呟く。
本当に今日は厄日だ、勇者とは理不尽な政略結婚を自分の知らないところで勝手に結ばれて、しかも一番会いたくない皇子にまで遭遇し、今こんな辱しめを受けさせられている。
そんな悲観的なことを考えていると、不意に自分はある約束をしていることを思い出した。
それはある少年とここでお話をしあう約束。
第一印象は魔法を持っていない不憫な青年という印象で、自分のせいで迷惑をかけて申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
しかし、その少年は昨日初めて出会って話しただけで自分の常識とプライドを粉々に打ち砕いていった。
もしかしたら近くにいるかもと考えるが、用意周到な皇子のことだ、その辺は手を回しているのだろう。
悲観的な考えしか浮かんでこない自分を自嘲しながら、アリスは立ち上がり、
「・・・誰か、誰か助けに来てください!!」
誰も来ないだろう、そう思いながらも微かな希望を抱いてそう叫ぶ。
その声は虚しく辺りに響くが、予想通り状況に変化は現れない。
アリスはやっぱりか、といった表情でうなだれ、そんなアリスを見た王子の顔は喜色にゆがみ、
「フヒ、残念ですねー! フヒヒ、じゃあまずはーー」
ズドン! バリィン!!
皇子が何かアリスに言おうとした瞬間、辺りに何かを破壊したような音が響いた。
これも皇子の仕業かと思って顔を上げて見てみるが、どうやら違うらしく、戸惑っている様子だ。
アリスが思わず呆けていると、目の前に人影が現れた。
「はい、来ましたよプリンセス」
そして、アリスにに向けて笑顔で優しくそう言った。