初日
遅くなってすいませんでした
翌朝、俺は窓から入ってくる光を受けて目を開けた。
「ふわあぁー。 あー、今何時だ?」
大きく欠伸をし、目を擦りながら時間を確認しようとするが、目当ての物がないことに気づく。
「あれ?」
不思議に思い、周りを見渡すといつも寝ている部屋とは違うことにやっと気づき、自分の現状を思い出す。
「そっか、そう言えばここは日本じゃなかったな」
いつも通りの行動を取ろうした自分を笑いながら頭を掻きつつ、ベッドから起き上がる。
そして、目を擦りながらそのまま手近にあった椅子に腰をかける。
椅子に座ったその瞬間に思考が切り替わり、自分の状況を再確認する。
確か昨日はいきなりここにクラスで連れてこられて、自分は魔法が使えないことを知り、アリスさんと友達になった。
要所だけを簡潔にまとめ、記憶が正常なことを確認。
次に、身体の方も見てみると新しい外傷は特になく、内臓の方にも異常はないと判断。
最後に、もしこの世界がそうなのならば自分は何をしなければならないのかもしっかりと覚えていることも確認し、ようやく完全に目を覚ます。
そして、目の前の机に置き手紙と食事が置いてあるのにようやく気づく。
どうやら先程は見過ごしていたようだ。
(・・・一体誰が?)
俺の記憶が確かならば昨日の夜は鍵を閉めた筈。
警戒しながら指先だけ手紙に触れる。
(・・・異常なし)
どうやら罠の類ではないらしい。
そのまま警戒は解かずに置き手紙を手に取り、送り主の名前を確認する。
俺はそれを見た瞬間、フッと笑った。
差出人のところには綺麗な文字でアリスさんと神童と天河さんの名前が載っていた。
(アリスさんだけじゃなくあの二人まで・・・)
俺はこの人達の優しさに涙が出そうになる。
認めたくはなかったが、俺はクラスの中では少し浮いている存在だったために積極的に関わろうとしてくれる人は少なかった。
だが、この二人はそんな俺のこと親友と言ってくれた。
その時のことについてはまた後ほど詳しく語ろう。
(あのときは嬉しかったな~)
少し前の思い出を思いだしがら思わずにやけてしまう。
(これが親友っていう奴なんだな)
俺は高校から学校に通いだしたために一般常識には少し疎かったが、このように支え合うような関係のことを言うのだろう。
(おっと! 思わず手紙のこと忘れるところだった)
幸せ空間から一旦帰還して置き手紙の内容を読む。
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~アリス~
連様、早朝にそちらの部屋へ窺わせていただいたところ、随分晴れ晴れとしたお顔でお眠りになっていたので起こすのはやめておきます。
今日の夕方、例の場所でまたお話ししましょう。
連様のお部屋に向かう途中で出会った真波様と正次郎様の言伝も記しております。
追伸 朝食を置いておきますので、できるだけ早くお食べください。
~正次郎~
連君、魔法のことに関して力になれなくて本当に申し訳ない!
だが、僕は諦めないぞ。 必ず僕の命の恩人である君の力になってみせる、ちょうどこれから僕は魔法に関しての講義を受けにいくからそこでの内容を後で報告するよ。
追伸 僕の力が必要だったらすぐに駆けつけるので呼んで下さい。
~真波~
馬場君、今回のことに関しては何の力にもなれなくてごめんね。
本当は会ってお話したかったんだけど、しばらくは時間が空きそうにないんだ。
でも、女子と男子は講義の内容が違うみたいだから私も後で正次郎君と一緒に内容を報告するよ!
魔法が使えなくても頑張ってね!
追伸 王女様みたいに私も真波って呼んでくれていいよ!
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読み終わった俺は柄にもなく感慨深いものを感じていた。
俺にとって心配されるというのは実に久々な体験だったからだ。
そんな俺の心情は今、自分のやれることは最後まで全力でやりきるという気持ちに変わっていた。
その理由? それは実に単純のものだ。
友達が俺のことを心配し、尚且つ期待してくれている。
俺にとって頑張る理由はそれ以上いらなかった。
(おおーし! とっとと飯食って俺も情報収集だ!)
気合いが漲りまくっている状態でアリスさんが用意してくれていた食事の内容を見る。
朝食の内容は洋風のそれに似ていた。
フランスパンのような形をしたパンの中に卵やハムなどが入っているパンや、牛乳よりも白い飲み物。 コーンスープにサラダまで用意されていた。
(豪華だなー、誰が作ってくれたんだろ?)
本来ならこんな豪華な朝食をもちろんのこと、まともな朝食すら俺は食べれないだろうと予想していた。
だが、予想は見事に裏切られて普通の一般人はここまで朝食べないだろうというくらい用意されていた。
(ここじゃこれが普通なのか?)
思わずそんなことを考えるがさすがにそれはないだろうと判断し、ありがたく料理をいただくことにする。
まずは主食であろうパンから一口。
そのパンを食べた瞬間、俺は驚きを隠せなかった。
「う、うまい!」
そのパンは俺が思わず声に出してしまう程のおいしさだったのだ。
一つ目のパンはあっと言う間に食べ終わり、その勢いのまま二つ、三つと食べるとパンはすぐに無くなった。
がっついてしまったので喉が渇き、牛乳のような飲み物を飲む。
グビっと一口飲むと、牛乳と言うよりも味はヨーグルトに近かった。
その味わいはちょうど今の気分にあっていたので表情を弛緩させながら料理を次々に食べていく。
机の上から料理が見る見る内になくなりやがて、
「ごちそうさまでした!」
元気よく食事の終わりの挨拶を言う。
料理が美味しかったということもあり、朝食を食べ終わるのに十分もかからなかった。
食べ終えてからしばらく一息ついたところで、
(情報収集と言ってもまずは何しよう?)
早速つまずいた。
そのままうーんと唸っていると名案が浮かんだ。
「そうだ! 王宮って言うくらいだし図書室の一つや二つあるはずだ!」
そう言って急いで身支度を整え(といっても着替えが無かったので制服をのばしたくらい)思い立ったが吉日だ! とばかりに行動を開始する。
部屋の扉をバンと開け、「失れぃ!」駆け出そうとーーー
・・・ん? 今、女の人の声が聞こえたような。
そう思いつつ下を見てみると、桃色髪のメイドさんが頭を抑えてうずくまっていた。
★
一方その頃、アリスは勇者達の対応に追われていた。
講義が終わってからと言うもの、アリスは生徒達から質問攻めにあっているのだ。
だが、それも仕方のない事だろう。
なぜなら、学生達は向こうの世界では王女と触れ合う機会など一生に一度あるかないかなのだから。
そんなレアイベントを思春期真っ盛りの高校生達が逃すはずないのだ。
もみくちゃにされそうなところを何度も正次郎と真波に助けてもらっているのだが、生徒達の中でも男子は特にしつこかった。
アリスは自他ともに認める美少女であり、そんなアリスの気を惹こうと下心丸だしで話しかけてくるのでこちらの気持ちなどお構いなしなしなのだ。
男ならむしろこれが正常の反応で連が少しおかしかっただけ、と昨日連に粉々にされかけた女としてのプライドをアリスは取り戻して、再び勇者達の対応に移る。
その男達の中でも特にひどいのがあのオリジナル魔法使いの勇者である。
「聞かせてください!」とも頼んでいないのに自分の武勇伝や歯に浮くような台詞を何度も言ってくる。
そんな林田にアリスは内心で怒りながら、
(はあ、連様の言った通りでしたね!)
と、心の中で愚痴を漏らした。
昨日、アリスが連から聞いていた話ではオリジナル魔法を使える勇者の林田はとんでもない変態だという。
林田は連曰く、自分の欲望と下半身にしか栄養のいってない駄目人間らしい。
アリスも最初の方こそ信じなかったもの林田の過去の話をたくさん聞かされて、アリスは林田の評価を底辺まで落とした。
だが少しはマシなところもあるのでは? と、僅かばかりの希望を持って接したところこのざまである。
明らかに故意的にしか見えないような不慮の事故に見せかけた接触だけならまだいい。
何が許せないかというと先程からわざとこちらの方にこけてアリスの体をその際にベタベタ触ってくるのだ。
・・・それも女性にとっての大事なところをだ。
ほかの女子達は「あちゃー」や「だめよ林田君!」などと子供をあやすような感じで注意し、それに対して林田は明らかに反省してますよ、と言わんばかりの格好だけの反省を見せている。
そんな林田を見た一部の男子が露骨に舌打ちをしているが他の男子は誰も気にしない。
それも当然だろう。 連の話によれば過去にある女子と仲良くするためにクラスメイトを利用したこともあるという。
そんな男の話を早く終わらないかなという風に待っていると、
「ねえ、あの魔法の使えない落ちこぼれはどうしてるのアリアーゼ?」
と、唐突にクズ男が爆弾を投下してきた。