友達
「………えっ?」
俺のその言葉を聞いた王女様が何が起きたのか理解できないような顔をしている。
(あれ? 本心で言ったつもりなんだけどな)
俺がそう思っていると、
「あ、あの!?」
「はい?」
「い、今なんとおっしゃられたのですか!?」
王女様のその発言に俺は、
(ああ、聞こえてなかったのかな?)
と、そう思い、もう一度言うことにする。
「友達になってくださいって言ったつもりだったんですーー「そんなことで良いんですか!?」ーーえっ?」
俺が言葉を最後まで言い切る前に王女様に声をかぶせられた。
「そのようなことで本当によろしいのですか!?」
王女様に正気か!? というニュアンスで訊ねられたので俺は、
「え、ええ。 もしかして嫌でしたか?」
狼狽しながらそう聞くが、
「そうは言っておりません!」
「は、はあ」
俺がその王女様の剣幕に圧倒されていると、王女様はゴホンと咳払いしてから、念を押すようにこう言ってきた。
「自惚れるつもりはありませんが、これでも容姿に少しの自信はありますし、王族なので金銭の面にかけても解決することができます! ここ、いいですか!?」
「は、はい!」
「他にも余程のことがない限り私ができる範囲であれば私はあなたの望みを叶えました!」
「そ、そうですか!」
「再度問いますがあなたは本当にそれでよろしいのですか!?」
王女様は真剣にそう聞いてくる。
(……優しい人だな)
普通の人なら自分に不利なことは自分の都合の良いようにしようとするが、彼女の場合はこちらのことを全面的に考えている。
俺はそんな王女様に笑顔で応える。
「はい! 俺と三日間の間友達になってください!」
そんな俺を見た王女様が首を横に振りながらため息を吐く。
「・・・あなたは人が良いのか欲がないのか……まあ、両方なのでしょうね」
そう何事かブツブツと呟き、その後に最高の笑顔で応えてくれた。
「【クリスタ王国】の王女のアリアーゼ・エルミスです、気軽にアリスとお呼び下さい。 至らぬ身ではありますが何卒よろしくお願いします」
王女様の自己紹介を聞き、俺も自身の自己紹介をする。
「日本出身の高校生、馬場連です。 短い間だけどよろしくね、アリス様!」
「私に敬称は不要ですよ馬場連様」
「いやいや、さすがに王女様にタメ口は聞けませんよアリス様」
「いえ、私にーーー」
「いやいや、俺こそーーー」
しばらくの間討論した結果。
「アリスさん部屋に案内してくれないかな?」
「すみません連様、こちらになります」
と、この呼び方に決定した。
★
部屋の前に着くと、アリスさんが質問してきた。
「ですが連様、私は一体何をすればよいのですか?」
「特別やって欲しいことなんてないんだけど、あえて言うならこの世界のことについて教えてくれたり、面白い話を聞かせてくれると嬉しいかな?」
苦笑しながら俺はそう言う。
俺の内情を察してくれたアリスさんが場の空気を変えるように明るく言い放つ。
「・・・分かりました! ですが、夕方までは勇者様方のお世話をすることになると思うので、会うのは夜にしましょうか!」
「うん、俺はそれでいいよ。 でも、場所はどうする?」
俺のその質問にアリスさんは待ってましたと言わんばかりの笑みで答えた。
「それに関しては問題ありません。 ここから東の方へ進んで行き、庭に出てから西へ行ったところに広場があります、そこなら見張りにも気づかれません」
俺はそんな自信たっぷりの彼女に賞賛を含んだ言葉をかける。
「すごいね、アリスさん! まるで今まで何度もそこに行ったことのあるみたいな口ぶりだ!」
俺がそう言った途端に彼女は黙る。
「・・・」
「……行ったことあるの?」
「な、何度かだけですよ!」
そういう彼女の目は泳ぎまくっている。
この反応から察するに少なくとも一桁ではないのは確かだ。
(何しに行ったんだ?)
俺がそんなことを考えていると、
「と、とにかく今日のところはここで失礼します! 何かあったら明日また私に教えて下さい、それでは!」
「あっ、待ってアリスさん!」
そのまま去っていこうとする彼女を俺は呼び止める。
「どうされましたか?」
「俺のクラスメイト・・・特に男子とはあまり交流を持たないようにしてね」
俺がそう言うと彼女は首を横に曲げながら訊ねてくる
「何故でしょうか?」
「それはあいつ等が変態だからだよ」
それから俺はあいつらの汚点をすこしアリスさんに語って聞かせた。
話が終わると、アリスさんの目は完全に汚物を見る目に変わっていた。
「忠告ありがとうございます連様。 もし何かあればこちらで対処させていただきます、それでは」
「さ、さようならー」
彼女から漏れ出ている殺気に震えながら部屋に入る。
そして、扉を閉めて、
「・・・・・・雪」
その場に座り込みながら急に連れてこられてしまったために伝言すら残せなかった相手の名を呼ぶ。
自分にとっては姉のような存在であり、ライバルであり、親友でもあり、そして家族の少女。
白の長髪をストレートに肩まで伸ばし、感情の起伏が少ないのが特徴の少女。
幼い頃はよく師匠の昔話で盛り上がっていた彼女は今ここにはいない。
今もどこかで戦っているのだろう。
俺はそう考えてギュッと目を瞑る。
思い出すのは目を背けたくなるような戦いの数々。
「待ってろよ、俺……“僕”が必ずお前をここに連れて来てやる」
まだ“ここ”がそうだと決まった訳ではない。
だが、
(それでも、それでもやっと見つかった希望なんだ!)
約束を果たすためにも恩を返すためにも命を賭けてでも俺は彼女を連れてくる。
俺はその決意を胸に宿し、就寝の準備をする。
(俺は雪のためならなんだってする、そのために俺は変わったんだ!)
ーーー彼女のためなら俺はなんだってする。
ーーーたとえ、それで世界を敵にまわしても・・・
そう自己暗示のように呟きながら俺は眠りに就いた。