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輝け!  作者: TUGUMI
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プロローグ

米子は小説家だ。

ちなみに米子は彼女の本名である。

田舎に生まれた彼女の両親は根っからの農家で、彼女が「お米のようにつやつやと輝き、みんなから愛される子になるように」という願いを込めてつけたのだ。

結果米子は、不規則な生活をしているにもかかわらず、ニキビ1つないつやつやとした肌をもっているし、少なくとも小学校から高校までメンバーのかわらない地元の学校では(一学年5人しかいなかったが)みんなから愛されていた。社会という大きな器にでるようになるにつれ、彼女は食べ終わったお茶碗のはしっこにくっつくただの米粒のようになってしまったのだが、米子自身はいまもつやつやと輝きみんなに愛されていると信じている。

もしかしたらお米もそんな事考えてるんだろうか、とお茶碗を見つめながらふと思う。

わたしは馬鹿か・・・。


藍澤美緒。グラビアアイドルにでもいそうな名前ね。とよく言われるが、なんのことはない、25歳目前にして、OLを続けるか、同じく平凡な彼と結婚し専業主婦になるかの選択を迫られている元地味で平凡な田舎女だ。なぜ元かというと大学に入学するのと同時に東京に出て、端からみれば田舎者であることはわからない(た・・たぶん)であろうところまで自分を直して直して来たからである。新宿も、下北沢も、代官山も、渋谷も、原宿も地図なしであるける!おすすめの場所だってたくさんある。ちょっとオシャレなレストランだって予約して入店し、「食前酒はシェリーでお願いね」なんて・・わたし、よくここまで(泣)

しかしそんなわたしのオシャレデイも米子の前ではぶちこわされる。

家に帰れば米子がいる。だからわたしは彼を家にあげたこともない。「男の人を家にあげるのはまだちょっと気が引けるの・・」などと言えば、純粋でひたすら優しいわたしの彼は、「そうか。いずれは結婚して一緒に暮らすことになるんだから、気にすることはないよ」といって、午後10時までにはマンションの前まで送ってくれる。

実際に住んでいるのはその横にひっそりと佇むぼろいアパートだったりするのだがそこは口が裂けても言わない、プライドにかけて。


なんでこんなことになったかといえば、米子のせいだ。全て米子のせいといっても過言ではない。米子は、わたしが大学進学のために上京するときについてきた。米子自身は大学に通うわけでもないのに、だ。


「あんたねー、簡単に上京するっていうけどアテあんの?」

高校卒業間近、2月ももう終わるという教室で、わたしは聞いた。

教室の中だというのにマフラーぐるぐる巻きに帽子までかぶった米子は言った。

「大丈夫〜〜〜」

何が大丈夫なんだ!と心の中で叫びつつ、面倒はごめんなので簡単に相づちを打って会話終了。あとはわたしはわたしで新しい生活の準備をすればいいだけだ。

と、思ったわたしが馬鹿だった。

家に帰るとコタツでわたしの両親と米子の両親がのんきに蜜柑を食べている。そしていつ先回りしたのかなんなのか、またしても厚着をしたままの米子もそこにいた。

「うちの米子、よろしくおねげぇしますー」

・・・・。

なんとわたしの知らぬ間に両親と米子一家との間ではわたしと米子が二人で東京で暮らすということが決まっていたのだ。

当然わたしは怒った!もうこんなに怒ったのは小6の時に米子がわたしの失恋をネタに書いた小説を嬉しそうにクラスメイトや町内の人に見せていたのを見つけたときくらいだ!おかげであのときはいろんな人に「元気だして」とぽんと肩を叩かれた。何も実名で書かなくてもいいじゃないか、そして意外にそのストーリーが面白く、周りの評判がよかったのが余計にむかついた。わたしも最後まで読んでしまったではないか、「みおちゃん、かわいそう。ぐすっ」


ってこれはわたしの実話じゃーー! 


・・・まあ、それはおいといたとしても私は怒る!

当然である。この田舎を出るために必死で勉強して受かった東京の大学だ。

高い交通費まで出して、なんのために東京に行くのか。

それは当然東京でのめくるめく日々(古い?)を思っての行動ではないか。

ちゃんとオシャレで共学のところを選んだ。もう鼻水たらした男子とりんごみたいなほっぺの女子が手を繋いでにこにこしてるだけの恋愛は終わりだ。

わたしゃあ、もう18だぞ!

それなのに米子がついてくる?!冗談じゃない。

わたしの抵抗はすさまじかった

と思うが、それ以上に米子の(地元の)人々を動かす力は凄かった。わたしが上京する際に米子を連れて行くことを断固拒否していると知った町内の人々はことあるごとに

「米子ちゃんがかわいそうじゃねがー」

「あんたしっかりしとるんじゃから、面倒みてやらんとー」

「こーんなちっちぇえときから一緒にいたんだがらもう家族みたいなもんだー」

と、至る所で言われ、終いには米子の母親の泣き落としがかかった

「米子、どおしても東京さ、いきてぇっていうんだー、どうにか一緒につれてってやってけろー、おらたちも美緒ちゃんといっしょなら安心だがんなーおねげえしますー」

そしてこの話をわたしは「この米俵、あんだにやるがらー」と言って渡された米俵を抱えながらなんと三時間(!)も聞かされたのだ。いらねぇよ、米俵・・・。

限界がやってきたその時わたしの中でなにかがきれた。

キレたのではない。「もういいやー」と思ってしまったのである。

わたしはこの選択が人生最大の過ちであったと、今なら言える。胸を張って。

米子を置いてくるべきだった。「こいつは田舎にいたほうが幸せになれる!」と真っ赤なぽっぺたでへらへらしている馬鹿を指さして言うべきだった。


東京にいけばなんとかなる。

米子もいずれ一人で頑張ろうという気になるだろう。

というよりもなによりもこの状況がめんどくせーーーー!!


そう思った自分をこの日以来、わたしは毎日呪うことになる。


そういった経路でわたしは米子を連れて上京し、マンションを借りることにした。しかし何故、いまこのおんぼろアパートに住むことになったかどうかはまた後に説明することにしよう。


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