3章 鈴の音の少女
ここから3章です。
その後、全員朝食を取るべく食堂へと向かったが、先程のルートのことが気にかかりどうも食べる気が起きなかった。
ルートのことを観察するも特に変わった様子はない。班の皆と楽しそうに話している。さっきの出来事が俺の思い違いだったように感じる程だ。
それにしてもルートは社交的だな· · ·
俺とは大違いだ。
「ん?ゆき、俺の顔に何かついてるか?」
やばっ!!
まじまじ見すぎてた!
慌てて視線を皿へと移す。
「いや、なんでもない。ぼーっとしてただけ· · ·あー、食欲起きないから先次の教室いっとく!」
もう食べられないとばかりお腹をさすり慌ててその場を離れた。
慌てる必要なんてないし、俺も普通にしとけばいいのに何故か動揺してしまった。食堂をでて1人教室へと向かう。何故ここまで慌てたのだろう。あの一言とあの表情でルートのことがここまで気になるなんて· · ·
· · ·でもどうもひっかかるんだよな、嫌な感じに。先程の規則の話と妙に絡む感じがする。
「· · · · · · ·」
そそくさと出ていく俺の後ろ姿をルートが無言で見ていたということは知る筈もなかった。
あーあー!!流石にさっきの一言で気にかけすぎだよ。
考えるのはやめよ。
といってもルートが気になることには変わりないから一応観察下に置くとして、今はこれっきり深く考えすぎないようにした。
教室に着いたが当然誰もいる筈なく、ぼんやりと窓の外を眺めた。雪がしんしんと降り続いている。やがて遠くから鈴の音が聞こえてきた。だんだん近づいているのか鈴の音が一段と大きく聞こえる。
止まぬ鈴の音が気になって窓を開け左右の様子を確認する。
目と目が合わさった。
そこにはまるで蓮の花の様なとても薄いピンクの柔髪をもつ女の子が立っていた。腰あたりまで伸ばした長くサラサラとした髪、毛先に行くほど少し濃い上品なピンク色に染まっている。金色に輝く瞳。服の合間からチラチラと見える華奢な体と白い肌。見た瞬間ハッと息を呑んだ。
「あら、あなたここの生徒かしら?誰もいないからここを歩いていたのに。私と会ったことは内緒にして欲しい。お願いね。」
と彼女は可愛くウインクして見せた。
「お前ってここの生徒じゃないよな?」
「ええ、そうよ。えと、実はちょこちょこお忍びで見に来てて· · ·今回あなたに見つかっちゃたけど。」
「生徒じゃないやつが入れるのか?」
ルートが収容所と言ってたようにこの騎士学校というのは名ばかりで、特殊だ。昨日俺は教官が容赦なく生徒を斬っていた光景を目の当たりにしたんだ。普通こんな場所に外部者を入れるだろうか。
「もちろん入れないわ。」
彼女はきっぱりと言い放った。
「どうしてもここを調べなきゃならないの。」
「ああ、そうだ!良かったらあなた私を手伝わない?」
悲しそな表情を浮かべたと思ったら、ぽんと手を叩き指をピンと立てて見せ笑みを浮かべる。ころころと変わる表情が可愛い。
「もちろんただで手伝って欲しいなんて言わないわ。あなたの知りたいことを教えてあげる。例えば私が知る範囲のこの学校のこととか· · ·この国についてとか色々ね· · ·」
寝耳に水だ。俺の知りたいことがなぜ分かった。
「ふふふ· · ·なんで、俺の知りたいことがわかったんだ?!って顔してるわね。私読心術が少しだけできるの。細部まで分からないから大まかなことしか感じ取れないけど。あなたは知りたがってる。この世界国学校について。そうよね。」
· · ·当たってる。確かに俺は今知りたい。俺の置かれたこの状況を。だが、こんな得体の知れないのと組んでいいのだろうか。もしバレたら殺されるのではないだろうか。正直知りたいけど恐怖の方が勝ってしまう。
断ろうと思ったその時、彼女は口を開いた。
「· · ·殺されはしないわよ。私この国の聖教皇の娘なの。」
は?
聖教皇の娘?!
てことはこの学校の創立者の娘であるってことだよな。
「うそじゃないわ、それにあなたにとって悪い取引じゃない筈。」
「そ、そんな急に言われても信じれる訳ないだろ。でも· · ·」
言いかけたその時、教室の廊下の外で話し声が聞こえた。朝食を終えた生徒たちが戻ってきたのだ。
ヤバっ!
「もし手伝ってくれる決心が付いたら今晩0時に図書室で会いましょう。それまで考えておいてね。」
お願いねーと再度俺に頼む身振りをして彼女は鈴の音と共に去っていった。