2章 異世界転生とスレイクス収容所④
翌朝ルートに起こされて俺は目が覚めた。目覚めてもなお元の世界でない光景が夢でない現実をひしひしと痛感させた。
· · ·· · ·まさか本当にこれが現実だというのか· · ·?!
ぼーっと日が登った窓の外を眺める。一面銀世界だ。一夜明けてなお素直に今の現実を受け入れられない。
「· · ·ぃ、· · ·おい· · ·」
「おい、ゆき!!!」
名前を呼ばれてびくっと後ろを振り向く。自分の考えに浸っていて呼ばれているのに気づかなかった。
「部屋を出たら右奥に洗面所があるから直ぐに顔洗って支度しろ、昨日の入隊式の場で集合だぞ。」
呑気に寝ぼけてる場合じゃないとルートは俺にタオルを差し出して支度を急がせた。
部屋を出ると同じように洗面所に急ぐ者達で溢れていた。
· · ·この混みようじゃなかなか急げなさそうだ· · ·
のんびり列に並ぼうと思ったがふと昨日惨劇が脳裏をよぎる。遅れると何をされるか分からない。その恐怖心から俺は列をかき分け前へと急いだ。
ようやく洗面台に立って顔を洗おうとすると鏡に映る見たことのない少年の姿が目にとまった。その姿にポカンと口を開かずにはいられない。横でもなく後に並んでる者でもないまっすぐ正面の位置に立っている自分自身の姿。白い肌、青と紫の瞳に肩までさらりとかかった銀色の髪· · ·中性的な顔立ちは以前の自分と全く違っていた。特に瞳の色は青と紫が混ざっていてガラス玉の様だ。
前の俺は普通に黒髪で瞳も黒いし、それといって特徴もなくごく普通の日本人って感じだったのに。
だが、身なりはボロボロで貧相。パッと見た感じは小汚い少年にも見える。そういえば自分を姿を見るのは初めてだ。そもそも周りの人間の顔もまともに見れないほど昨日は余裕がなかった· · ·。
何度見ても自分が自分とは思えず鏡に見入っていた。やがて洗面所を占領する俺に痺れを切らした後の男がドケよと肩を掴み横に押しやられようやくこの場を後にした。
戻るとすでにルートは支度を整え俺を待っていた。
「ようやく来たか。ゆきを待っていたんだ。全て班行動だからな。」
ルートの後に4人男の子が立っている。全員俺を待っていたようだ。
「まぁ、でもまだ少し時間あるから軽く自己紹介でもするか。俺はルートだ、先に連れていかれた仲間を追いかけてここに入った。よろしく。」
「さっきはごめん、遅くなって。俺は桐生雪。ゆきと呼んでくれ。」
ルートに続いて俺も軽く挨拶した。
俺の次に自己紹介したのは少しくせっ毛の青い髪に眼鏡をかけた俺より少し背の高い男の子だ。いかにも賢そうだ。
「俺はシアン、よろしく。」
「じゃ!次はぼくの番ね!えとフィーネ!よろしく!」
短くつんつんとした金髪と緑の瞳が特徴的な彼は無邪気に笑いながら挨拶した。この中では彼が1番幼そうだ。
「えー、次俺でいいのかな。俺はハント。可愛い女の子と同じ班を期待したけど、ここまで野郎ばっかとはまじで泣ける。」
ううっと泣く振りをしている。肩まで届かない所々ハネている薄い金髪に青い瞳。子供ながら耳にピアスを4箇所、左耳に1つ右耳に3つ開けているのがかなり印象に残った。
確かに女の子がいないのは残念だけど、そこを気にかけている余裕はない。というか多分班は男女で分かれてるんじゃないだろうか。四六時中共にするなら混ぜる方が危険だ。
つか、こいつまだガキなのにませてるよな· · ·
「最後は俺だな。俺はシュセイル。お前らより少しばかり年上だ。」
シュセイルと名乗った彼は見た目12歳ほど。俺を含めたほかの者達はみな、10歳前後だ。彼はボサボサした黒い髪に金色の鋭い瞳が特徴的だ。年齢からか皆より背も高い。
年上だからなんだって言うんだ。
むしろ俺の方が2倍近く年上だ。
「んじゃ、全員自己紹介終わったし、行きますか!」
ルートはそう言ってパンと手を叩き、部屋を出ていった。俺達もルートの後へと続く。
はぁ· · ·
できればあの場所には行きたくねぇ· · ·
としょんぼりした面持ちで俺は集合場所へと向かった。
女の子書きたい!
⑤に続きます。
(7月11日→主人公の心の声を丸括弧()で表していましたが、使い方を修正しました。)