2章 異世界転生とスレイクス収容所①
―je.1056 より10年前(je.1046)輸送車の中―
「· · ·きろ、お· · ·ろ· · ·」
「おい、起きろ!おい、おい!」
囁くような小さな声で俺は目が覚めた。
「良かった、起きたか。死んでるのかと思ったぜ。もうそろそろ着くらしいぞ。寝てたら殺されちまう。」
見知らぬ少年はそう言って苦笑した。
辺りを見渡すと列車の荷台なのかたくさんの子供たちが乗っている。声を潜め啜り泣く声もどこからか聞こえる。皆の表情は暗い。
· · ·というか、ここはどこだ?
さっき車にひかれて死んだ筈では· · ·?
もし生きてたとしても病院に輸送される筈だよな?
見えるのは病院の天井でも車にひかれたあの土砂降りの夜空でもなく、荷台に押し込まれ座っている子供たちの姿。
混乱したがこの雰囲気からかとても聞けるような勇気が持てない。
落ち着け、俺。
まず、自分なりに分かる範囲で情報を整理しよう。
大きく深呼吸をし、視線を自分の手の方へとうつした。
目に映るのは小さな手。自分の手とは思えないほどの小さな手だ。そこから推測できることは俺の体が小さくなった、もしくは俺ではない違う体か。
とにかく周りの状況からでも俺は子供なのだと判断できる。目に映る全ての範囲で大人は確認できない。
次に俺は遠くを見渡し場所を確認した。もちろん分かる訳ないが、今が夜ということと雪が降っていること、そして海沿いを走っていることが確認できた。満員からなのか混乱からなのか寒さは不思議と感じなかった。
途端に笑いがこみ上げてくる。
アニメでよく見る異世界転生なのか· · ·まじでありえんのかよ· · ·
異世界転生。そう、日本のアニメなどでよく見るあれだ。全く信じ難い。
だが、死んだのにも関わらず生きている点や見慣れぬ風景、元の自分の体との相違から考えて転生という可能性が気に食わないがしっくりくる。
これが夢で目覚めたら病院のベッドの上だったってのが1番いいけどな。
そう自分に言い聞かせながら俺は助けや疑問の言葉を発したい気持ちを抑えた。
長い沈黙が続いた。電車の揺れる音が大きく聞こえる。
ふと、右から声が聞こえた。
「· · ·地獄らしいな。まず施設に放り込まれたら卒業するまで生きて出れないらしいぞ。俺が慕ってた仲間も前に連れていかれたが誰一人として帰ってこなかった。」
重たい空気が続く中、横の少年がぽつりと小さな声で話しかけてきた。初めに俺に声をかけてくれた奴だ。
「お前は捨てられてきたのか?」
少年は俺の目をしっかりとみて話しかけてきた。少年のブルーの瞳が月明かりに照らされ輝いて見えた。その瞳から真剣さが伝わってくる。
申し訳ないとおもったが〝死んで目覚めたらここにいた〟とは言える筈がなく適当に〝ああ〟と答えた。
「お前は?」
おそらく他の境遇とは違うのだろうと予想はできたがなんとなく聞いてみた。
「俺は自分からここに来たんだ。勝手に乗り込んでやった。仲間を取り戻すためにな。」
真っ直ぐ綺麗な瞳が月空を仰ぐ。
「お前ってすげーな。」
その言葉にすぐ反応し首を横に強く降って「すごくねーよ、こんなやつたくさんいるよ…」と少年は悲しそうに笑った。
「あ、そうそう、お前名前なんて言うんだ?俺はルート。」
「俺は· · ·桐生雪だ。」
「きりゅう、ゆき· · ·?この辺では聞かない変わった名だな。」
「· · ·」
ルートは俺の名を尋ねたが、この体の主の名前など知ることはなく本名を答えた。まぁ、もちろん変わった名だと言われると思った。
異世界あるあるってやつだな· · ·笑
「まぁ、よろしくな、桐生雪!」
「雪で、いいよ。ルート。」
そう言うと彼は嬉しそうに笑った。
それと同時にブレーキの大きな音が鳴り響いた。外も何やら騒がしい。
「着いたようだな· · ·」
ルートの表情から笑顔は消えた。緊張と不安が走る。
ドサドサと数人の足音が聞こえ、
「「おい、ガキどもさっさと降りろ!」」
大人の大きな怒鳴り声が辺りに響いた。
きっと辛い生活を強いられるのかと今まで散々甘く育った俺はその程度でしか考えれず、この先想像を遥かに超える生活が待っているとはそのときの俺は予想していなかった。
7月9日
(7月11日→主人公の心の声を丸括弧()で表していましたが、使い方を修正しました。)