1章 黒騎士
―je.1056 スレイクス第3管轄地区―
敵の背後にたち静かに言い放つ。
「· · ·死ね。」
敵の頸動脈を双剣で掻っ切る。その瞬間美しくも儚い命が血とともに散っていく。
ぶしゃっと溢れ出た血は温かく心地いいマナに溢れている。
暗殺なんて考えれなかった世界からやってきた俺だが、ここにきて人を殺すだけの英才教育を受けて育った。
これは転生前の俺に対する罰なのだろうか。人の命を守る医療職を目指していたのに皮肉なものだ。
俺は桐生雪 、年齢はおよそ17歳。
俺が異世界転生したのは約10年前だ。
転生後まもなく皇立スレイクス騎士学校に連れていかれた俺は3年前にそこを首席で卒業した。今は聖教皇の直属の騎士を務めている。ここを卒業出来たものは俺を含めて5人。周りからは黒騎士と呼ばれている。
まぁ、騎士と言うのは名ばかりで5人とも暗殺者だ。
「あっ!!あった!ゆきー、あったよー!帰ろー!」
今回の任務で俺と一緒に行動しているフィーネも5人のうちの卒業生の1人だ。
死体から目的物を見つけたのか嬉しそうにこちらに手を振っている。
「· · · · ·またこれか· · ·」
アクアマリンの様な石だが、今聖教皇が血眼になって集めている物の一つ。まぁ、小さいけどこの石には膨大なマナが溜まっている。
「· · ·帰ろう。フィーネ。」
コートに付いているフードを被り直しスレイクスの首都セーレンへと向かった。
相変わらずここスレイクスは四季もなく雪景色、白一色だ。寒く厳しい環境下何人もの下民が死んでいる。完全貴族社会のこの国では下民がのし上がるのはほぼ0%といっても過言ではない。
首都セーレンはピラミッドの様な構造で上層中層下層に分けられており下層は貧しい貧民街、上層は高貴な貴族が暮らす地となっている。中層には俺たちのような騎士や商人、そこそこ金を持っている非貴族の連中が住んでいる。
「ふぅーようやく着いた!寒かったーー、ゆき報告よろしくね。僕先に帰っとくから!」
セーレンに着いた途端いなくなるフィーネ。毎度同じ。
1人で中心部へと足を進める。中心には日本でいうエレベーターの様なものが置かれているのでそれで聖教皇が住む聖宮へと連れていってくれる。とても便利である。
聖宮は入ったすぐの広間は教会の様な作りになっている。聖教皇がいるのはその奥で、王宮の謁見室と言えばわかりやすいと思う。まぁ、簡単に言うとエントランスが教会でそこに大きなお城が繋がっている感じだ。
赤いカーペットが謁見室まで繋がっている。
「聖教皇、ゆき様が戻ってまいりました。」
大きな二枚扉の前に立っている騎士は俺の顔を見たらすぐに聖教皇へと知らせ戻ってくる。
「どうぞ、お入りください。」
騎士によって重い二枚扉が開かれる。
俺は中へと入っていき、聖教皇の前へと近づくと膝まづき頭を下げた。
「どうだったか?」
「はっ、結晶石を1つ入手致しました。」
入手した結晶石を聖教皇へと差し出す。
「それは良くやった!」
聖教皇は機嫌がいいのか、結晶石を見ながら満足気に笑っている。
「そういえば、お前に言いは知らせがある。リンシアが目覚めたぞ。」
· · ·リンシアが?!
俺は下げていた頭を上げ聖教皇を愕然と見つめた。
「し、失礼しました、それは本当ですか?」
「ああ、本当だ。確認してくるといい。下がっていいぞ。」
部屋を出たとたん驚きと喜びのあまり叫びそうになった。
リンシアが目覚めた!
10年眠っていたリンシアが· · ·なんてことだ。早く合わなければ。
早く会いたい · · · ·!!
リンシアの無事を自分の目で確かめたい。
話したいこと一緒にやりたかったこと見せてやりたかったこと· · ·色々な思いが溢れ出す。
とにかくリンシアの部屋に急ごう!
物語の始まりを変えたかったので割り込み投稿して大幅な修正を加えました。物語の軸は変わっておりません。