日常 #8
私の前で元気に喋っているのは春日友稀。
典子とは真逆のタイプで、いわゆる健康美人。
朗らかで、接しやすくて、話題が豊富で、運動もできて、頭もよくて…。
美点を数え上げたらキリがない。
友達も多いし、男の子とも平気で渡り合える。
スポーツ万能なのに部活はしていない。
けれど、時々たのまれて、バスケ部やバレー部などで助っ人をしているようだ。
演劇部の助っ人を頼まれることもあるらしい。どんだけ芸達者なんだ、友稀は。
地味系の私と典子に対して、社交的な友稀。
どうして、この三人が仲良くなったのかは良く分からない。
たしか、友稀が私たちの会話に入ってきたのが切っ掛けだったと思う。
だけども、今もこうやって仲良しでいられるのだから、やはり相性というものが
あるのだろう。
「ねぇねぇ、心美。また栗山くん、私たちのことチラ見してるよ」
友稀が、教室の反対側に陣取る男子グループをアゴで指しながら囁く。
私と栗山くんとは、よく目が合う。
それは、私の方でも栗山くんをチラ見しているからだ。
実を言えば、私にとって栗山くんは気になる存在。
美形でもスポーツマンでもないけど、真面目でとても優しい所に惹かれている。
4月の始め頃に、入部しようとした文芸部の部室が見つからず、校内を彷徨って
いた。
この辺なんだけど、と当たりをつけた場所にいた男子に場所を尋ねた。
「それなら、こっち」
と親切にも道案内してくれて
「文芸部は去年廃部寸前になって、漫研と合併した後は漫画を描いてるよ」
と教えてくれた。
去年の事を知ってるんだから、二年生なんだろう。そう思った。
結局、私は絵が不得意なので入部はあきらめた。ガッカリ。
その時の子が栗山くんで、同じクラスだと分からず、翌日に教室で声をかけられ
「なんで先輩が?…」
「酷いな、同じクラスだよ」
と笑いあった。
男の子と話すのが苦手な私も、栗山くんとなら普通に話せた。
けれど、友稀たちと仲良くなってからは、他の二人に遠慮してなのか、栗山くん
から話しかけてくることも無くなった。
「ホント、男子って嫌ね。きっと、イヤらしいこと想像しながら、私たちを見てる
のよ。それに、栗山くんって同時に何人もの子と付き合ってるって噂もあるし…」
男子からチヤホヤされているせいか、友稀は男子を見下す発言をする。
「文化祭になったら、男どもが浮かれて何するか分からないから、気を付けてね」
友稀の言葉に、「う、うん」となんとなく同意する私。
典子は無言で、私と友稀の遣り取りを見守っている。