日常 #7
私の隣の子は美影典子。
私の名前を、最初から正しく読んでくれた数少ない人の一人。
あれは入学式の日のことだった。
式のあとクラス分けがあり、各教室に分かれて名簿順に席についた。
机に銘々の名札が立っていたけど、同中の知り合いも居らず、見ず知らずの人に
声をかける勇気もなくて、緊張して座っていた。
そうしたら、
「心美さんて読むの? 素敵な名前ね」
と声をかけられた。
顔をあげると、清楚な日本美人が目の前に立っていた。
腰近くまである長い黒髪。京人形のような白い肌。
神秘的だ。
私は、ガタガタと音を立てて立ち上がり、その子の手を取って
「宜しくお願いします」
と挨拶した。
その慌てっぷりが可笑しかったのか、その子はクスリと笑った。
それが、典子との出会い。
整った顔立ちに、艶やかな長い黒髪。誰が見ても美人の部類に入る。
けれども、その顔に微笑みが宿ることは滅多になく、必要以上に口を開くことも
ない。
それを、酷薄、無愛想という人もいるけれど、それが彼女の個性だと私は思う。
彼女は、いつも左の腕に肌色のサポーターを巻いている。
子供の頃に負った火傷の痕を隠すためなのだと聞いた。それが、彼女の内向的な
性格を作っているのかもしれない。
典子は、休み時間には必ず教室の後ろの壁にもたれて本を読んでいた。
お昼休みも同じ場所でオニギリを食べる徹底振りで、壁際の花と呼ぶ人もいた。
私も読書好きで、一人で居ることが多かったので、入学式のこともあり、4月の
天気の良い日に声をかけて友達になった。
典子とは、それ以来の付き合い。