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アーディンという名前

『はぁー、はぁー……ここまでくれば大丈夫だろ』


 俺達は全力疾走していた。

 俺の息が切れているのは、フィーと押し問答をずっとしていたからだ。


『俺を装備しろ!』

「嫌ですわ、また語尾で死にたくなりますもの!」

『マジで死ぬよりいいだろうがっ!』

「そうです、お嬢様!!」


 さっき死にかけたシエルの表情は、鬼気迫るものがある。

 そのおかげか、段々とフィーの答えは弱気になっていった。


「……追いつかれたら、装備しますわ」

『それじゃ遅えよ。どつかれたら一撃で終わりだぞ?』

「私のやられっぷりは、ご覧になっていたでしょう!?」


 二対一でえんえんと、ネコ耳の必要性を説かれるフィーだった。


「あーーッ、もう!! 装備すればいいですわよね、装備すれば!!」


 やけくそ気味に叫ぶと、フィーは俺を頭に乗せた。

 やったぜ、返り咲いたぞ。俺!!


「……あ、お嬢様……」

「シエル、なんにゃ!?」


 ぎろり、とシエルを睨むフィーであった。

 でも語尾のせいだろう、ちょっとも怖くないぞ。

 むしろかわいい……釣り目でネコ耳、しかもおっぱいデカい。


「もう森が終わります……結界があるのでワーベアは追ってきません」

「にゃにいいいい!?」


 と言っている間に、俺たちは森を飛び出していた。

 星がぱぁっと、きらめている美しい夜だ。月は……真ん丸が三つもある!

 すげぇ、夜空がぎゅうぎゅうに窮屈な世界だった。


「やはりあれほど勢いがあっても、結界には近づいてこないようですね」

「私がネコ耳を装備した意味にゃ!?」

「かわいいですよ、お嬢様」


 そう言うと、シエルは俺ごとフィーの頭を撫でる。


「シエル、そういうのはいいにゃ……!」


 フィーは唸るように言うと走り続ける。シエルもそれに続いていく。

 俺たちは町外れというか、うらさびしい郊外にでていた。

 割と身なりがきれいな通りすがりが、ぱらぱらといる。


『……街か、これ?』

「そうにゃ……ああ、街に戻ってきちゃったにゃ」


 明らかにフィーのテンションは下がっていた。

 きっと、これからのネコ耳ライフを想像してしまったんだろう。


 道行く人には、当然じろじろ見られるだろう。

 買い物をしても食事をしても、語尾ににゃがつく。


 これが欲しいにゃ! おつりをくださいにゃ!


 なんとも締まらない。ただあざと可愛いだけの女の子だ。

 俺は結構好きだけどねッ!


「お嬢様、気落ちするのもわかりますが……早く宿に行きましょう。さすがに休まなくては」

「うにゃ……」

「あと盗まれるといけませんから、出来る限りトオノ様は身に着けていてくださいね」


 さらっと、俺を押し付けていくスタイル。

 シエルはやはり俺のことを高く評価しているらしい。


「ふぐぅ……にゃ……」


 フィーはくもぐった声を出していた。

 とことこと歩いていくと、段々と家が増え、人も増えていく。

 街灯らしきものがあるけれど、エネルギー源は魔力だろうか。


 地面もちゃんと石畳になっており、思ったよりも街並みはきれいだ。

 服もそれなりにカラフルだし、悲壮な顔つきの人もいない。


『そうだ、聞いていなかったんだが』

「何にゃ?」


 聞きたいことは決まっているのだが、う~ん。

 ストレートに聞くとうまくいかない気がする。


『なんか……人間にとってすごく悪い奴っていないか?』


 なんという質問だ。自分で呆れる。

 本当は魔王とかいないか? と聞きたかったのだが。

 しかし、どうも女神のメッセージにもそれらしいものはない。


 俺が異世界転生でネコ耳になったのは、まだ彼女たちには言っていない。

 迂闊なことを喋ると、マジで敬遠されかねない。

 女神? 女の邪神ならいますけど……もしかして、そいつに作られたんですか!?

 となったら最悪だ。廃棄間違いないなし、冒険終了!


「漠然とした質問だにゃ……」

「……モンスターの生みの親のことでしょうか?」


 おう、そうだ。モンスターがいたな。

 ワーベア以外にもいっぱい種類はいるんだろうが、アイツらってどういう生まれだ。


「人間とかなんとかって言ったにゃ。アレは違うと思うんにゃ」

「しかし、トオノ様がわざわざ言及されるほどです。きっと、すごく悪い存在のことを言ってるんだと思います」

「んー、まぁ悪いと言えば悪い……にゃ」

『いいから、聞かせてくれよ。そいつはなんていうんだ?』


 シエルは辺りはきょろきょろ見渡し、顔を俺に近づけてきた。

 ちょっと緊張した声だ。


「これから言う名前は、あまり吹聴しないでくださいね。一般人はあまり知りませんから」

『……俺の口は固いぞ』


 なにせ、喉も唇もないからねー!

 喋れねーよ、テレパシーだから、これ!


「創造と破壊を司る神がいます……モンスターを生み出した神が」


 ほうほう、なんか魔王っぽいな。

 神か魔王か、というのは些細な点に過ぎない。


「明滅の女神アーディン……それが、全ての元凶です」


 あ、ふーん、女神ね。女神……ふーん……。


 ピコーン!

 嫌なタイミングだぞ、オイ!?


『<女神の名前を知った>ので、女神様より預かったメッセージが開示されます』


 ぎゃあああああああッッ!!!

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