ちょろくないですか、シエルさん
『……そうなのか?』
「ええ、そもそも人間と同じように会話ができる装備品ということ自体、考えられないことです」
シエルはゆるゆると頭を振る。
俺も元人間だが、ネコ耳バンドが喋るとは確かに考えられないな。
「これほどの力を持つ装備も、聞いたことがありません。……それと、逆にトオノ様から魔力が感じられないのも、おかしいのです。普通なら、手に持つ前にわかるはずです」
『だから、ひょいと俺を頭に乗せたんだな』
シエルは小さく、頷いた。
「私たちも最低限の鑑定はできます。魔力があるものを軽々しく身につけたりはしません」
『俺は自分の力を隠ぺいしてるってことか』
「そうですね、それも神話レベルの装備品でしか聞いたことがありません」
俺がどういう存在なのか、二人は知らない。なんだろう、すげぇ不安になってきた。
あまりに貴重品だと、気軽に人に俺のことを話せないじゃないか。
うっかり漏らすと、そのまま強奪されたり、研究材料にされそうだ……。人間に戻る計画が破綻しちまう。
やはりこの二人にこのままついていくのが、最善らしい。
『俺も自分のことは、よくわからないんだ。一緒に調べていくしかないな』
「えっ!?」
『何日かかるかもわからんし、どこ行けばいいかもわからんが、気長にやるしかない』
「えっ、えっ!?」
『でも、二人に出会えて本当によかったよ! 運命に感謝だ!』
俺はとにかく勢いでまくし立てた。
シエルは戸惑っている。押しきらなければ! なんとしても俺を、頭に乗せ続けてもらわなければ!
「……私は、それでもいいのですが」
『マジで!?』
「なんなら、一夜を共にしてもいいかな~くらいには思っていますけれども」
『えっ!?』
「命の恩人ですから……私の体で良ければ、ですが」
こんなきれいな人と、一夜を共にだってええええ!?
でも俺は今、もこもこのネコ耳だった。いやらしいことは何もできない。
せいぜい寝返りをうつときに、邪魔くさいだけだ。悲しい。
『いざとなったら、俺を頭の上に乗せたまま添い寝してくれ』
「はぁ……それはまぁ、いいのですが」
しかし普段は、フィーの近くにいた方がいいだろう。最悪、俺の力をわからずに盗んでくる輩もいるかもしれない。
『俺のことは秘密にしておいてくれ、謎のネコ耳Tってことで』
「……お嬢様は納得されないと思います」
『俺の力があれば冒険はスムーズにいくだろ。にゃーぐらいは多目に見るように言ってくれ』
巧妙に外堀を埋めていく作戦だった。
シエルは俺に対して好意的だ。多分、語尾ににゃがつかないからだな。
フィーは明らかに嫌がっているが、なんとか丸めこもう。
と、ここまで結構シエルと長話していたことに、俺は気がついた。
『そういえば、フィー遅いな』
「ですね、それほど離れてはいないはず……」
『嫌な予感がしちまうんだぜ』
まさに俺がそういった瞬間、森の奥から轟音が響いた。
バキバキ! メリメリ!!
おいおい、木が倒れる音じゃねーか。
誰だよ、自然破壊をしてるのは。
「いぃぃぃぃやぁぁぁー!!」
フィーの声が、木々の間から聞こえてくる。やっぱりお前か!
シエルはすでに武器をとり、臨戦態勢だ。
「熊がぁぁ! 熊ですわーー!」
がっしゃがっしゃと鎧を鳴り響かせながら、フィーが近づいてくる。
「お嬢様、今いきます!」
「だめぇぇぇ! 逃げるんですわ!」
なんでだ? さっきと同じ要領で戦えばいいじゃねーか。
「いっぱい、いっぱい来てるんですわぁぁ!」
ファーの絶望した叫びと同じく、俺たちのいる倒木のところでも、聞きたくない音がした。
バキィ!
暗い闇の中から、ぼうっとワーベアの巨体が浮かび上がる。こちらを思いっきり睨みつけている。
『あ……』
「……ワーベアです」
『ねぇ、シエル一人で倒せるかな?』
「無理です、逃げましょう!」
「シエル、逃げますわよぉぉ!」
フィーも合流し、ダッシュで森を駆けはじめる。森の向こうから、木々の倒れる音がひっきりなしに響きわたる。
『おい、フィー! 早く俺を装備しろ!』
「いやぁぁぁぁ、また語尾ににゃがつくですわ! というか、どうしてトオノの声が聞こえるのでしょう!? 幻聴ですわ!」
おお、そういえばそうだ。俺はシエルの頭に乗っている。
フィーは別に俺に触ってはいないぞ。
ピコーン。あ、システムさんじゃねえか。
『一度、装備した人間とは触れなくても会話ができます』
フィーもシエルも俺を装備したから、外してても声は届くんだな。
こういうところは、微妙にこだわりを感じる。
シエルは走りながらネコ耳を頭から外すと、フィーにずいっと俺を差し出した。
「お願いします、お嬢様!」
「シエルまでっ!? 嫌ですわ!!」
後ろからくる破壊音、、唸り声からすると多分五匹くらいか。
一匹倒して、フィーがへろへろになったことを考えると……。
『逃げよう!! 全速力で!』
「そ、そうですわよ! 逃げるに限りますわ!」
そこで、俺は無慈悲にフィーに告げた。
『万が一のために、俺は頭に乗せておけ!』
シエルも無言で、俺をフィーの顔に押しつけたのだった。