シエルとの相性は?
心臓が跳ね上がる思いがしたが、フィーは気にするふうでもなく、森の奥へと向かっていった。
鼻歌交じりに、軽快に鎧と剣をがしゃがしゃさせながら離れていく。
残されたシエルの頭の上には、俺が鎮座していた。
シエルの髪からは安らかなイチゴ系の甘いにおいがする。うむ、人によって結構違うもんなんだな。
ピコーン。
あ、これはシステムメッセージだ。
『<誰かに捨てられそうになった>ので、女神様より預かったメッセージが開示されます』
オイイイイ!! 久しぶりに女神からのメッセージかと思ったら、なんだそりゃ。
完璧に俺をおちょっくってやがる。
『やほほーい、遠野っち元気してるー? 今、誰かにポイってされそうなったよね~』
遠野っちとか、親にも呼ばれたことがねえぞ。馴れ馴れし過ぎるだろ。
『そんな捨てられ属性の遠野っちに朗報! 一度装備した人ならちょっとだけ身体を自由にできる、闇の能力が解禁されちゃうよ!』
頼む、もっと事務的に説明してくれ。
感情を挟まず! 箇条書きでいいから!
『捨てられそうなその時、ふっと身体を操れば~なんと、捨てるはずのネコ耳が頭の上にある! 怪奇、恐怖、不可思議! それが女神の力なのだ~! あっ、でもえっちなことに使うには短すぎるからね☆』
あっ……そう。その能力、女神を殺すのに使えねえかな。
俺を装備させて、舌を噛むとか。
『メッセージは以上です』
終わりやがった。脱力せざるを得ない。
捨てられそうな時には、ありがたい能力なのだが。
それだけだ。また俺がこの世界でどうすべきかの情報が何もなかった。
「トオノ様……? 考え事ですか?」
どうやら、システムメッセージは俺にしか聞こえないらしい。
その方が都合がいいので、大助かりではある。
それよりも、違和感があった。
『語尾が普通だな、シエル』
「ええ、どうやら……ちゃんと頭に乗っていないのでしょうか」
シエルは手を頭にやり、俺の位置をにぎにぎと調整する。
フィーも雑に頭の上の乗せてただけなので、そんなことではないはずだ。
と、俺の頭の中にフィーの時と同じく、シエルのステータスが入ってくる。
こういう機能は親切なのに、なぜ肝心の転生目的があやふやなのか。
女神を心底問い詰めたい。
【名前】 シエル=パシウル
【レベル】 35
【種族】 人間
【性別】 女性
【年齢】 18歳
【クラス】 精霊使い
ふむふむ、レベルはフィーよりだいぶ上だな。年齢は大学生くらいか。
年下のフィーに仕える、抜群のプロポーションの魔法使いかよ。
正直、大好きです。
『シエルがあなたを装備しました。レベル差が大きい為、優先権はあなたに与えられます。あなたの同意がない限り、装備は解除されません』
ここも同じだ。シエルのレベルはフィーより一桁上だが、優先権は俺にあるらしい。
『【注意】シエルのクラスが勇者でないため、使用できるスキルに制限が発生します』
なぬっ、そんな設定だったのか。あ、だから語尾が変わらないんだな。
勇者が俺を装備すると語尾ににゃがつき、俺もスキルを使えるようになる。
勇者以外は語尾も変わらず、使えるスキルも少なくなる。そんなところか。
『どうやら俺とあんただと、相性がちょっと悪いようだな。フィーの時の方がいいみたいだ』
「ふむ、そういうものなのでしょうか……」
『クラスが合わなかったんだ、残念だな』
これは本音だ。俺をちゃんと装備できる人間が多いほどいいに決まってる。
「……クラスとはなんでしょうか。何かの目安でしょうか?」
『それは予想外だぞ……』
ステータスの項目は、知られていないのか。俺だけが知っている情報か。
すでに脳がない俺だが、即断する。ごまかそう。
本人の情報を知らない間に手に入れてるというのは、マズい。
『ま、まぁ、俺の力をどの程度引き出せるかの目安だ。うん』
「そうですか……お嬢様に恨まれそうですね」
にゃがつきまくればな、仕方ない。俺だって嫌だ。
『ところで聞きたかったんだが、俺みたいなやつを他に知ってるか?』
森の中を歩いている最中に、俺はあらましだけは聞いていた。
二人は国からの命令で古き勇者の装備を探しているということ。
この森にあるという伝説を頼りに、俺のところまできたこと。
ともあれすぐ売り飛ばされたり、悪用される心配はないのは救いだった。
「いえ……私も意識のある装備品の話は、おとぎ話でしか知りません。七大国家の主だった戦士や魔法使いは承知していますが、彼らでも所持している人はいないはずです」
俺と同じような転生者はそういない、ということか。似たような奴がホイホイいれば、解決策が見つかるかもしれないのに。ますます、人間に戻る可能性が遠ざかる。
『そうか……わかった。それともう一つ聞きたい。俺はその、勇者の装備なのか?』
俺をいまだにもふもふと触っていたシエルの手が止まる。
口に出した答えは、一句ごとにつっかえながらだった。
「多分、違います。……トオノ様はもっと古く、力ある存在だと思います」