虹の剣を構えて
俺はフィーの体を借りて戦い始めていた。
片手で剣を持ち風のように素早く、ワーベアを斬りつける。
ワーベアも反応するが、俺の方が遥かに速い。
あっという間に、ワーベアの腕を三回斬りつける。
『今の動きは、あなたが私の体を使っているのかしら!?』
フィーの声が頭の中でする。どうやらテレパシー的なもので会話できるらしい。
『不満かも知れねーけど、ちょっと使わせてもらうぜッ!』
『……いえ、不満は……でも、だめですわ』
どういうこっちゃ、俺が思った瞬間だった。
ワーベアは薙ぎ払うように腕を叩きつけてくる。
だが、俺には到底当たらない。反撃に、その太い腕を二回斬りつける。
これだけ斬撃をくりだした俺は、フィーの言葉の意味がやっとわかってきた。
『刃が通らねえな……』
すでに十回を超えて腕、足と斬っていたが、目立った傷はついていない。
ダメージを与えたのは、ジャンプで顔を斬りつけた時だけだ。
『ワーベアの体毛は鋼鉄の鎧以上ですわ。……どうやら、腕力は変わらないみたいですわね』
また顔に攻撃しようにも、体格差が大きすぎた。
ワーベアもたくみに顔を反らしてきて、隙がない。
なんかスキルはないのか!?
このままじゃ【神の舞】が終わっちまうぞ。
『スキルを使用中に、他のスキルは使用できません』
『聞いてねーぞ!?』
『全てのスキルはフィーの魔力を消費します。【神の舞】終了時に魔力はゼロになります』
『それも初耳だぜ!?』
『【神の舞】終了まであと十五秒』
つまりあと少しで力尽きるってことか!
どうする、決定打がない。
シエルを連れて逃げるか? いや、力は変わらないんだ。
抱えては逃げられない。
ワーベアの両腕を剣で弾きながら、俺は毒づいた。
クソッ、何か手はねーのか!?
『今の速さで、虹の剣が使えれば……』
あん? そういえば、今は剣をただ振るってるだけだ。
フィーの使える魔法とかは、使えないのか!?
その時だ、システムメッセージが来た。
『フィーとの相性値が一定値に達しました。フィーの技能を使用できるようになります』
瞬間、頭に閃きが走る。
フィーの技、いや、必殺技の情報が頭に焼きついてくる。
俺は両手で剣を持ち、思いっ切り、ワーベアの腕を打ち上げた。
絶え間なく襲ってきていた腕がわずかな間、宙に浮く。
そのまま、剣の柄を胸の前に持ってきて――俺は叫ぶッ!
『虹の剣!!』
魔力が腕を通り、剣へと伝わっていく。
それは七色の蒸気となって、剣から吹き上げはじめる!
燃えるような赤、覚めるような青、静かなる緑、混ぜあいの色。
身の丈ほどもある幻想的な、魔力の迸りだった。
『ど、どうしてそれを……!?』
フィーが驚愕するが、俺には驚いてる間はない。
技の名前だけでなく、性質も俺はもう掴んでいた。
チャンスは一瞬、だが十分過ぎる!!
「おらぁぁぁぁッッ!! ぶっ飛べーーー!!」
叫び、俺は虹の光を薙ぐように解き放つ。
「グ、グオオオオオオッ!!」
ワーベアも素早く守りに入る。 まずい、防がれる!?
そう思った一瞬、ワーベアの反応がびりっと止まった。
「痺れの鞭……!」
「ナイスだ、シエル!!」
それはシエルのサポートだった。
おかげで、虹の光は――ワーベアの上半身に直撃した!
『いっけっーーーーですわ!!』
「ガアアアアアアッ!!」
ダンジョンをつかのま七色の光が満たし、そして収束する。
「ガ………マル、カジリ……」
ワーベアは立っていたが、その体はこんがりと焼けていた。
ドオオオオオン!!
仰向けにそのまま倒れ、地響きをとどろかせた。
倒れたワーベアの体から、青い粒子が舞い上がり……まもなく全身が消えてなくなった。
不思議な光景だったが、ゲームではよくある演出だった。
さらに身体の中心があったところに、きらりと蒼い空のような宝石が残ったのだ。
なるほど、倒すとこういう風になるのか。
『【神の舞】、発動終了します』
「うわ……にゃん……!」
主導権がフィーに戻るが、彼女は危うく倒れそうになる。
だがなんとか剣を杖代わりにして、バランスを保った。
『さて、何とか終わったな』
危うく一戦目で美少女二人の死体を見る羽目になるところだった。
「あ、ありがとうございます……」
倒れたままだが、シエルは気丈にも御礼を言ってくる。
「……終わった、助かったにゃん……」
フィーの語尾も、元に戻っていたのだった。
俺はなんだか、それが無性に面白く感じてしまったのだった。