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望んでない、こんな異世界転生

異色の異世界転生モノです、お楽しみください!

 俺――遠野雄一(とおの ゆういち)は気づいたら、暗いダンジョンの中にいた。

 なんか多分、日本というところの高校生だった……気がする。


 そうだ、俺は死んだはずだった。残念でもないが、死因は思い出せない。

 きっと、あまりに突然だったんだろうな。


 俺はそこで、妙なことに気がついた。

 意識があることじゃない。完全に動けないのだった。

 俺は小さな台座に乗っているらしかったが、手足を動かそうと思っても動かない。いや、動くという手応えが全くない。


 それだけじゃない。声も出ない。何も、できない。

 いや、もっと恐ろしい。静かなダンジョンの中なのに、息を吸って吐く音もしない。

 俺は、呼吸もしていない!?


 どういうことだ。思い出せない過去よりも、今の状況の方が明らかに異常だった。

 俺はどうなった。どういうことだ。


 その時だった、頭の中でばばっとフラッシュみたいなのが光った。


『女神様よりメッセージがあります』


 なんだこれは。ああ、なるほど。いわゆる転生後のステータスみたいなもんか?

 とりあえず、確認しよう。それで少しは今の状況もわかるだろう。


『やほほーい、遠野君! びっくりしてるー? してるよねー?』


 おいいいい! のっけからなんだ、この軽すぎる文面は!?


『実は遠野君は類稀なパワーを持つソウル的なアレだったので、転生させちゃいました☆』


 もっとちゃんと説明しろや! ソウル的なアレって気になるだろうが!


『遠野君の生前の趣味嗜好を徹底的に調査した結果、転生先は遠野君の好きなものにしておきました☆(ゝω・)vキャピ』


 待てよおおおおお、勝手に人の人生覗き見るなよ! あと、その絵文字やめろやコラァァ! 人の転生かかってんぞ!


 そこで俺は、はたと気がついた。……俺の好きな、もの? もの、モノ……うん??


『メッセージは以上です』


 マジかあああああ!? 終わってんじゃねええええ!!

 俺は何に生まれ変わったのよ!? いや、それとこの世界で俺はどうするのよ!?

 全然、わかんねえええええ!!


『チュートリアルを完了しました。ステータス確認、スキル確認が可能になります』


 これで終わりなのかよ!? クソッ! なんだよ、あの女神はよお!

 しょうがねえ、どんどん自分で見て、確認していくしかねえ!!


『ステータスを開示します』


 【名前】 遠野 雄一

 【レベル】 999      


 おお、レベルは999だっ! 多分強いんじゃねーか、これ。

 女神は頭にきたが、苦労しないで済むような強さはくれたんだな!

 が、俺はやっぱり甘かった。あの女神はどうしようないクソ女神だった。

 ステータス画面には、まだ続きがあった。


 【種族】 ネコ耳バンド(呪われている)


 ふっざけんじゃねええええ!!


 俺は叫んだ。だが実際には、声は出なかった。ネコ耳だから!

 そう、ネコ耳なんだから! 声なんて、出るわけないよね。


 なんだよ、そりゃ。言われれば確かに、ネコ耳大好きだよ!

 その系統の本もいっぱい持ってたよ! でもよぉ、違うんだよ!


 ネコ耳がついた女の子が好きなんであって、ネコ耳単品で好きなわけじゃないの!

 わかる!? ましてネコ耳になりたいわけ、ねえだろうがっ! 殺すぞ!


 だが、俺がいくら心の中で罵倒し、殺意をたぎらせても、何の反応もない。

 当然だ、俺はダンジョンで一人きり。誰もいないし、しかも動けない。


 そ、そうだ! スキルだ、スキルを見よう! きっと、何かあるだろう。普通なら都合よく、人間になれるスキルがあるに違いない!


『スキルを開示します』


 【ネコ耳ビーム】 極大破壊魔法 使用するには装備者が必要です

 【神の舞】 目にもとまらぬ動きをさせる 使用するには装備者が必要です

 【神の言語】 あらゆる言語を理解し、相手に伝える 使用するには装備者が必要です


 ハアアアアア!? 俺はこの後も、スキルを確認し続けた。その全てに、『使用するには装備者が必要です』と書かれている……。


 ぶっ殺すぞ、てめー! おいこら、どうしろっつうんだよおおおお!!

 こんなの、レベルだけ高くても意味ねぇじゃねえか!


 話せない、動けないでこれからどうするんだ!?

 俺はスキルを確認しながら、絶叫した。何か、何かあってくれ……!


 俺はスキル欄の右側だけに注目して見ているが、その時、一瞬思考が止まった。

 これは、装備者が必要ですと書いてない。


 【不滅】 この装備は決して破壊されない


 待て、ちょっと待て。これはどういう意味だ?? 俺の背筋がきゅーんと凍りつく。

 まさか……俺は、死ぬことができないのか?

 もし、この世界が滅ぶとかして装備者がいなくなってりしたら、俺はどうなるんだ。

 何もできず、このネコ耳のまま? ずっとネコ耳?

 頭の中でぶつぶつと考えるだけの、ネコ耳?


 やめろよ、オイ、怖くなるだろうが。冗談だよな。冗談って言ってくれよ!

 だが、俺の中の嫌な予感はなくならない。

 あのクソ女神のことだ。俺をネコ耳にするような、ふざけた感性をしている。

 死ぬこともできない、孤独地獄くらい考えなしにやりかねなかった。


 そう、そして俺は正しかった。

 待てども待てども、誰も俺の所には現れなかった。



 光も、音もない。影も声もない。虚無の時間が過ぎ去っていく。

 俺はどれくらい経ったか、よくわからなくなった。


 正気を失うこともできず、ただ女神への怒りが蓄積されていく。

 どうして、俺がこんな目に。


 せっかく転生したのに。これじゃ、天罰も同然だった。

 許さない、許せない。


 絶対に俺は女神を許さない。

 狂いそうになるのに、気がつくと俺は変わらず台座の上にいる。


 暴れることも叫ぶこともできない。ただ、ダンジョンの一角を見つめる日々。

 そうだ、こんなのは間違ってる。


 俺は唐突に思い当たる。人間に戻ればいい。人間からネコ耳にさせられたのだ。

 逆が出来ても、不思議じゃない。

 ネコ耳だから、こんな理不尽な羽目になるのだ。


 そうだ、また人間に戻ればいい。

 俺は女神のおもちゃじゃない。何のためにこんな目に合うのかもわからない。


 俺の尊厳はクソ女神に奪われたんだ。

 人間なのに。だったのに。

 正さななくちゃいけない。元に戻さなくちゃいけない。


 そうだ――取り戻すんだ、俺の人生を!



 ◇



 どれほどの時間が経ったのだろうか。

 退屈しのぎの数かぞえが何十回目かの兆までいったところで、ダンジョンの俺のいる一室に人が入ってくる気配がした。石の壁だからか、よく音が反響する。


 ついに、ついに誰か来たのか!?

 初めてだ、こんな音がするのは!!


 光の球を浮かせながら、なんと二人が俺に近づいてきた。


 おおお!! 俺は思わず、歓声をあげてしまう。

 来たのはしかも、女の子だ!

 どれくらいぶりだろう、人の姿を見たのは!


 一人は腰まで流れる金髪さらさらの女の子だ。ちょっと目つきが生意気だが、めちゃくちゃ可愛い! 

 年は多分、俺と同じくらいかちょっと下だ。軽装鎧を着ているが、その上からでもスタイルが抜群にいいのがわかる。特に胸はけしからんくらいに大きい。


 彼女の一歩後ろから来るもう一人は、肩まで青髪の背の高い女性だ。ツンとした表情だが、ものすごく顔立ちがきれいだ。モデルも驚く造形美! 

 年は、俺より少し上だろうか。胸はあまり大きくないみたいだが、すらっとした長身が目を引く。


「ここに、本当にあるのかしら」


 髪をかき上げながら、金髪の女の子が言う。久しぶりの人の声に、俺は泣きそうだった。

 しかも高めで幼さがかなり残る声が、かなり俺好みだ。


「お嬢様、正直あまり期待しては……」

「それはそうですけれども……無駄足というのも癪ですわ。あら……あれは?」


 どうやら、俺に気付いたようだ。ゆっくりと二人が、俺の置かれている台座に近づいてくる。


「ふうむ、これはなにかしら?」

「これはネコ耳バンドというものでございます、お嬢様」


 くそ、やっぱり俺はネコ耳バンドだったか。またキレそうだが、今はそれどころじゃない。

 装備者だ、装備者! 逃がすわけにはいかない。しかも超可愛い女の子だ!


 女の子は、つんつんと俺を突っつく。手の甲を触られているような、微妙な感覚だ。


「これが例の勇者装備の一つかしら……」


 女の子が俺を両手で持ち、しげしげと眺める。

 くるくると回したり、片手で持ったりと好き放題だ。


「その可能性はありますかと、お嬢様」


 そうだ、俺は不本意だが女神に送り込まれたチート装備だぞ!

 着けてくれ、頼む! 俺を頭に着けてくれ。


「で、これはどうするのかしら?」

「こう、頭に着けるのです」


 蒼髪の女性が、両手を頭にやり、バンドを着ける仕草をする。

 いいぞ、この流れぇぇぇ!!


「ふ~ん……」


 しかし、女の子は右手で俺をぷらぷらと持ち上げたままだ。

 ヤバイ早くつけてくれええ!! 心臓に悪いわ!


「まぁ、物は試しといいますわ。えいっ」


 キタアアアアア!! 俺に腕があったら、十回はガッツポーズをした!

 女神は殺してやるが、運命はまだ俺を見捨ててはいなかった!


『やったああああああ!!』

「――!? この声はなんなのにゃん!?」

「にゃん……?」

『あはははははーーーー!! ついにやったぞおおおお!!』


 俺は盛大に叫んだ。これまでの鬱憤全てを大爆発させた。

 そして、喜びの中で、俺は気がついた。


「頭の中で、大声がするのにゃん!!」


 金髪の女の子の、語尾がにゃんとなっていることを。

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