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廃遊園地のウワサ  作者: 菱沼あゆ


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9/13

すごい配色だな。ラブホテルか。

 




 観覧車を後回しにし、たどり着いた、やたらカラフルなドリームキャッスルを見上げ、羽田が言ってくる。


「すごい配色だな。

 ラブホテルか」


 色が褪せているところも、家族で車で山道を走るときによく見かける寂れたホテルっぽく見えなくもない、と飛鳥も思った。


「ほら、早く、スタンプ探せよ」


 此処には特に興味がないらしく、羽田が言ってくる。


 だが、

「ないぞ」

と周囲をライトで照らした由真が言ってきた。


 どうやら、スタンプが見当たらないようだった。


「置き忘れたのかしら?」


「まあ、島田たちだからな」

と由真は言うが、何故か開いている表門の奥の大きな木の扉が気になった。


「どうした、飛鳥。

 入る気か」

と羽田が訊いてくる。


「もしかして、中かも」


「危ないぞ、崩落してくるかもしれない」

と由真は言うが、島田たちなら、そういうことを考えずに、中に置いていそうだとも思う。


 その可能性は由真も考えてみたようだが。


「肝試しに命かける必要はないだろ?」

と言って、さっさと行こうとする。


「みんなはどうしたのかな?」

とさっき行ってしまったまゆたちに、本当はいけないのかもしれないが、スマホで連絡を取ろうとした。


 だが、雑音ばかりで、何故か繋がらない。


「電波、入らないのかしら」


「そんなことないだろ?」

と羽田が後ろを振り返り、指差した。


「携帯基地局、この近くだろ」


 黒い山の上の方にそういえば、それらしき影が見えている。


「そういえば、花火、まだ上がらないのかな」

と飛鳥はスマホで時間を確認したが、出発してから、まだ、五分しか経っていない。


 そんな莫迦な……。


 スマホがおかしくなっているのか。


 この空間がおかしいのか。


 闇の中で明るいその画面を覗き込んでいると、羽田が言う。


「俺が居るから、電波がおかしくなってるんだったりして」


「羽田さんが居るくらいで、磁場が狂うのなら、いつも狂ってますよ」

と言ったが、羽田は、


「いや、実は俺がいつもお前についているというのは思い込みで、俺は今日、此処に来たときに、初めてお前に付いて、そう思い込ませたのかもしれないぞ」

と言い、ふふふふ、と笑ってみせた。


 だが、由真は、扉の中をライトで照らしながら、

「羽田さんはいつも、飛鳥にひっついてるじゃないですか。

 邪魔なくらいに」

と言う。


 羽田は、何故か、すまんな、と笑って、由真に謝っていた。


 そこで、由真は振り向き、飛鳥に言ってくる。


「お前はそこで待ってろ。

 気になるのなら、俺が中でスタンプを探してくるから」


「えっ? 危ないよっ」

と言うと、


「そうだ。

 だから、待ってろ」


 羽田さん、と由真は言い、よし来た、と羽田が笑って、飛鳥の腕をつかんだ。


 うっ、動けないっ。


「金縛りーっ!」

と飛鳥は叫んだが、羽田は、


「俺にそんな器用な真似ができるか。

 つかんでるだけだろ」

と言う。


 そうなのだ。

 羽田は此処へ来てかなり実体化している。


 本当に生きた男に腕をつかまれたように感じ、ぞくりと来た。


 羽田にではない。


 大人の男につかまれているその手の感触と、その……黒いスーツ。


 固まったまま、自分を見上げる飛鳥に、羽田が言ってきた。


「……思い出したか、飛鳥」






 羽田が足止めしている間、由真はライトで照らしながら、中に入っていった。


 スタンプは、入り口の扉の陰にあった。


 だが、すぐにライトを奥へ向け、先へと進む。


 ドリームキャッスルに関するウワサ。


『あるはずのない地下室があって、拷問部屋がある』


 由真のライトは地下への階段を映し出していた。


 下に下りると、なるほど、拷問部屋があり、そこでは、台の上に乗っている干からびた男が腹から上と下とに真っ二つにされていた。


 天井からは朽ちた縄がぶら下がっていて、床の上には千切れた縄のついた巨大な鎌がついていた。


 いろんな武器が壁にかけられている。


 なんに使うのか、牛が居るし、尖った木がゴツゴツと並ぶ板もあった。


 板は、江戸の拷問、『石抱責いしだきぜめ』に使うものだろう。


 この上に罪人を座らせ、膝に重い石を載せるのだ。


 由真はライトでぐるりと室内を照らし、とりとめがないな、と思う。


 適当に見た目怖そうなのを集めたんだろうな、と思いながら、上がろうとしたとき、背後で、


 ……トン、と音がした。


 それは、奥にある巨大な女性の人形の方から聞こえてくるようだった。


  それは、鉄の処女と呼ばれる拷問道具で、聖母マリアをイメージしているとも言われるこの箱の中には、長い針があり、この中に人を入れて、蓋を閉めるようになっている。


 鉄の処女をライトが照らしていると、また、


 ……トン、と中から音がした。


「また島田か?」

と由真は訊いてみる。


 まあ、入ってたら、死んでるけどな、と思いながら、


 ……トン、と再び、音だけがしたので、霊になっても騒がしそうな島田とは違うようだ、とその場を後にした。


 また違う女になにかして、閉じ込められたのかと思った。


 まあ、飛鳥にでも触ろうものなら、俺があいつを此処に閉じ込めるが、と思ったとき、足がなにかを踏んだ。


 身を屈め、それを取る。


 一応、スタンプを押して、外に出ると、飛鳥が何故か緊迫した顔で、羽田を見上げていた。


 なにか思い出したのだろうかな。


 今更だな、飛鳥、と思いながら、声をかけた。


「押してきたぞ、スタンプ」

と台紙を見せる。


 あと、三つ、枠はあるようだった。


 由真、と飛鳥がほっとしたように、自分を見上げる。


 その鼻先に、さっき拾ったものを突きつけた。


 自分の手には、この遊園地のチラシがあった。


「ドリームキャッスルの地下にはないはずの地下一階があり、拷問部屋になっている」


 此処のウワサを繰り返すと、飛鳥は、それがどうかしたのか、という目で自分を見る。


「そりゃ、なってるだろう。

 此処の地下一階は、三ヶ月で変わる、イベント会場だったからな」


 え、と飛鳥がドリームキャッスルを振り仰ぐ。


「此処の中がどうなっていたか、覚えているか?


 一階は絵本とか妖精とか魔女とか、そういうイメージの展示物が並んでいるが、二階はなんか怖い感じの仕掛けがあって。


 三階に至っては、ただの展望台で、自販機とかベンチとかあっただろ」


「二階……」


 そういえば、という顔を飛鳥はする。


「なんか天井から足が落ちてきてたりしてたね」


「あれ、脅かしてるつもりだったらしいぞ。

 なにがあったか、覚えてないだろ、意外と。


 地下一階で、最後にあったのは、世界の拷問展。

 そのまま、廃墟になったから、残ってるんだ。


 イベント的にあったものだから、こういうチラシには載ってるが、通常のパンフレットには載ってない。


 HPももう閉鎖しているし。


 廃墟になったあとで、此処に来た誰かが地下に拷問部屋があった、と騒いだことから、尾ひれがついて、地下なんてなかったはずなのに、と話が変わっていったんだ。


 ウワサなんて、そんなものだ。


 あったろ、地下」

と遠い記憶を思い出させるように飛鳥に言うと、彼女は苦笑いし、


「……ああ。

 あんまり面白いものやってなかったから、最初は行ってたけど、行かなくなって。


 素通りしてたかも」

と言ってきた。


「そんなもんだ。

 さあ、次に行くぞ」

と言うと、


「でも、大丈夫?

 危ないことなかったの?」

とドリームキャッスルを見上げ、飛鳥が訊いてくる。


「大丈夫だ。

 霊が一体、閉じ込められて居ただけだ」


「それ、出してあげなくていいの?」


「危険な霊かもしれんだろうが。

 羽田さんみたいに」

と言うと、羽田は笑う。


「違いない」


 そう言って、飛鳥から手を離した。


 そのまま、次のアトラクションへと進んだが、由真は歩幅を合わせ、羽田に並んで囁いた。


「……地上に上がってきて、羽田さんがまだ、飛鳥の腕をつかんでるのを見たとき、羽田さんを鉄の処女に閉じ込めようかと思いましたよ」


「いや、お前が捕まえてろと言ったんだろ……。

 相変わらず、恐ろしい奴だな」


 俺は霊より、お前が怖いよ。


 そう羽田は真顔で言ってきた。








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