厄介なお仕事
僕に任される"仕事"は、いつも能力的に適任なものだ。
だからここで拒否してしまうと上層部は別の手を捻り出す他ない。
つまり、ここで引き受けておくのが僕の居る"組織"の最善手なのだ。
別に拒否するわけもないのだが、それでも一応嫌そうな顔をしてみる。
厄介な仕事なんてやりたくないな〜という表情を読み取ったらしい支部長は
「残念、これは特A級なんだ。拒否は出来ないぞ」
と不敵に微笑んでいる。
「分かりました。具体的に聞かせてください」
どちらにしろ、僕はここで養ってもらっているわけで、拒否権はないようなものだ。
しかも今回は特A級。絶対、の仕事だ。
全身に少し緊張が走る。
僕の顔つきが真面目になったのを見て、彼は話し始めた。
「OK。それでは早速、今回の仕事内容なのだが、ずばり、護衛だ」
護衛なら、良くある仕事だ、ある特別な時に要人の周りで警戒を怠らないようにする。
それの一体何が厄介なんだろう?
疑問が顔に浮かんでいたのか、支部長はそれに答えるように躊躇いがちに口を開いた。
「お試しで住み込み1ヶ月間、問題がなければ、さらに長期間。何より、ある意味そこら辺の"要人"よりもよっぽど"要人"だと思うよ」
期間の異常なまでの長期さ、住み込みの条件、"要人"の特殊さ。
ヤバい。聞けば聞くほど謎が深まっていく。
「思ったより特殊で厄介ですね……それで、ドコから護れば良いんですか?」
やっぱり、相手を知る、というのは重要だ。
気をつけるポイントやドコまでやって良いかが変わってくる。
「厄介なことに、敵はARLOだ……」
ARLO——対暴徒化獣人機関。獣人に関して一定の支配力を持つ民間機関。表向きでは暴徒化した獣人の制圧&保護、獣人の安定化などを謳っているが、その裏では獣人への実験が絶えないとか、人造兵士研究をしているだとか、黒い噂も止まない。
ARLO所属の獣人は"治療"によって、そこらの力自慢を容易に上回る能力を得ている。
向こうが仕掛けてくる前に制圧出来れば良いが、生憎、普通の人間と獣人の区別は全くつかない。
尾てい骨が少し出っ張っているくらいしか外見的な違いはないのだ。
無論、そんな違いは服の上から確認出来るレベルではない。
何か先手を打つとなると、相手が「オレはARLOの獣人だ!」とでも叫ばない限り、出鼻をくじくことは出来ない。
ただ、ドコまでやって良いか、という意味ではこちらも全力を出しても大丈夫そうだし、組織もバカではないから、きっと僕ひとりで立ち回れるくらいの戦力しか居ないのだろう。
「ARLOってことは、やっぱり獣人ですか?戦力規模は?」
「私達の偵察班と諜報班に拠れば、相手はヒューマン1人、5ケタの獣人が1人って程度だ。相手はまだ様子見ってトコかな。まぁ君なら全くもって問題は無いだろう」
確かに、その程度なら万が一、急襲されても相手にもならないだろう。
「確かにそれなら…それで、着任はいつ頃ですか?」
「急で申し訳ないが、可能な限り迅速に、とのことだ。明日からでいけるか?」
着任も明日とか特殊すぎるだろ…と内心ツッコミつつ応える。
普通、遅くとも3日前には詳細説明があるのだ。
「諒解しました、すぐに荷造りします」
「"要人"の資料と仕事の詳細を送っておく。以上だ。部屋に戻っていいぞ」
「諒解しました、それではブラウン支部長、和泉真尋、失礼します」
決まりきった挨拶から礼の流れ、静かに扉を閉めるやり方、この流れは前担当クルーの厳しい指導により、クセとなってしまった動きだ。その人に拠れば、この動きが静かに、かつ素早く出来れば、尾行のクオリティが格段に上がるとのこと。
ストーカーの能力を高めるようなことも直属の上司の指導とあらば避けられない。
おかげで無意識のうちにストーカー能力を得てしまったのだが、実践したことは一度も無い。
部屋に戻ると、デスクトップPCを立ち上げ、メールをチェック。添付ファイルをDLし、印刷する。
すぐさま、隣のコピー機が紙を吐き出し始める。
印刷が終わるのを待ちつつ、出てくる紙面にざっと目を通す。
「なるほどな……」
この仕事が、絶対に成功させなければならない、特A級である理由がスッキリした。
今日もありがとうございます。
微能力要素でやっていきたいです