家と組織と仕事
"家"の建物まで帰って来ると、駐車場に自転車を停め、鍵をかける。
エントランスからさらに指紋と暗証番号で特殊なゲートを通過。エレベーターを使って、マンションのフロントにたどり着く。
「おかえり、マヒロ、トモエとは話せたかい?」
天井のスピーカーから支部長の声が聞こえる。
エントランスのゲート、及びマンションのフロントは支部長含め"組織"の上層部に監視されており、外出などは彼らに記録されている。
「ただいま、ブラウンさん。おかげさまで。今日も楽しかったですよ」
「1時間ほどか。また今日も謝ってきたのか?ん?」
分かっているとはいえ、外出時間まで管理されているのはちょっと気分は良くない。
「そうですよ。何か文句でも?」
「いいや、全く。あ、そうだ。後で管理人室に来てくれないか?ちょっと話があるんだ」
「分かりました、30分後に行きますね」
この建物は、3,4,5階がマンション、1,2階と6,7階と地下が"組織"のオフィスとなっている。
"組織"ではある一定以上の地位になると、ここが"家"になるという恐ろしいホワイト企業だ。
僕は"組織"にとっては特別枠のようなもので、ここに住んでいる。
ただ、部屋数は常に余っており、僕が住む3階も、合計6、いや今では5人しか住んでいない。
だがここは、僕のような身寄りのない人間には良物件過ぎる。
家賃は安く、サポートもしっかりしており、1LDKで部屋も広く、ベランダ、バス、トイレが完備されている。防音や耐震性にもしっかり気を遣っているというのだから、"外出管理"と"健康診断"ぐらい目をつぶれる。
僕のような特殊な存在がこの2つをパスするだけで良い部屋が与えられ、少し"お仕事"をすればお小遣いも貰えるのだから有難い環境だ。
部屋に着き、ダッフルのポケットに入れた鍵を取り出し、もう染み付いた感覚で扉を開けた。
とりあえずダッフルを脱ぎ、耳当て帽子と一緒にハンガーにかけ、フックに引っ掛ける。
まだ支部長との約束まで時間がある。
質素な僕の部屋では備え付けの液晶テレビ、デスクトップPCくらいしか暇を潰せない。
今はどちらも気分じゃない。そのまま、ぼふっとベットに仰向けに転がった。
目を閉じて20分ほど体を休ませ、起き上がる。
大の字になって目を閉じれば、ある程度疲れを癒すことができる。
20分ほど続ければ、2時間ほど眠ったのと同じ効果が得られるらしいが、所詮はネットの拾い物だ、真偽は定かじゃない。もちろん、本当に眠いときに実行すれば、深い眠りへと誘われる。
それでも、普段酷使している視覚を休めることができるのは大きいだろう。
約束した時間に、僕は管理人室にのこのこやって来た。
3度、ノックをする。
「和泉真尋、参りました」
「どうぞ、入りなさい」
管理人室は僕の部屋とは対照的に雑然としていた。
というより物が多いだけかもしれない。
モニターが3つ付いたデスクトップPC。PCと接続されたマイクと色々なスイッチ。支部長のチェアーとその話し相手の丸椅子。地図や資料などのファイルが詰め込まれた本棚。少し小さめの家庭用冷蔵庫。コーヒーメーカーが置かれたキッチン。奥にある謎のドア。
「住んでもないのに物が多い部屋ですよね、ここ」
丸椅子に腰かけながら呟く。
「私は時々ここで寝るときもあるぞ、アハハハ!」
そう言って目の前の支部長、ロバート・ブラウンは大きく口を開けて笑った。ブラックかよ。
彼の仕事量から察するに、奥のドアの向こうにはもっとたくさんの資料や機密があることだろう。
「それで、"職業:学生"の僕に何か御用ですか?」
呼ばれた理由は、どうせ"仕事"の話だろう。そうあたりをつけた僕は軽く嫌味を言ってみる。
「ご明察。ただ、今回の"仕事"はちょっと厄介なんだ。聞いてくれるか?」
僕の嫌味も軽く躱し、彼はそう尋ねた。
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