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ハワイ攻略-下

 十月四日、午前七時、機動部隊を再び爆撃したB17からの報告を受けたニミッツは、愕然とした。日本軍の空母が一隻も失われること無く、ハワイに向かって来ているとの報告であったからだ。

 それも一瞬の事で、直ぐにハッとした。


「ア……アレが来るぞ!」

 その場にいた全員がニミッツの云う『アレ』が何を指すのか分かっていた。飛行爆弾『黄鷲』である。


「今、日本軍は何処にいる⁉︎」

「ハワイ南方、三五○浬と思われます」

 ニミッツの言葉に、米海軍ハワイ航空司令長官ベリンジャーが答えた。


「よし、二時間後にハワイにある全機体を離陸させる」

「ぜ、全機ですか⁉︎」

「うむ、早急に頼む」

 驚愕するベリンジャーに、ニミッツはアッサリと答えた。


 八時、司令長官室の電話が鳴った。

「何事だ?」

 嫌な予感を感じつつも、ニミッツはあくまでも冷静に聞くよう心掛けた。


「はい、対空電探が北方に新たな敵影を写しました!」

 電話をかけて来た通信兵の声は、ニミッツと対照的に焦りが滲み出ていた。


「後どの位で着く?」

「十分程との事です」

「よし、今直ぐ全飛行場に連絡を入れろ!全機至急発進せよ!だ」

「分かりました!」


 通話を終えたニミッツは、苦虫を噛み潰した様な顔をした。

「してやられた……!」



 オアフ島を最初に襲った『黄鷲』は、ハワイ北方にいた、七隻の『獏鸚』から放たれた。

 そして『獏鸚』の後方には、三隻の空母の姿があった。『隼鷹』『飛鷹』『龍驤』である。

 そう、これらの艦はミッドウェイから出撃したものであった。


 機動部隊が南方から攻撃を仕掛けたのは、囮であった。いや、それ以前のジョンストン島爆撃から陽動作戦は始まっていた。

 帝国海軍はこれ迄機動部隊と『獏鸚』を常に一緒に使ってきた。これも米軍の目を逸らすコトに役立っていた。


 帝国海軍は、米軍の目をハワイ南方に向けさせ、北方からの『獏鸚』による一撃を喰らわすコトに成功したのだった。



 北から七隻、南から十隻の『獏鸚』による一○○機にも及ぶ『黄鷲』の爆撃に晒された飛行場は壊滅した。

 辛うじて発進に成功していた戦闘機も零戦の大群によって全機撃墜された。


 作戦は成功したと云うのに、小沢中将の顔は晴れなかった。

「戦艦は何処に行ったんだ……」

 真珠湾に一隻も戦艦がいない事が、攻撃機によって知らされていた。


 小沢中将の疑問の答えは、ラハイナ泊地にあった。



 ペンシルベニア級戦艦『ペンシルベニア』


 ニューメキシコ級戦艦『ニューメキシコ』『アイダホ』『ミシシッピ』


 コロラド級戦艦『コロラド』『メリーランド』


 ノースカロライナ級戦艦『ノースカロライナ』『ワシントン』


 サウスダコタ級戦艦『サウスダコタ』『インディアナ』


 ラハイナ泊地にはこれら、十隻の戦艦が肩を並べていた。


 戦艦群は現在、ウィリアム・パイ中将の指揮下に置かれていた。


「もう夕暮れか……」

 パイは『サウスダコタ』艦上でそう呟いた。


 パイの元にこれ迄入ってきた情報は、最悪なものであった。ハルゼー率いる空母舞台の敗退、オアフ島飛行場の壊滅。

 状況は明らかに米軍が劣勢である。

 併しこの作戦が成功すれば、それがひっくり返る可能性がある。


 パイは戦艦で空母を叩こうとしていた。

 そうは云っても普通に考えれば無理である。


 ノースカロライナ級、サウスダコタ級戦艦はそれ迄の米戦艦とは違い、二七節の速度が出せる高速戦艦である。だが、機動部隊の空母は全て三○節は出せる。

 その為、安易に近づけば逃げられてしまう。


 そこでパイは夜間に戦闘を行うことにした。B17に日没直前迄偵察させ、機動部隊の位置を常時確認する。夜間には、潜水艦に監視の役割を持ってもらう。


 その上で、戦艦戦隊から二七節以上出せる、ノースカロライナ級戦艦とサウスダコタ級戦艦の四隻を分離させ、二七節で空母の予想位置に向かう。

 夜間に航空機を発艦させることは、まず無理である。米戦艦には対艦電探が有るので、夜間砲撃を行っても命中率に問題は無い。


 そして、敵空母が混乱した時に、遅れて鈍足戦艦が砲撃を加える。


 成功率は低いものの、最早ハワイ及び米本土を守る為にはこれしか無い!パイはこの作戦を行う決意を固めた。


 宵闇が訪れた頃、ひっそりと戦艦戦隊は出撃を開始した。


 偵察機の情報が正しければ、機動部隊はオアフ島南一五○浬にいるはずである。それなら日の上がらぬ内に接触出来る。



 小沢中将の元に敵艦発見の報告が入ったのは、二三時|(現地時間四時)の時であった。機動部隊の東方を警戒していた、第八戦隊が見つけたものであった。


 『利根』が電文を発信した直後、敵艦が発砲して来た。

「この水柱……戦艦か⁉︎」

 第八戦隊司令長官原忠一少将は眉を顰めた。


 だが、原少将は咄嗟に思い返した。敵が戦艦で有ることは確かに重要だ。直ぐにでも機動部隊へと知らせなければいけ無い。だが、それよりも、夜間でどうしてここ迄至近弾を撃てる⁉︎


 そして、敵艦に二度目の発射炎が上がり、『筑摩』に命中した。

 重巡が戦艦の砲撃に耐えられる分けも無く、『筑摩』は炎に覆われ、速度が大幅に低下した。


「艦隊針路二四○度‼︎近くにいる駆逐艦に信号『我ニ続ケ』」

 原少将は西南西から向かってくる敵艦に向け、反攻戦を挑もうとした。

 この時、第八戦隊の周囲には、陽炎型駆逐艦『浦風』『磯風』『谷風』『浜風』で構成されている第一七駆逐隊がいた。


「右雷戦用意!距離四○○○で発射!」

「砲戦用意!目標敵戦艦!」

 原少将が矢継ぎ早に命令を出す。

 『利根』と一七駆はジグザグに航行し、敵の砲弾を右に左にと掻い潜りながら進んで行く。

「距離四○○○!」

「魚雷発射!」

 水雷参謀の声と共に、魚雷が海に投げ込まれる。その間も、主砲をドンドン斉射していたので、米軍はついぞそれを知ることは無かった。

 だが、次の瞬間『利根』が後方から照らし出された。



「逃げたか……」

 パイは『サウスダコタ』艦橋でそう呟いた。パイらに雷撃を仕掛けようとしていた、日本軍の水雷戦隊であろう艦隊は、殿にいた駆逐艦が沈められた後直ぐに取り舵を取って逃げ出した。


 併し、今ので敵空母には気付かれた可能性が有る。果たしてこの作戦は、成功するのか?パイはふとそう思ったが、最早引き返せる状況では無い。


「針路このまま!夜の内に空母を沈めるぞ!」

 パイの掛け声に返事は返ってこなかった。返って来たのは衝撃と悲鳴であった。


「な……」

 パイはその先が言葉に出なかった。


「『インディアナ』被雷!」

 見張り員から新たな報告が上がって来た。


「『インディアナ』まで……見張り員は何をしていた!」

 パイはそう怒鳴ったが、仕方の無いことである。帝国海軍の誇る酸素魚雷は、無航跡であるからだ。


「被害状況は?」

「『サウスダコタ』は右舷に一発被雷し、中破程度の損害です。但し、速力において被害が甚大で、一六節迄しか出せません。『インディアナ』ですが……三発被雷し、行き脚止まりました」

「何⁉︎」

 パイは自分の耳が信じられなかった。確かに魚雷は恐ろしい兵器だが、一発でそこ迄の被害が有るものだろうか?


「新式魚雷か……ジャップめ、やってくれたな」

 パイは一つ大きく息を吐き、一つの決断を下した。


「『ノースカロライナ』『ワシントン』を先行させよ。時間は一刻を争う。こんな所でもたついている分けにはいかぬ」


 パイの命令を受け、『ノースカロライナ』『ワシントン』の二隻は再び二七節で進み始めた。だが、既に米戦艦がいるとの情報は機動部隊に知れ渡っていた。


 機動部隊は三○節で、一○度ずつの角度を付け之字運動をしながら東北東へ向け進み出した。


 一時、夜明けになるのを待たずに、甲板上に並べられていた索敵機が、一斉に発艦する。

 一時半、索敵機は戦艦二隻を見つけ、機動部隊に電文を打った。

 電文を受け取った小沢中将は、直ぐ様攻撃部隊を発艦させた。


 防空の為の戦闘機がいない艦は、格好の標的である。艦爆と艦攻が次々と襲いかかり、『ノースカロライナ』と、『ワシントン』を撃沈した。



 三時、機動部隊は改めて索敵機を飛ばし、四時五分に戦艦七隻からなる大部隊を発見した。


 これは第二撃を仕掛ける予定であった米戦艦戦隊に『サウスダコタ』が加わったものである。

 これには護衛空母が二隻付いており、F4Fワイルドキャットが三○機直掩隊として艦隊上空を守っていた。

 だが、このワイルドキャットの搭乗員は何とか実戦に投入出来る程度の練度しか無く、強者揃いの零戦隊の敵では無かった。


 結局第二派、三派攻撃で米戦艦は七隻共沈み、ここに米太平洋艦隊は壊滅し、帝国軍はハワイ攻略に王手を打ったのであった。

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