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ハワイ攻略-中

 ハルゼーはB17から受け取った電文で、機動部隊の所在地を知ると、迅速に動いた。彼は即座に、自らの指揮するTF16に攻撃命令を出した。

 TF16は現在機動部隊の北北東一七○浬にいるが、機動部隊はそのことを知らない。然も充分に米軍機の攻撃半径内である。


 ハルゼーが攻撃隊を出す際に云った言葉は「ジャップ共を血祭りに上げろ!」であった。

 かくして『本命』の米空母による攻撃が始まったのである。


 十月四日、三時二つの報告が『赤城』艦橋に上がってきた。

「電探に感有り!方位零度!」

「偵察機より入電!『方位三三○度!一五○(かいり)空母二隻発見!』」

 電探が攻撃隊を発見したのと、偵察に出した九七艦攻が電文を送ってきたのは殆ど同時であった。


 小沢中将は本日中に米空母は出てくる!と見ていたので、米空母を発見したのは予想通りであった。だが、さすがにいきなり攻撃を受けるとは思っていなかった。

「そうか……先程の重爆が報告を送っていたのか」

 そう気付くも後の祭り。機動部隊は完全に先手を取られたのであった。


 空母決戦は如何に先手を取るかが重要になってくる。空母は艦載機と云う絶大な矛を持っているが、その反面防御能力は脆く、打たれ弱い。これはこの時代の空母の殆ど全てに共通する。

 故に理想的なのは敵が艦載機を発艦させる前に攻撃を加え、離発着不可能にする事だ。


 ハルゼーはB17と連携することで見事に先手を打つことが出来た。夜間に進軍することで、米軍機の日本軍機に比べて航続距離の劣る点も克服した。

 オマケに機動部隊の空母内には、爆装済みの機体が格納庫にずらりと並んでいる。当に最悪の状況で攻撃を受けた。


 歴戦の猛者揃いの機動部隊と雖も、米攻撃隊が艦隊上空に到達する迄に第一派攻撃隊を出し切る事は不可能である。

 だが、既に直掩隊の零戦は空に上がっており、迎撃体制は整っていた。




 機動部隊へと向かい進軍するSBDドーントレス爆撃機に、上空から火線が突き刺さった。

 米軍は、直掩隊が迎撃するのはもう少し先のことと思っていたので、完全に不意を突かれた。これは帝国海軍が電探を装備していたからであるが、米軍はそんなことは知らない。


 即座に護衛のF4Fワイルドキャットが迎え打ったが、零戦はするりと躱しドーントレスに銃弾を集中させた。米戦闘機乗員が対零戦用に編み出したサッチウィーブ戦法は、零戦が空戦に乗らないと発揮されない。

 そこでドーントレスを囮にすることで後方から攻撃する戦法に切り替えた。

 が、時すでに遅し。零戦を二機撃墜するも、ドーントレスは殆ど撃墜されており、僅かながらに生き残った機体も爆弾を捨て、逃げ出していた。


 零戦直掩隊は逃げ出そうとする敵機を全て撃墜してやろう、と追いかけようとしたが、直ぐに機首を翻した。

『赤城』から『方位二七○度に敵影発見!』と電文が送られてきたのである。



 ハルゼーは、TF16の兵力が機動部隊より劣っていることを自覚していた。

 その為、敢えて兵力集中の法に逆らい、北方から爆撃機、東方から雷撃機を進入させたのである。これはミッドウェイ海戦で、雷撃機より遅れて攻撃した爆撃機が、『加賀』を撃沈した戦果を受けてのことであった。


 何方か一方が先に進入すれば、それが囮となり、もう一方の攻撃が成功し易くなる。同時攻撃となれば、迎撃を二分出来る。


 併し、ハルゼーは重大なことを知らなかった。機動部隊が電探を装備していた事である。

 これが、ハルゼーの作戦を大きく狂わせた。



 東方より迫りくる敵機を電探により見つけた『赤城』は、直ちに直掩隊に電文を発信。これを受け取った零戦直掩隊は即座に艦隊上空に舞い戻った。


 結果、米第一派攻撃隊は、機動部隊に指一本触れられずに、おめおめと逃げ帰る他無かったのである。

 米空母の攻撃を阻止したのを確認するや否や、小沢中将は送り狼式に、第一派攻撃隊に出撃命令を出した。


 第一派攻撃隊を送り出した直後、米第二派攻撃隊を電探が捉えた。

「電探に感あり!方位三三○度!」

 機動部隊は先程の迎撃戦で撃墜されたり、銃弾を受け、不具合が生じた機体、合計六機を入れ替え、万全の体制で敵攻撃隊を迎え打った。


 米第一派攻撃隊は北方、東方と二手に分かれて攻撃を仕掛けて来ていたが、第二派攻撃隊は北北東より一直線に進入して来た。


 零戦は守勢の利を活かして、上空から一撃を加えた。さらに、一旦下に抜けた後に機首を翻して、下方からも一撃を加えた。

 一矢乱れぬ一撃離脱攻撃に米軍は不意を突かれ、ドーントレスとアヴェンジャーの半数を失ってしまう。

 米軍機は零戦の勢いに飲み込まれてしまった。爆弾を海に投げ捨て逃げ帰る機体もいる始末である。機動部隊上空にたどり着けたのはドーントレス一二機アヴェンジャー雷撃機七機であった。


 それらは『赤城』に狙いを絞り、爆雷同時攻撃を実施。だが、おっかなびっくりの攻撃となり、『赤城』は悠々と全てを躱し切った。

 それもしょうがないコトであった。米国の優秀な搭乗員は、激戦に次ぐ激戦でその数を大きく減らしていたのだから。


 四時、淵田中佐率いる第一派攻撃隊は、敵空母上空に到達した。途中ワイルドキャットの迎撃に会い、六機を失ったが迎撃機は護衛の零戦が返り討ちに会わせた。


 第一派攻撃隊が仕掛けたのは、見事な爆雷同時攻撃である。熟練揃いの攻撃隊による猛攻を米空母は躱しきれ無かった。

 『ワスプ』は爆弾二発、魚雷を左舷に四発右舷に一発受け、轟沈。TF16が旗艦『サラトガ』も爆弾、魚雷を各一発ずつ受け、小破程度の損害を被った。



 ハルゼーは空母一隻を失っても尚、戦意に陰り無く、第一派攻撃隊の収容及び再攻撃を画策していた。『サラトガ』も半時間後には離発着可能になる見込みである。

 そこでハルゼーは、第一派攻撃隊の護衛機を、直掩隊に編入させた。圧倒的な迎撃力を持って日本軍の第二派攻撃隊を防ぐつもりである。新たな攻撃隊の護衛機には第二派攻撃隊の護衛機を再利用するつもりであった。


 だが、第二派攻撃隊を収容している間に、帝国海軍の第二派攻撃隊が米空母に到達した。

 頼みの綱の直掩隊に、収容が間に合わなかった米第二派攻撃隊の護衛機も使ったが、如何せん疲れが酷かった。

 空戦中での集中力の切れは死を意味するも同じである。ふとしたミスが思わぬ窮地に追い込むからだ。

 ワイルドキャットはサッチウィーブ戦法も上手く機能せず、零戦に完全に手玉に取られていた。


 『サラトガ』は瞬く間にスクラップにされ、海の底へと沈んでいった。ハルゼーも艦と運命を共にした。

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