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ハワイ攻略-上

 山本大将はミッドウェイ海戦で、余りにも米軍が早く動いていたのを見て、帝国海軍の暗号が看破されているのではあるまいか?との疑念を抱いていた。


 軍令部はそれを受け、帝国海軍は八月にガタルカナル攻略の意思を持った偽造電文を送った。ガタルカナル島は、七月に米軍の無血上陸により占領されていた。その後米軍はガタルカナルを対日反攻の拠点とすべく、七月の内に飛行場を完成さしていた。すると、ガタルカナルの航空兵力が、僅かの間に大幅に増強された。

 セイロン島攻略作戦に、米軍が関与して来なかったのは、このおかげとも云える。米軍は帝国海軍の侵攻を恐れてガタルカナルから兵力を動かせ無かったからである。


 軍令部も、暗号が見破られていることを認め、新たな暗号を八月後半より使用した。



 そして九月二八日、七隻の『獏鸚』がミッドウェイに入港した。現在帝国海軍では一七隻の『獏鸚』が竣工しているが、その三分の一がミッドウェイに入港した形と成る。ミッドウェイには現在航空母艦『隼鷹』『隼鷹』『龍驤』が居た。


 小沢中将率いる機動部隊はミッドウェイに入港せず、ブラウン環礁からハワイ南方へ出撃する手筈になっていた。併しそれにはジョンストン島が障害となっていた。ハワイを本丸とすると、ミッドウェイは外堀、ジョンストンは内堀の様なものである。


 其処で小沢中将は九月二三日、『赤城』『蒼龍』『飛龍』とその護衛艦已を動かし、ジョンストンを空爆した。

 攻撃は二派に渡り、飛行場已ならず生活空間迄も爆撃対象になった。ジョンストンは軍事島であるので、民間人は居ない。その為誤爆を恐れずに満遍なく爆撃を実行したのだった。

 てっきり日本はハワイ其の物を狙ってくると思っていた米軍には寝耳に水であった。

 その為真珠湾より出港した米空母『ワスプ』『サラトガ』を擁するTF16がジョンストンに到着した時には既に機動部隊は引き上げており、後には破壊された島だけが残っていた。


 首尾よくジョンストンを使い物にならなくした機動部隊であったが、米軍の基地設営能力を考慮すると、時間稼ぎは一・二週間が精一杯であった。その為、小沢中将はブラウン環礁に帰投したその日には、出港の準備を始め出した。


 そのことを米軍は見抜いており、次こそはハワイを狙うに違いない!と、覚悟を決めた。


 十月三日、日没直前、オアフ島南方を偵察していたB17から入った電文が太平洋艦隊司令長官ニミッツ大将の元へと届けられた。

「『オアフ島より針度一六○、七○○浬にて空母二隻発見す』か……」

 ニミッツは険しい表情を浮かべていた。遂に来るべきものが来たのである。


 このハワイが陥落すれば、日本は必ず米本土に攻撃を加えるに違いない!ハワイ攻略を阻止する迄は行かぬとも、本土爆撃が不可能になる程敵空母に損害を与えれば此方の勝ちだ!ニミッツはあくまでそう割り切っていた。

 彼は冷静に戦局を見ることの出来る人物でもあった。


 日本軍が大きく針路を変更するとは考えにくい。なので、何処にいるかは大方予想が付く。

 そこで、ニミッツは明日の夜明けを待たずして重爆撃機を発進させ、夜明けと共に敵空母を攻撃する案を作成した。


 これは大きな博打でもあった。日本軍が大幅に針路変更をしたり、夜中の内にB17と日本軍がすれ違ったりすれば忽ち失敗する。

 併しそれでもやらなければならなかった。敵の自爆兵器は時速三二○(ノット)は出せる。米海軍の主力戦闘機であるF4Fワイルドキャットは二七八節迄しか出せず、可也の劣速となる。

 それを防ぐ為、どうしてもハワイから遠い内に出来る限りの損害を与える必要があった。


 更に、ニミッツは新生TF16に出撃命令を出した。新たなTF16の司令長官は猛牛と名高いウィリアム・ハルゼー中将である。


 ハルゼーは皮膚病を患い、ヴァージニア州の病院に入院していたが、八月に退院していた。現在のハルゼーは入院していたことなど感じさせない程、闘志に満ち溢れていた。

 見ていろレイ、そして死んでいった同胞共よ!俺が今仇を討ってやるぞ‼︎

 ハルゼーはそう決意し、真珠湾を出たのだった。


 だが、ここでニミッツは一つ思い違いをしていた。『黄鷲』が『獏鸚』から射出されるのは読者諸氏は既に存じているが、ニミッツは空母から放たれるものと思っていた。

 その為ニミッツは第一攻撃目標を空母に据えていたのである。


 十月四日一時三二分、機動部隊は大わらわと成っていた。何せ日の出と同時に直掩隊の発艦準備をしていたら、『赤城』の電探(レーダー)に敵影が写ったのだ。帝国海軍ではミッドウェイでの戦訓から、『赤城』『翔鶴』に対空電探を付けていた。

 小沢中将は急いで発艦準備を進める様に下令すると、見張り員に北方の空を見張る様に云った。すると然程時間を掛けずに報告が上がってきた。


「方位三五○、敵大型機多数!」

「大型機⁉︎単発機で無くてか?」

「いえ、恐らく四発機です」

 小沢中将は敵空母から発進した攻撃機かと思ったが、どうやら違う様であった。

 そう、ニミッツが夜間に出撃さしたB17の編隊である。その総数何と二○機。


 高々度からの水平爆撃は、著しく命中率が低い。二階から目薬と云うが、これはその比では無い。的も大きいが、それ以上に高さが段違いである。

 オマケに爆弾も風の影響を受けているので、どの様な天才数学者でも、落下地点を予測することは不可能である。


 だが、慣れた者であれば、大体の落下地点の予想は付く。そこでニミッツはそういう人物を一番機に乗せ、その横及び後方にずらりと並んだB17で攻撃を加え様としたのである。

 つまりは面によって、数の暴力によって命中率の悪さを補おうと考えたのだった。下手な鉄砲数撃ちゃ当たると云った、実に米国らしい戦法である。


「取り舵一杯!針路零度!」

 各空母はB17が上空に来る迄に、三機ずつ計一五機の零戦を発艦させていた。だがどの機体もまだ高度が足らず、とても爆撃を阻止出来なかった。


 右舷に水柱が立った。戦艦の主砲が弾着したかの様に太い。高度があると云うことは、その分運動エネルギーを持っていることになる。

 これがもし空母にでも当たれば、艦を貫通し、一発で撃沈されることもあり得るかもしれない。小沢中将はその様な事は無いと思いつつも背筋が寒くなるのを抑えられなかった。


 幸いにして命中弾は無く、零戦はB17に波状攻撃をかけ、一機を撃墜し、二機に被害を与える戦果を上げた。

 B17が去るのを見届けた後、機動部隊は索敵を出した。


 米軍がまだ空母を持っている事は既に帝国海軍の知るところと成っていた。九月二三日、ミッドウェイより飛び立った二式大艇が、ジョンストンで空母二隻を発見していた。

 ジョンストン攻撃には、米空母を誘き出すと云う意味も有ったのだった。

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