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ミッドウェイ海戦-下

 友永大尉はミッドウェイに到着した途端呆気に取られた。飛行場はもはや攻撃の必要も無い程無惨に破壊されていたからだ。

 建物は瓦礫の山と化しており、飛行場も『黄鷲』が航空機に命中したらしく、燃え盛っている。

 敵戦闘機が十数機襲って来たが、零戦にあっさりと返り討ちにされた。友永大尉らはそれでも無事であった建物や、対空機銃を狙い爆撃を仕掛けていく。


 爆撃終了後、友永大尉は機動部隊に向け『第二攻撃必要無シ』と電文を打った。


「第二派攻撃を出して、ミッドウェイの破壊を完全にすべきだ」

 とは航空乙参謀、吉岡忠一少佐の意見である。源田中佐はそれに反論した。

「友永大尉の報告は信頼できる。ここは万一空母が現れた場合に備えて雷装のまま待機させるべきだ」


 もし換装時に敵航空機の攻撃を受けた場合大損害を被るというのが源田中佐の考えである。

 だが、吉岡少佐は敵空母など出てこぬと高を括っていた。それに空母が出てくるとしても、ハワイからミッドウェイ迄はどんなに急いでも一両日はかかる。その為、敵空母の到着は早くても明日になると思われた。それならば今徹底的に叩いておけばいざと云う時に邪魔をされなくて済む。


 結局の所、索敵の結果次第となった。敵空母が発見されなければミッドウェイへ爆撃を、発見出来れば空母を叩くこととなった。


 四時、敵艦発見の報告は無かった。ソロソロ水偵が索敵線上に到達する時刻であり、この時間に無いと云うことは敵空母は先ず出てこない。

 源田中佐は四時二十分迄粘ったが、結局敵空母は来ぬと観念し、陸用爆弾への換装を命令した。


 併し四時四五分、『利根』偵察機から『敵艦発見』の報告が上がった。源田はそらみろと、新たに魚雷に換装し直す様に命令した。

「いや、空母とは限らぬ。他の艦種ではあるまいか」

「いえ、我が方に空母が有るのは分かっているハズ。なら敵は空母を欠いた状態で攻撃を仕掛けてこようはずが無い」

 草鹿少将が疑問を呈したが、源田中佐はこれに的確に反論した。


 五時一五分には新たな換装が終わり、その二十分後には、整備兵の必死の苦労もあり、発進準備が整った。

 五時五○分、江草少佐率いる第二派攻撃隊が敵空母を叩かんと機動部隊上空から飛び去った。


 六時四○分には第二派攻撃隊は米空母を確認出来る位置にいた。

 おや、三隻もいるぞ。江草少佐は目を疑った。だが、紛れも無く現実である。

 直掩隊のワイルドキャットが江草少佐らに襲いかかろうとしたが、零戦二一型によって空戦に巻き上げられて行った。


 そのスキを突き、江草少佐は真っ先に敵空母に突っ込んで行った。江草少佐が雷撃を仕掛けたのは空母『エンタープライズ』である。

 右舷から突入してくる江草少佐機に向かって『エンタープライズ』は機銃を撃ちまくるが、弾丸は艦攻の上を素通りするだけである。


 艦攻が『エンタープライズ』の上空を通り抜けると、一拍遅れて『エンタープライズ』が大きく震えた。

 激しい振動からレイモンド・スプルーアンス少将が立ち直った時、艦体は明らかに右に傾いていた。

「被害はどうなっている」

 スプルーアンスはあくまでも冷静になるよう自分に言い聞かせ、参謀に問い質した。


「はっ。今報告が上がって来ました。どうやら右舷に魚雷が三発入った様です」

「それで、この艦は持ちそうか」

「今ダメコン(ダメージコントロール兵)が向かっています。が、連絡が来ないことにはどうも分かりません」


 『エンタープライズ』は右舷に傾き速力を損なっていた。勿論そこを逃す帝国海軍では無い。艦爆隊が急降下爆撃を仕掛けた。

 爆弾が命中する度、甲板に穴が空き、火災が発生する。

 ダメコンは上に下にと大わらわとなった。


 そして--

「右舷、雷撃機!」

 新たな報告が『エンタープライズ』に響いたが、機銃は先程の急降下爆撃で損なわれており、満足な迎撃も出来ない。

 投下された魚雷は何の因果か、先程魚雷であいた大穴にスルスルと吸い込まれていく。

 それが、『エンタープライズ』への止めの一撃となった。


 TF16(第16任務部隊)のもう一隻の空母『ホーネット』も攻撃を受けていた。此方は艦爆隊が最初の一撃を与えた。

 爆撃を受け、『ホーネット』の甲板は大きな穴が三つも空き、燃え盛っている。


「くっ、直掩隊は何をやっている‼︎」

 『ホーネット』艦長マーク・ミッチャー少将は思わず悪態をついた。『ホーネット』は最早空母としての能力は失っていたが、応急修理によって着艦程度は出来る様になるかもしれない。その為にはこれ以上攻撃を受ける分けにはいかなかった。


 急遽ミッチャーの耳に見張り員の声が聞こえてきた。

「左舷雷撃機!」

「取舵いっぱい!」

 脳を経由せず、条件反射的に対処し、命令をだす。

「つっ⁉︎右後方にも雷撃機‼︎同時攻撃です!」

「何⁉︎機銃は?」

「先程の爆撃で半分以上がやられています」

 答えたのは副長のメイソンだった。

 ミッチャーは空を仰いだ。

「ここ迄か……」

 その直後、ミッチャーを衝撃が襲った。


 この『ホーネット』は東京奇襲も行った名誉艦である。その武運も此処で拙く尽きようとしているのか……。

 ミッチャーはそれならば『ホーネット』と運命を共にするのも自分の定めだろう、と目を閉じた。


 米空母の残る一隻である『ヨークタウン』も波間に消えようとしていた。『ヨークタウン』は珊瑚海海戦にも参加しており、その際に中破の損害を受けていた。

 ハワイにおいて、必死の修理をした結果、何とかこの短期間で使える様に成ったものの、無理をしていることは否めない。


 その為か、三発の爆弾をくらいボイラー室に火災を起こした。速度がガクンと落ちた艦は艦攻の格好の標的である。攻撃機四機が右舷と左舷から挟み撃ちの形で雷撃を仕掛け、左舷に二発の魚雷を命中させた。

 『ヨークタウン』は左舷に大きく傾き、総員退去が命じられた。


 併し米軍もやられっぱなしでは無い。米空母三隻は帝国海軍の攻撃を受ける前に、その艦載機をほぼ全て発艦さしていた。

 そして六時五○分、デバスター雷撃隊が機動部隊上空に到達した。だが、この雷撃隊にはワイルドキャットの護衛が着いておらず、零戦は易々と撃墜していった。


 その後、またもや雷撃隊が攻撃を仕掛けて来たが、これも圧倒的多数の零戦に阻まれた。


 だが、機動部隊が雷撃機に気を取られている間に忍び寄る影が有った。ドーントレス爆撃機である。ドーントレスはその場で最も大きい艦に狙いを定めた。『加賀』である。


 『加賀』はかわそうと舵を切ったが、何しろ巨艦なもので反応するには時間がかかる。結局爆弾を三発受けてしまった。その内一発が艦橋付近に命中し、大爆発を起こした。


 南雲中将は『加賀』の燃え盛る様に呆然としていたが、まだ危機は去ったワケでは無い。ドーントレスは今度は『赤城』を狙って急降下爆撃を仕掛けた。


 ドーントレスが去った後、『赤城』艦橋には被害状況が知らされて来た。

 『蒼龍』はその俊敏さを活かしてドーントレスの爆撃を全て至近弾に終わらしていた。

 『赤城』は甲板に一発爆弾を喰らったが、大した被害も無く、半時間後には空母としての機能を取り戻すとの報告を受けていた。

 だが、『加賀』は未だ消火が不完全であった。オマケに艦橋が吹き飛んだせいで音信不通と成っていた。


 江草少佐から『敵空母二隻撃沈確実。一隻大破』との報告が送られ、『赤城』艦橋の沈んだ空気が払われるのはこの直後である。


 機動部隊はミッドウェイ攻撃から帰還した機体を『赤城』『蒼龍』『飛龍』で収納し、直様第三派攻撃隊として出撃させた。

 第三派攻撃隊は見事『ホーネット』に止めをさした。


 併し、『加賀』は救い用が無く、一三時に正式に廃棄が決定した。『加賀』沈没は格納庫内の陸用爆弾に誘爆したのが原因であると推定された。

 『赤城』も換装予定であった陸用爆弾が格納庫にあり、爆弾が少しずれていたら『加賀』と同じ道を辿っていたかもしれなかった。

 コレを聞いた南雲中将は顔を真っ青にしたが、直ぐに安堵の息を付いたと云う。


 陸軍は、翌日ミッドウェイ攻略作戦を実行した。たが、『獏鸚』と機動部隊に散々痛めつけられた米軍は真面な抵抗も出来ず、その日の内にミッドウェイは陥落した。

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