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初陣

 昭和一六年七月、日本は南部仏印に進駐していた。そして同月には、それへの報復として、日本は連合国による石油輸出禁止政策を喰らい、大打撃を受けていた。


 そして一一月二六日、米国はこれまでの日米政府の交渉を無視する形となるハル・ノートを日本政府に提出した。日本はこれを米国の最後通牒と見なし、開戦を決意した。


 一二月八日、日本は英領マレー半島及び米国の真珠湾へと攻撃をかけた。これにより日本と連合国の戦争は始まった。

 特に真珠湾では日本海軍は、機動部隊による奇襲攻撃に成功した。そして戦艦四隻撃沈四隻大破の大戦果を上げた。

 更には、マレー沖海戦で九六式陸攻及び一式陸攻が英国東洋艦隊を沈め、最早航空兵力の世であることを世界に知らしめした。


 そして昭和一七年一月十日、南方に向かう大規模な艦隊の姿があった。連合艦隊の空母機動部隊である。

 艦隊の中に一際小さい艦が数隻あった。それこそ日本海軍の新兵器『獏鸚』である。『獏鸚』は正確には六隻あった。それぞれ八機、計四八機の『黄鷲』を装備している。


 目標地であるラバウルの二一○浬手前で、南雲中将は発艦命令を出した。各空母から零戦、九九艦爆、九七艦攻が飛び立って行く。

 巡行速度は最も遅い九七艦攻が一四二(ノット)である。それに対して『黄鷲』の飛行速度は三二三節あった。倍以上の速さである。

 その為、『黄鷲』の発射時刻は航空機が発艦してから一○分後とし、航空機突入の半時間前に突入することとしていた。


 -果たして山本長官の思うとおりに行くかな……

 南雲中将は『黄鷲』の性能に疑問を持っていた。試射は上手く行った様だが、実践でも上手く行くとは思えない。何せ飛行爆弾などという奇妙なものである。この度の『黄鷲』の攻撃は南雲中将から見れば正に博打であった。


 そんな南雲中将の心中知らず『黄鷲』は次々に発進に成功した。最初に四機ずつ発射し、十分後射出機へ新たな『黄鷲』を装填し、発射した。


 第一派攻撃隊が道半ばを過ぎた頃、彼らの翼の下を物凄い速度で追い抜いて行った影があった。

「あっ⁉︎今本機を追い抜いて行ったのがありました!あれが『黄鷲』じゃないですか⁉︎」

 九七艦攻に乗っていた松崎大尉が、不意に声をだした。

「『黄鷲』に見惚れて事故を起こさん様にな」

 淵田美津夫中佐が云うと、松崎大尉は笑いながら返した。

「そんなヒマ無いですよ。何せ物凄い速度で遠ざかって行きますもん」


 ラバウルでは今まさに戦闘機が飛ばんとしていた。

 遂に日本軍がここまで来たか、それがラバウル兵の心中であった。飛行場には戦闘機、爆撃機、雷撃機がズラリと並び、必ずやジャップを仕留めんと兵の士気は高い。


 戦闘機が数機飛び立った時であった。彼らは前方より高速で来たる飛行物体を発見した。

 もしや日本軍の新型爆撃機か!と搭乗員であるフォントは思った。彼はそれ(・・)と一旦すれ違い、旋回して後ろを取った。相対速度を落とした上で撃墜しようとしたからである。

 併し、それ(・・)は予想だにしない行動を取った。基地に自ら突っ込んだのだった。

 な、なんでことをしやがる‼︎ジャップの奴らは人の命を何とも思っていないのか⁉︎フォントは驚愕した。


 勿論(オーストラリア)兵が爆撃機だと思ったのは飛行爆弾『黄鷲』である。読者諸氏も知っての通り無人機なので、日本軍の人的被害は零なのだが、スッカリ有人機だと思い込んでいる豪兵は混乱状態に陥った。

 そこに二発目の『黄鷲』が基地に突入した。それは飛行場のど真ん中に命中し、暫く使用不可にした。


 目下の光景に呆気に取られていたフォントであったが、直ぐ側を影が通り過ぎたのに気付き、ハッとした。

 -これ以上やらせはせん!

 フォントは決意して、爆撃機を今度こそは撃墜しようと遮二無二喰いついた。だが、『黄鷲』の方が明らかに優速であった。先ほどと同じ様にフォント機はグングン引き離される。破れかぶれに銃弾を放ったが、そんなものは当たるはずもない。


 フォント機の銃撃をすり抜けた『黄鷲』は幸運な-豪軍にとっては不運な-ことに、燃料満載で待機していた爆撃機の列に突っ込んで行った。

 途端に大爆発が起こった。更には次から次へと誘爆を起こし、消化しようとする豪兵すら飲み込まんとせん程の大火災になっていた。


 これではもう駐機は使い物にならないだろう。無事なのは爆撃機が来る前に、飛び立っていた七機の戦闘機のみだ。これでは日本軍の本隊の攻撃を防ぎきれん‼︎フォントは絶望的な気分になっていた。


 淵田中佐率いる第一派攻撃隊がラバウルに着く頃には全てが終わっていた。敵基地の至る所から煙がモクモクと上がり、敵基地は大火災と大破損により暫く使えないであろうことは明白である。

 迎撃に向かって来た敵機も一○機足らずであり、護衛の零戦が瞬く間に空戦に巻き上げ、これらを撃退した。

 零戦は一機を撃墜されながらも、敵機を全て撃墜した。


 基地対空放火はまだ健在であった。だがそれも、爆撃機と攻撃機の猛攻に晒され、直ぐに沈黙した。

 淵田中佐は機動部隊に当て『第二攻撃ノ要ナシ』と打電した。


 淵田中佐から送られて来た電文を受け取った『赤城』艦橋は俄かに揉めた。

 結局第二派攻撃隊は爆弾を装備しており、索敵で敵空母も見つけられなかったことから第二派攻撃隊は出された。だが、敵基地は徹底的に破壊された後であり、第二派攻撃隊は無駄に爆弾を消費して帰艦した。


 機動部隊の帰投後、報告を聞いた山本大将はニッコリ笑ったという。

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