布哇防衛戦-下
「思ったより被害が多いな」
スプルーアンス中将はそう呟いていた。
日本軍の陸攻による二度に渡る攻撃を受け、米空母部隊は『タイコンデロガ』『ワスプ』が沈没し、『ハンコック』が大破『ベニントン』が中破と云う損害を受けていた。
だが、ハワイ、オアフ両島の飛行場は全て爆撃しており、攻撃隊にも多大な損害を与えた。少しの間は再度の攻撃は無いと思って良いだろう。
よし、オアフ島飛行場に再度攻撃隊を出して、徹底的に叩く!スプルーアンスは第三派攻撃隊を出す様に指示した。
その時既に日米軍は、攻防それぞれ二度に渡る激戦を繰り広げていた。併し、まだ現地時刻で一三時を少し過ぎた程度であった。
スプルーアンスはオアフ島飛行場はあまり損害を出していないと見ていたが、正にその通りで有った。これは、燃えやすい航空機は上空に避難しており、燃料は半地下式であった為である。
米軍は日が暮れるまで都合五派にも渡る攻撃をハワイ、オアフ両島の飛行場に行った。
帝国海軍も、午後に第三派攻撃隊を出したが、真面に迎撃に会った。併し、それでも闘気逞しい帝国軍人、軽空母『プリストン』を撃沈、『カウペンス』を大破させた。
日没に入る頃には、米軍は第二派攻撃隊で中破の損害を被った『ベニントン』の修理を完了させ、発着を可能とさせた。
これで米軍はエセックス級空母『ホーネット』『フランクリン』『ランドルフ』『ベニントン』『シャングリラ』、インディペンデンス級空母『バクーン』『サンジャシンイ』が作戦行動可能となっていた。
又、復仇の見込みが無いとされた『ハンコック』は駆逐艦二隻を護衛に付け、西海岸へ引き上げさせている。
『カウペンス』は夜明け迄に復仇の見込み有りとされ、現在急ピッチで修理を行っている所である。
これで夜明けには再び攻撃を仕掛けられる!その後の機動部隊との海戦も跳躍爆撃を活用すれば例え装甲空母が相手だろうと大損害を与えることが出来る!スプルーアンスは作戦の成功を確信していた。
現地時刻四時には、『カウペンス』の修理も完了し、スプルーアンスの手元にはエセックス級空母五隻、インディペンデンス級空母三隻が存在することとなった。
その時である。アイオワ級戦艦『アイオワ』の対空レーダーが敵影を捉えた。
「方位零度より、敵機編隊接近!三○○ノット以上は有り、十分後には艦隊上空に到着すると思われます」
「高角砲、機銃、射撃用意!」
スプルーアンスは叫びながら、脳裏に一つの可能性が浮かばせた。この速度、真逆-あの自爆兵器か⁉︎併し、アレはドイツがロンドン爆撃に使ったロケット兵器と同じはず。とても艦相手に使える物では無い筈だが。
既にV1ロケットによる倫敦爆撃は行われており、米国は日本がラバウル、ミッドウェイ、ハワイで使っていた兵器がなんであるかに予想が付いていた。
だからこそスプルーアンスは信じられなかった。目の前で航空機に突っ込まれた空母が燃えている状態が。
そう、諸君これこそが、この空母に突っ込んだ航空機こそが、草鹿中将が云っていた『秘密兵器』である。
名を『若鷹』と云う。
『若鷹』は『黄鷲』と同じ飛行爆弾で、大きさや速度、射程距離は前身となった『黄鷲』と同じである。違うのは、火薬量と、目標である。
『若鷹』は小型対艦電探を弾頭に付けている。『若鷹』に装備している電探は未だ日本の工業技術ではとても作ることの出来ない物であった。その為一切を独逸より印度経由で輸入している。
併し電探を積む代償として、『若鷹』の火薬搭載量は『黄鷲』より更に少なくなり、一○○キロと、二五番爆弾相当と成っている。
更に命中精度の問題で、戦艦や大型空母と云った大型艦しか狙え無かった。又、電探を小型化した影響で、悪天候時には使えない等決して使い勝手が良い物では無かった。
併しこの場合は先ず問題無い。狙うはエセックス級空母で有り、現在は晴天の夜である。
更にはエセックス級空母の甲板上には航空機が露天駐機していた。その為、燃える燃料にはことかけなかった。
又、その攻撃方法も違っていた。『黄鷲』は目標地点に接近すると、エンジンが自動的に止まり、滑空状態で突入する。
だが、『若鷹』は電探で敵影を捉えると、エンジンが止まらず、機首を下方に向ける形となり、高度を下げる。これは落下時間を短くして、相手の回避を不完全なものにすることが狙いである。又、『若鷹』にはある程度の追尾能力が有る為でもあった。
『若鷹』は当然『獏鸚』から発射されるのだが、『獏鸚』が今まで何処にいたかと言うと、敵の爆撃を逃れに北方へと退避していたのだ。これは昼間に『若鷹』による攻撃を実施しても一定以上の効果は無く、露天駐機している米軍には夜間に爆撃を行った方が良いと草鹿中将が判断した為であった。
だが、エセックス級空母には、夜戦専用に改造されたF6Fヘルキャットがいた。迫り来る『若鷹』をヘルキャットは必死に迎撃しようとしたが、最初に一撃離脱式に攻撃を加えた後は、真面に撃墜出来なかった。搭乗員は未だ夜戦に慣れているとは言えなかった。
猛威を振るったのは対空砲火である。『若鷹』はその特性上急降下爆撃に近い形で突入した。これの迎撃は米軍の得意とする形である。『若鷹』は直進的な動きしか出来ないことも有り、次々と撃墜されていった。
だが、米空母も昼間の戦闘で機銃や高角砲に損害が有った。それは迎撃の壁に綻びを生じさせていた。
『ベニントン』が最初の被害艦となった。『若鷹』は狙ったかの様に、露天駐機している機体に吸い込まれていく。一拍遅れて爆音が響き渡った。続けて誘爆が次々と起こる。『ベニントン』は瞬く間に空母としての能力を失ってしまった。
続けて『ランドルフ』『シャングリラ』に『若鷹』は命中した。一機命中すると、不思議と二機、三機と命中し、両艦は大破の損害を負った。
これは、自艦から吹き出る黒煙によって視界が遮られた為に迎撃が困難になったからであった。
『若鷹』は三隻に命中しただけで終わったが、三隻共が大破の損害を受け、作戦行動が不可能と成った。
いや、これで終わりでは無い。第二派の『若鷹』がレーダーによって捉えられた。
対空砲火はしゃかりきに弾丸を撃ちまくったが、『若鷹』は既に大破していた『ランドルフ』『ベニントン』に突っ込んだ他、『フランクリン』にも命中し、この艦にも大破の損害を負わせた。
スプルーアンスは茫然自失としていた。僅か二○分でエセックス級空母四隻が大破の損害を受け、作戦遂行可能な大型空母は『ホーネット』已となったのだ。
スプルーアンスは最早ハワイ攻略作戦は失敗だ!と悟った。これでは例え上陸部隊を上げることに成功しても、続く機動部隊との海戦に確実に敗北する。
スプルーアンスは退却を決意した。
帝国陸海軍は、布哇基地航空隊に甚大な被害を受けながらも、米空母部隊に勝利を収めた。
そして十一月、戦争の終結を訴えるトーマス・デューイは共和党の代表として、大統領選挙に出、ルーズベルトに勝利した。
特に空爆の脅威にさらされていた西海岸の州は、軒並み共和党一色に染まっておりいた。
こうして米国は、昭和二○年十一月に日本との対話のテーブルに座ったのである。
この作品、ミサイル艇『獏鸚』は僕の始めての完結作である。
折角なので、この作品の裏話でもさせてもらいたい。
架空戦記創作大会2016秋に参加するにあたり、最初は、駆潜艇や魚雷艇、潜航輸送艇を書こうと思っていたのだが、どうも良い話が思い浮かばなかった。
その時ふと目に止まったのが、ソ連のミサイル艇であった。
当時では艦対艦ミサイルは無理でも艦対地ミサイルなら可能なのでは?と思ったわけである。(最後には艦対艦ミサイル出てくるけれども)
この作品は最後四日連続で投稿しているが、これは僕の見込みが甘かった為である。(最初は東太平洋海戦を一話で終わらすつもりであった)
戦略としてはオーソドックスな代物であるが、楽しんでいただけたのであれば、何よりである。




