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飛行爆弾

山口多聞さん主催架空戦記創作大会2016秋参加作品です。

「飛行爆弾⁉︎」

 昭和一三年二月一七日、海軍次官室にて山本五十六海軍中将は、思わずそう聞き返してしまった。村上友二海軍大佐は山本中将の言葉に頷いた。彼は航空技術視察の為、欧米に渡っていて、つい先日帰国したばかりであった。


「はい。独逸のパウル=シュミットという科学者が私に話したことです。何でも噴霧状のガソリンを空気と混合して、それを点火。そうすることによって爆弾に推進力を持たせることが出来るそうです」


「ほう、面白そうではないか。しかし実用化出来るのかね?」

 山本中将がこう尋ねると、村上大佐は俄かに顔を曇らせた。

「いえ、それが少し怪しいのです。何せ独逸空軍にも色よい返事は貰えなかったそうですし」


「フム。それで飛距離はどの程度なんだ」

「はい。なんでも三○○キロ飛ばす、と云っていました」


「三○○キロというと、だいたい一七○浬か。その博士も実現可能と見たから君にも話しかけたのだろう。ヨシ、ではその飛行爆弾とやらを開発してやろうではないか」

「ほ……本気ですか⁉︎敵艦に命中させるのは随分と難しそうと思いますが」


「艦を狙うのではない。敵基地を狙う。その為、多少の命中精度の粗は問題ない。」

 山本中将はそう言ってのけた。確かに彼の云う通りに運用するなら問題はない。いや、一点だけある。


「しかしそれだけでは敵基地を壊滅出来ないでしょう。敵の水際にある基地を狙ったら上陸部隊に誤射してしまうかもしれませんし」

「うん。機動部隊と共に使うつもりだから問題ない。航空攻撃に先立って攻撃するつもりだから、上陸舞台にはあたらん」


 それを聞くと、村上大佐は俄かに納得した。だが実はもう一つ問題が残っていたのだった。

「搭載する艦はどうするのですか?真逆空母から発射と云うわけにもいかないでしょうから」


 山本中将はそれを聞くと、大きく頷いた。

「実はそれなんだが、本音を言うと戦艦に載せたいのだがな。艦載機を降ろせば十分なスペースは作れる。だが、艦政部が納得せんだろう。だから新しい艦を作ることにする」


「あ、新しい艦ですか……。いや、それこそ艦政部が納得しないでしょう」

 山本中将は寧ろそれを聞いて、嬉しそうに笑った。彼は自信満々に村上に告げた。


「建造するのは艇だ。これなら量産も短期間で出来る。建造費も安く済むから艦政部も納得しやすかろう。彼らも南方では資源地を狙うつもりだろうからな」


 村上大佐は納得した。南方の港湾や飛行場を破壊するのにも、確かに飛行爆弾は使える。


「そうなると、同時に設計する必要がありますね……」

「ウム。飛行爆弾あっての飛行爆弾搭載艇。搭載艇あっての飛行爆弾だからな」


 それから山本中将はチョイと付け足した。

「このことはまだ秘密にしておけよ。お偉いさんに見つかったら一笑に付されるだけだろうからな」

「確かにそうですね。分かりました」

 村上大佐は笑いながら返事をした。


 こうして飛行爆弾及びその搭載艇の開発が始まった。


 パウル博士は自分の考案した飛行爆弾を、日本が開発しようとしていると聞き、快く技術を提示してきた。ライセンス契約もスムーズに取れた。


 そのおかげもあり、飛行爆弾の開発計画は順調に進んで行った。


 同じ頃、独逸も飛行爆弾の開発に尽力していた。独逸版飛行爆弾は、火薬が八五○キロあったが、総重量が二瓲にもなっていた。

 だが、日本は火薬を二五○キロにし、五○○キロ爆弾相当の破壊力で我慢する代わりに、全体の重量の大幅な軽減に成功していた。


 また、射出機(カタパルト)は大砲の技術を応用して、火薬を爆発させて一気に加速させることとした。無人機なので、其れ迄の射出機のように搭乗員の為に加速を抑える必要が無かった。


 こうして、昭和一六年八月には、独逸から本場の飛行爆弾の技術提供を受けたこともあり、飛行爆弾、飛行爆弾搭載艇の設計図が完成した。


「まるで飛行機だな」

 とは、山本大将-昭和一五年一一月に昇進していた-が飛行爆弾の設計図を見た時に思わず漏らした言葉である。これは仕方のないことである。飛行爆弾には、回転数で距離を測る為、プロペラが付いていた。その上、機体を安定させる為に翼も付いていた。


 山本大将の尽力もあり、同年十月には飛行爆弾の実施試験が行われた。この試験では、飛行爆弾は八機用意された。射出機も四機用意され、二回にわたり飛行爆弾は発射された。


 飛行爆弾は八機とも発射には成功した。一射目は、二○○浬先の目標の半径一キロに入ったのは僅か一機のみであった。残りの三機は半径一○キロ内にずれてしまっていた。

 二射目も同様の結果となった。


 有効範囲への命中率は二割五分と決して良い数字では無かったが、誘導技術の無い時代である。仕方なかった。

 しかしながら、二○○浬先から一方的に攻撃を加えられるということは、魅力的であった。


 更にはオクタン価の低い燃料でも十分に作動し、資源の無い日本にとっては都合が良い。飛行爆弾自体も簡易な作りとなっている為、量産が効いた。おまけに飛行爆弾搭載艇も水雷艇のように重装備ではない為、値段が抑えられた。


 飛行爆弾には、『黄鷲(きわし)』、飛行爆弾搭載艇には、『獏鸚ばくおう』の名が付けられ、量産に向かい大きく動いた。


 飛行爆弾『黄鷲』

 全長六(メートル)

 全幅三.五米

 重量一二○○キログラム

 最大速度三二五(ノット)

 航続距離二○○浬


 飛行爆弾専用火薬式射出機

 全長二○米

『黄鷲』を二○五節で射出可能


 飛行爆弾搭載艇『獏鸚』

 全長八八米

 全幅五○米

 基準排水量五八二瓲

 装備

 二五(ミリ)三連装機銃四基(船首、船尾、艦橋両脇)

 飛行爆弾専用射出機四基(艦橋前方に連装式で四基)

『黄鷲』八機

 最大速力三○.二節

 航続距離一六ノットで五○○○浬

 前方に二○米もある射出機を縦に二基搭載しているので、艦橋が随分と後ろの方になっていた。


『獏鸚』は年内に五隻が建造されることとなり、愈々間近に迫ろうとしている英米との戦争に向けて南方方面攻略作戦に使われることとなった。


 だが、山本大将の眼はあくまでも東に向けられていた。『獏鸚』の航続距離が異様に長く作られていたのはこの為であった。

この作品は開催期間中に完結さすつもりです。


完結次第『帝国の矛』を書き進めますので、彼方の方は暫しの間待っていて下さい。

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