プロローグ
一話3000字くらいで投稿する予定です。
プロローグ短めはご容赦を。
大輔たちの幼馴染、緑川奈々が、パーティもいよいよ終盤と言ったところで両手をいっぱいに上げて会場の皆の注目を集め出した。
「ちゅうもーく!ちゅーもーく!ここで!有馬学園の歴史に名を刻んだ体育祭勝利の第一の功労者である風間大輔君から、第二の功労者である我らがアイドル高島美遊さんへ、一言あるそうですよー!」
奈々がまた調子に乗り始めた!
パーティ会場から一気に歓声と拍手が上がった。
「バカ!何言ってんだよ!」
大輔は横でイエーイと両手を上げながら生徒を煽る幼馴染に小声で注意した。
しかし、大輔の気も知らず、大勢の注目の中、美遊は大輔の前まで平気で歩いて来た。
なんで高島さん来ちゃうんだよ!
ちょっと、悟、助けて……
大輔は悟の方を向いた。
しかし、悟は大輔の意に反して、ニヤニヤと親友が狼狽するのを楽しむかのように笑っていた。
この瞬間、大輔は思った。
終わったなと。
「一言って?」
美遊は大輔の前までちょこちょこと歩いてくると、大輔に疑問顔で問いただした。
いつの間にか、騒がしかった会場は、まるで2人の声を一字一句聞き逃さないようにしているかのように一気に静かになった。
会場にいる有馬学園の二学年全生徒が2人の動向に注目している。
仕方ない、こうなったらやるしかない!
大輔は無い勇気を引き絞って、震える声を喉の奥から絞り出した。
「あの!高島さん!1年の時から言いたいことがあって」
「え?あ、うん」
いきなり大きな声を出した大輔に少し美遊はびくついたが、真剣な大輔を見てすぐに何かを感じ取ったのか、美遊は急に下の方を向いて塩らしくなった。
会場には普段見せない大輔の緊張した姿に思わずくすくすと笑いが起こる。
「だ……だ……」
目が虚ろな大輔は「だ」を数回連呼した。
だ?
と美遊も含め、会場の全員が頭に疑問符を浮かべた。
大輔はもうすでにこの時、頭が真っ白になっていた。
「抱かせてください!」
彼の発言に一気に静まり返った会場に、平手打ちの大きな音が響き渡った。
誰もが唖然として声も出せずにいた。
あの冷静な大輔がまさかこんな大きな間違いを犯すなんて
と誰しもが思った。
変態とだけ言い残し、うつむきながら、美遊は大輔の前から姿を消して人ごみの中に消えていった。
美遊が大輔の前からいなくなると、途端に会場は緊張から解放され、爆笑の渦に巻き込まれた。
あの大輔がフラれた。
それだけで凶悪なネタなのにも関わらず、大輔が放った一言が強烈すぎた。
大輔に近しい人達は大輔を取り囲み、なんであんなことを言ったのかとケラケラと笑いながら問いただした。
そして、それに耳を傾けるかのように、さながらエサに群がるアリのように生徒たちは大輔のまわりに集まった。
しかし、大輔は放心状態で全く彼らの問いに答えられなかった。
彼はその場に立ちすくんで全く動けずにいた。
後の本人曰く、何故自分がそういった発言をしてしまったのか、一切の記憶がないという。